「ビッグマック指数」をご存じだろうか?マクドナルドの「ビッグマック」のように同じ材料で同じようにつくられているものは同じ値段であるはずなのに、実際には国によって異なる。
ということは「ビックマックの値段」を各国で比較すれば、「その国の購買力がわかる」という考え方だ。
確かにそれは一理あるかもしれない。だが同じようにつくられるものでも、国の文化的背景などによってまったく値段が異なるものがある。
たとえばインドのトイレットペーパーは1ロール約150円!これは世界20カ国に在住する日本人ライターたちの協力を仰いだ拙著『値段から世界が見える! 日本よりこんなに安い国、高い国』(朝日新書 2012年)で、担当編集者と私が一番驚いた値段だ。
どう考えたって日本よりも物価が安いインドで、トイレットペーパー1ロールが約150円!あれこれタブーが多い食事(たとえばまさにそのインドに多いヒンドゥー教徒は神聖なる牛は食べないのでビッグマックは決して「一般的」な食べものではない)と違い、トイレットペーパーには宗教的制約などないはずなのに、このべらぼうな値段はどうしてだろう?
もちろんこれにはカラクリがある。多くのインド人は事後、トイレの横に備え付けられている手桶かシャワーの水で洗い流したあとは「自然乾燥」。トイレットペーパーは外国人のみをターゲットに売られている「貴重品」なので自然と高価になるのだ。
というわけで「ビッグマック指数」もいいが、ある国で日本と比べて妙に安いもの・高いものを調べればその国の隠れた社会事情がわかるはず。
特に「安いもの」からはその国の政府、そして国民が「何を安くするべきか」、つまり「何を全国民が等しく享受できる状態にするべきか」と考えていることが見えてくるはず(たとえば大学までの教育費が一切かからない国であれば「教育こそが最も大切」と考えていると理解できる)。
前置きが長くなった。前回の「タイ編」に続き、今回は筆者が住む「オーストラリア編」だ。
「1000円でランチ」はかなり難易度が高い
まずは政府や国民が「何を大切にしているか」というヴィジョンの前に、生きるためにどうしても必要な「食事」を見てみよう。残念ながらオーストラリアでの外食は概して高くて、日本から来た人は目を回すだろう。
「フィッシュアンドチップス」などの「魚介類のフライとフライドポテト」の組み合わせは「手軽な食事」の代名詞だったが、そこらの店でも1500円することが増えた。
街中の気軽に入れる食堂的レストランでもランチで2000円近く(だから「気軽に入れる」という表現には少し躊躇する)。
フードコートなどでも1000円以下の食事メニューはほとんどない(直径4センチ×長さ10センチのカリフォルニアロール的「中巻き寿司」は1本300~400円程度だが、当然1~2本では満腹にならない)。
ビッグマックセットもおよそ1150円。また自販機の360ミリリットル入りペットボトルの清涼飲料水は約360円もする。
以前紹介した「中巻き寿司」はお手頃なこともあってかオーストラリア人に大人気。
そんな中、つい最近(2023年1月上旬)までマクドナルドの競合であるハングリージャックス(商標登録の関係で名称は異なるが日本のバーガーキングと同じ)が「チーズバーガースーパースタナー」というセットメニューを4豪ドル95セント(約450円)で販売していた。
その内容はチーズバーガー、チキンナゲット3ピース、フライドポテト小、コカコーラなどの炭酸飲料(小)に、なんとコーンに入ったアイスクリームというデザートまでついた豪華品だ。
今はなき「チーズバーガースーパースタナー」。かつての日本マクドナルドの「サンキューセット」をしのぐコスパだった。
「あれはもう〈ファーストフードのフルコース〉だよな」とは友人のジョージの弁。なるほど言い得て妙である。
同様にKFCの競合の「レッドルースター」も、少し小ぶりのフライドチキンバーガー(クリーミーソースとシャキシャキレタスがいいアクセントになっていて絶品)、手羽先のフライ、フライドポテト小のセットを4豪ドル95セント(約450円)で販売していた(ドリンクはつかず)。
これで4豪ドル95セント(約450円)。だがこの写真を撮ったわずか数日後に店に行ったらなくなっていた。
「あまり知られていないけど〈タップウォーター(水道水)をください〉って言うと無料でもらえるから、それならランチも4豪ドル95セント(約450円)で済む」
これまた友人のジョージの弁。私は彼を心の中で「節約王子」と呼んでいる。
いずれも私のような庶民の味方であったが、ウクライナ戦争などによる原材料の高騰が原因か、忽然と姿を消してしまった。
「でもマクドナルドを含めたファーストフード店のソフトクリームはだいたい80セント(約70円)くらいだからまだまだねらい目だよ。4回くらいお替りすればそれなりに腹はいっぱいになる」
丈夫なジョージがうらやましいが、普通の人が真似したら腹いっぱいどころか腹を下すことになるかもしれないので注意が必要だ。
ちなみに自動販売機で売られている600ミリリット入りのソフトドリンクは4豪ドル(約370円)。特に暑い日は絶対にウォーターボトルや水筒を持ち歩いたほうがいいだろう。