こんにちは。弁護士の林 孝匡です。
宇宙イチ分かりやすい解説を目指しています。
今回は裁判例を解説します。
ある社員さんが上司をボコって会社から8日間の自宅謹慎を命じられたんです。会社はその期間中の給料を払わず。そこで社員さんが「払えよ」と訴訟を提起。
~ 結果 ~
裁判所はザックリ「ボコったのはアカンけど自宅謹慎中の給料を払え」と命じました(日通名古屋製鉄作業事件:名古屋地裁 H3.7.22)以下、くわしく解説します。
登場人物
会社は新日鉄名古屋製鉄所における製品などの荷役作業を行っていました。
Xさんは大型自動車の運転手です。仕事内容は製鉄所内の構内輸送をしていました。
暴行事件
ある日の昼下がり、暴行事件が発生。Xさんと作業長Aとのイザコザです。Xさんがタバコ休憩に入ろうとしたところ作業長Aは命令口調で「休憩する前に作業をもう1回やれよ」と言いました。しかしXさんは軽く無視。そのまま休憩に入りました。なかなかのツワモノですね。
Xさんが昼食のあと同僚とソフトボールをしていたところ、作業長が「チョッパーはあとでいいから午後はオイル交換をやってくれ」と指示を出しました。この言い方にXさんはカチンときたようです。
▼ Xさんがキレる
Xさんは「何だ何だ!」とA作業長を追いかけ、「同じ作業長なのに何でオマエは俺に命令するんだ」「オマエは俺に恨みでもあるのか」「無理に仕事を作らなくてもいいではないか」と詰め寄りました。するとA作業長は「私には君に指示を出す権限があるんだ」と反論しました。
するとXさんは、作業長Aの胸ぐらをつかんで首あたりを強く押さえつけました。それに驚いた同僚たちは2人を引き離しました。その直後、作業長Aは余裕の行動を見せます。薄ら笑いを浮かべながら逃げたんです。
Q.
本当に薄ら笑いを浮かべてたんですか~?盛ってるでしょw
A.
マジですって!ほら
ここまで小説的に書かれた判決文めずらしっ。
さて、Xさんは作業長Aを追いかけて、重さ4キロの鋼鉄製の表示版を振り上げて殴りかかろうとしました。これもうヤンキー漫画です。「湘南純愛組」です。これも同僚に止められました。
まだ止まりませんよ。さらに追いかけて、作業長Aの胸ぐらをつかんで竹ぼうきで殴りかかりました。ヤンキー漫画です。「特攻の拓」です。それも同僚が引き離しXさんをなだめて一旦は収まったんです。
その後、仕事をスタートさせましたが、Xさんの腹の虫は治まりません。作業場でAを見つけると文句を言っていました。そして、ふとした時に作業長Aが首を押さえながら「病院いくわ」と言ったとき、瞬間湯沸かし器が発動。Xさんがスコップを振り上げて殴りかかろうとしました。ヤンキー漫画です。「今日から俺は」です。しかし、すぐに同僚に止められて事なきを得ました。
3連チャンのヤンキー漫画を食らった作業長Aは早退して病院へ。全治約1週間の左肩打撲との診断を受けました。
自宅謹慎命令
このイザコザを聞いた会社は「処分が出るまで自宅謹慎だ」との業務命令を出しました。8日間の自宅謹慎期間中、給料は出ませんでした。
その後、Xさんには譴責処分と降格処分(作業長から副組長へ)が出されました。
Xさんは訴訟を提起。「自宅謹慎中の給料が払われてないから払え」というもの(その他、降格処分は無効だ、待機命令は無効だなどいろいろ主張してますが割愛します。すべて棄却されてます)
裁判所の判断
裁判所は会社に対して「自宅謹慎中の賃金約3万9500円を払え」と命じました。
▼ 理由
業務命令による自宅謹慎なら、原則として給料を払わなければならないんです。今回の会社のように、懲戒処分の前置き措置として自宅謹慎させるケースが多いです。
払わなくていい場合は、不正行為の再発、証拠隠滅のおそれがあるなど緊急かつ合理的な理由がある場合に限られるんです。
この会社では運用として、懲戒処分が出るまでの間は自宅謹慎にして、懲戒処分が出た場合、自宅謹慎期間中は欠勤扱い(給料を出さない)という取り扱いをしていたようですが、裁判所は「ダメだ、給料を払え」と判断しました。
▼ 懲戒処分としての自宅謹慎
これに対して、懲戒処分としての自宅謹慎なら給料は出ないです。懲戒処分の前置きとして自宅謹慎を命じられるわけじゃなくて、ズドンと懲戒処分として自宅謹慎処分が出されるケースです。この場合は給料が出ません。
▼ これで自宅謹慎処分って、重くない?
と感じるケースがあるかもしれません。「権利濫用だ!」と争えることもあります。過去の裁判では、保母さんの事件で裁判官が「3000円の減給でいいじゃん。7日間の出勤停止処分はやりすぎ、無効ね」と判断したものがあります(七葉会事件:横浜地判平10. 11 .17)
さいごに
この会社のように「とりあえず結果が出るまで自宅謹慎ね。給料でないけど」と言ってくる会社があるかもしれません。自宅謹慎を命じられて給料がもらえない方は、自宅にいても暇なので社外の労働組合か弁護士に相談してみましょう!
「こんな解説してほしいな~」があれば下記URLからポストして下さい。
では、また次の記事でお会いしましょう!
取材・文/林 孝匡(弁護士)
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