消費税の納税義務がなかった売上高1,000万円未満の免税事業者が、難しい判断を迫られています。2023年10月1日からインボイス制度が導入されるため。制度開始と同時に適格請求書を発行できる課税事業者となるためには、2023年3月までの申請が必要でした。しかし、9月末に延長されています。行政側も円滑に制度を導入するために試行錯誤を重ねています。
声優やアニメーターなどフリーランスで活躍する事業者からは、税負担が重く批判の多い制度ですが、一部の企業にとっては業績拡大のチャンスでもあります。
インボイス制度で儲けのチャンスを得た会社と、その仕組みを解説します。
仕事を発注する側の処理負担が劇的に高まる
インボイスは主にBtoB取引を行う事業者に影響が出ます。フリーランスが会社と業務委託契約をし、仕事をしているパターンです。美容師やエステサロン経営など、消費者向けのビジネスを展開している人にはほとんど影響がありません。インボイスは適格請求書を発行できるかどうかがポイントだからです。
会社が消費税を納める際、商品やサービスの提供で受け取った消費税から、仕入れにかかった消費税を控除して納税額を決めます。適格請求書は会社が仕入税額控除を受けるために必要なもの。会社が契約しているフリーランス(声優やアニメーターなど)が適格請求書を発行しない場合、その会社は控除を受けることができません。適格請求書には品目ごとに8%、10%の税率を明記されており、会社はそれに応じた控除が受けられます。
これをみると分かる通り、インボイス制度はフリーランスに仕事を発注する会社の経理処理が煩雑になります。適格請求書かどうかの判別、品目ごとの税率のチェックなどを行わなければならないからです。それと同じく、請求書を発行する側のフリーランスも会計作業が面倒になります。
インボイス制度の導入がビジネスチャンスとなるのは、主に会計システムやデジタル請求書を提供する会社です。
インボイス対応の請求書が伸び悩みを解消する起爆剤に
インボイスの大波に乗って成功しているのが、名刺管理システムで有名なSansan。2020年5月にスタートしたクラウド請求書受領サービスBill Oneが好調です。Bill Oneの売上高は2022年9-11月の売上高が4億9,600万円となりました。前年同期間の3.4倍です。
※決算説明資料より
Bill Oneは郵送、メール、アップロードなど様々な形式で発行される請求書を、受領してデータ化。クラウド上で一元管理するというものです。更に紙やPDFで発行された請求書を、デジタルインボイス形式に変換する機能を実装しようとしています。
同社は名刺などの顧客情報をデータ化し、営業力を強化するシステムSansanが主力。しかし、この領域はセールスフォースなどの総合型営業支援ツールに人気が集まっています。2022年9-11月のSansan事業の売上高は前期比14.3%増の48億3,100万円に留まりました。
Sansanの直近の決算説明会において、大半の時間がBill Oneの成長性についての説明に割かれており、経営陣の期待の高さがうかがえます。Bill Oneの2022年5月末のARR(年間経常収益)は13億9,200万円でしたが、2023年5月末には30億円以上に引き上げる目標を掲げています。