リモートワークの普及とともに、社員が自宅や外出先で仕事をする際のセキュリティ(情報漏洩)や端末コストの問題が話題に上がることも増えた。解決策の一つとして、社内の情報システムに「シンクライアント」を導入する企業が増えている。
しかし、コンピュータに詳しくないと、そもそもシンクライアントとは何か、導入のメリット・デメリットがぴんと来ない方も多いだろう。そこで本記事では、シンクライアントの概略を初心者にもわかりやすく解説する。
シンクライアントとは?
シンクライアントは英語の「thin(薄い)」と「client(クライアント端末)」が合わさった言葉。手元の端末(デスクトップ、ノートPC等)にアプリケーションやデータを置かず、ほとんどの処理をサーバー側で管理する仕組み、およびその仕組みを持つ端末を指す。
オラクル社のネットワーククライアントシステムが語源
シンクライアントは新しい考え方ではなく、1996年にオラクル社が発表した「NC(Network Computer)」によって認知度が高まったシステムだ。
端末側の機能を絞ることで当時高価だったPC端末の価格を下げることに成功したが、高スペックなサーバーや安定したネットワーク環境が必要なこと、その後、PCの端末価格が低下したことから、コスト削減目的での導入は進まず、主としてセキュリティ上の優位性から公官庁や医療機関・金融機関等での導入が目立った。
コロナ禍のリモートワークで再注目される「シンクライアント」
その後、サーバー性能が向上し、ネットワーク環境も充実したことから、一般企業でもシンクライアントの導入事例が目立つようになった。特に、新型コロナウイルスの流行でリモートワークが進んだことをきっかけに、再び注目を集めている。
現在のシンクライアントシステムでは、機能を絞ったシンクライアント端末を使用するだけでなく、手持ちのPCをシンクライアント端末として使用するケースもある。例えば、シンクライアントOSをWindows PCにインストールする方法や、USB端末を使用してシンクライアント環境を構築する方法など、事例は多岐に渡る。
シンクライアントのメリットとデメリット
複数の端末をサーバーで一元管理するシンクライアントには、メリットとデメリットの両方がある。
シンクライアントのメリット
シンクライアント端末は、PC本体にOSやデータを置かず、周辺機器からのアクセスも制限できるため、セキュリティ面での安全性が高い。機能を絞った端末は本体価格も抑えられるほか、故障に強い点もメリットと言える。また、アプリケーションのアップデートもサーバー側で一元管理が可能だ。
シンクライアントのデメリット
シンクライアントのデメリットは、管理用のサーバーと端末の設置に初期導入コストが発生する点。サーバーとそれぞれの端末はネットワークで接続するため、大量のアクセスにより、サーバーには負荷が掛かる。
サーバーの不具合がシステム全体に影響する点も注意したい。また、端末側はネットワーク環境がないとサーバーにアクセスできず、機能が大幅に制限される。
シンクライアントの2つの実装方式
シンクライアントの実現方法には、大きく分けて「ネットワークブート型」と「画像転送型」の2種類が存在する。
ネットワークブート型(ネットブート型)
クライアント端末からインターネット経由でサーバー上のOSを起動(ブート)する方法。プログラムの実行や画面表示、入力などは端末側で行うが、アプリケーションやデータはサーバー上に置かれる。
画像転送型
起動、プログラムの実行、データの保存がすべてサーバー上で行われる方法。手元のクライアント端末には、処理過程や結果を示す画面(画像)のみが転送される。仕組み別にさらにいくつかの方法に分かれる。
・サーバーベース型
1つのサーバー上にあるアプリケーションを複数の端末で共有する方法。もっとも低コストで管理も容易だが、ユーザーそれぞれが異なるアプリケーションを利用することができない。
・ブレードPC型
CPUやメモリ、HDDなどを搭載したブレード(物理的な電子基板)をユーザーの数だけ用意し、サーバーで一括管理する方法。アプリケーションを個別に利用できるメリットがあるが、サーバーベース型よりも初期コストが高くなる。
・VDI型
仮想技術(仮想化ソフト)を利用して、1つのサーバー上にユーザーの数だけ仮想環境を構築する方法。ユーザーはそれぞれの環境で個別のアプリケーションやデータを使用できる。ブレードPC型のような物理基板を必要としないが、仮想アプリケーションのライセンス費用が掛かる。
なお、シンクライアントと混同されやすいものに「リモートデスクトップ」がある。リモートデスクトップは、端末側のアプリケーション(Windowsリモートデスクトップ機能)やブラウザ(Chromeリモートデスクトップ)を使用して離れた場所にある端末を操作する方法で、シンクライアントとは仕組みが異なる。
また、不正アクセスなどのリスクを考慮し、通信時にVPN(仮想プライベートネットワーク)等を利用してセキュリティ対策を講じることが望ましい。
※データは2023年1月下旬時点のもの。
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文/編集部