2022年12月22日『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』などのヒットタイトルを持つスクウェア・エニックスと、新興ゲーム企業gumiが資本業務提携を行うと発表しました。
gumiのようなベンチャー企業が、『ドラゴンクエスト』など人気ゲームの開発を行うとヒット作となりやすく、業績が押し上げられる傾向があります。そのため、市場の期待感が先行してgumiの株価は年末にかけて急上昇。600円台から一時1,000円台まで押し上げられました。
しかし、スクウェア・エニックスの狙いは、ゲームの直近の協業体制ではなく、中長期的なブロックチェーンの強化にあると考えられます。
失望売りが加速したgumi株
今回のgumiへの出資により、スクウェア・エニックスの保有比率は3.01%となります。代表取締役社長・川本寛之氏よりも保有比率は高まります。
スクウェア・エニックスは新作『ドラゴンクエスト チャンピオンズ』のリリースを発表し、出資のタイミングと重なっていることから、gumiとの共同開発が噂されました。しかし、タッグを組んだのはコーエーテクモでした。
思惑買いでgumiの株価は上昇していましたが、失望売りで800円台まで下がっています。高値圏で飛びついた投資家は気の毒ですが、スクウェア・エニックスの出資がブロックチェーン分野を開拓するためのものであることは明らか。この資本業務提携の成果が出るのは2025年ごろになると考えられます。
ブロックチェーン分野開拓を狙ったものだという理由は3つあります。
一つは、スクウェア・エニックスが大手ゲーム会社に先駆けてNFTなどブロックチェーンの技術開発に取り組んでいたこと。もう一つはスクウェア・エニックスの年頭所感で重点投資領域にブロックチェーンエンタテインメントを挙げていたこと。そして今回の出資にはSBIホールディングスも参加しており、両社でブロックチェーンゲームにおけるエコシステムの形成を行うと明らかにしていたことです。
ゲームという軛から解放されて経済圏拡大を目指す
gumiはモバイルオンラインゲーム事業とメタバース事業の2つを展開しており、2023年4月期上半期の売上高83億800万円のうち、97.3%をモバイルオンラインゲーム事業が占めています。ブロックチェーンコンテンツを開発するメタバース事業は、成長をけん引するものには育っていません。
しかし、gumiは今後ブロックチェーンゲームを配信して規模を拡大。利益水準を50億円程度まで引き上げるとしています。2022年6月にはブロックチェーンゲームの開発・配信を行う子会社gCGをシンガポールに設立。取引所を通してトークン(仮想通貨)を売買し、ゲーム内通貨としての利用や、NFTの販売、2次マーケットへの流通といったトークンエコノミー構想を立てました。
https://ssl4.eir-parts.net/doc/3903/ir_material_for_fiscal_ym/119423/00.pdf
なお、この図の中にある取引所は資本業務提携の発表の際にSBI VCトレードや、SBIが子会社化しているBITPOINTであることが明かされます。
ブロックチェーンゲームというと具体的なイメージがしづらいですが、ゲームのフォーマットそのものは既存のものと変わりません。スマートフォンなどでプレイできます。大きな違いとして、仮想通貨を持ち込めることがあります。
gumiが注目しているのは、ゲームを軸として自社が発行するトークン(仮想通貨)の売買が活発となり、経済圏が拡大すること。この発想は、楽天ポイントを軸に経済圏を拡大する楽天や、メルペイでサービスを拡充しているメルカリに良く似ています。
ゲームは中央集権型から分散型へ
gumiはブロックチェーンに関連するベンチャー企業への出資を加速していました。2019年6月には、ディー・エル・イーからブロックチェーンゲーム開発のdouble jump.tokyoの株式を取得しています。この会社は現在、gumiの創業者・國光宏尚氏がアドバイザーを務めています。
double jump.tokyoは、スクウェア・エニックスがNFTを活用したコンテンツ開発で協業した会社。2021年スクウェア・エニックスは初となるNFTデジタルシールを世に送り出しました。大手ゲーム会社が国内でNFTのトレーディングカードを発行する例は極めて珍しく、この取り組みはスクウェア・エニックスがブロックチェーン分野に強い関心を示すものとして注目されました。
更に興味深いのが、スクウェア・エニックスが2023年1月1日に公表した年頭所感。同社が行う重点投資領域の中でも集中的にブロックチェーンエンタテインメントにフォーカスするとしたうえで、これまでのゲームを中央集権型とするならば、ブロックチェーンが分散型モデルであり、この思想こそが重要であると述べました。ブロックチェーンにおいては、会社が顧客(プレーヤー)に提供する価値が従来のものと異なるというのです。
現在のゲームは、課金型が主流。レアなアイテムを求め、月に数百万円から数千万円を課金する廃課金などと呼ばれる現象も起こっています。しかし、今のような中央集権型のゲームでは、そのアイテムの希少性が保証されているわけではなく、同じゲーム内でしか使うことができません。また、基本的にはアイテムを売買(現金化)することもできません。
しかし、ブロックチェーンゲームは、アイテムの発行枚数が決まっていて客観的な希少性が保証されています。また共通の規格で作られたブロックチェーンゲームにおいては、他のゲームでもアイテムを使うこともできます。そして、発行されたトークンは、取引所で現金や他の仮想通貨に換えられます。
プレーヤーはゲーム会社から与えられた中央集権型の世界から離れ、自由に遊び方を選択できるのです。スクウェア・エニックスはこの顧客体験こそが重要だと考えているのでしょう。そして新たな価値観を提供するための投資を加速するとしています。
時代を画するゲームは2025年12月までに誕生する?
今回のgumiの資本業務提携においては、SBIホールディングスの方が圧倒的に存在感はあります。SBIは22.45%の株式を取得して筆頭株主に躍り出ました。國光宏尚氏個人と資産管理会社であるNEXT BIG THINGを併せても、保有比率は6.34%ほど。SBIはそれを大きく上回る支配力を得ています。
ゲームで使用するトークンをSBIの取引所に上場し、取引を活発化させたいという狙いがあるのでしょう。
gumiはSBIとスクウェア・エニックスへの第三者割当増資により、70億円超の資金を調達する予定です。そして30億円はブロックチェーンゲームの開発に充当するとしています。この分野の開発には専門知識を持った開発者が必要で、時間がかかることで知られています。しかし、30億円もの資金があれば十分に開発は可能でしょう。
しかも、スクウェア・エニックスの人気タイトルと協業できる可能性があります。話題性は十分でヒットタイトルを生み出す土壌は整いました。
gumiは支出予定時期を2025年12月までとしています。そのころにはゲーム体験を一変させるタイトルが世に送り出されていると予想できます。
取材・文/不破 聡