■連載/ヒット商品開発秘話
コンビニが力を入れている商品の1つが、レジ横で展開するホットスナック。各社が看板商品を持っているほどだが、いまセブン-イレブンで人気を集めているホットスナックがある。『お店で揚げたカレーパン』のことだ。
2021年6月から発売された『お店で揚げたカレーパン』は商品名の通り、店内で揚げて提供。揚げたてサクサクの食感、深いコクと旨味にスパイスの風味が感じられるカレールウを味わうことができる。
エリア限定で販売を開始し、徐々に販売エリアを拡大。2022年12月に全国拡大を完了した。まだ全国拡大が完了していない2022年10月の時点で、売上が累計5000万個を突破している。
美味しさにはできたてや温度感が重要
セブン-イレブンでは2018年から、店内で揚げたカレーパンを限られたエリアでテスト販売してきた。全国販売したのは、『お店で揚げたカレーパン』が初めてである。
『お店で揚げたカレーパン』は最初から全国展開を視野に入れて企画された。その背景には、美味しいいものを買うなり食べに行くなりすることの期待値がコロナ禍などで非常に高まってきたことがあった。企画・開発を担当したセブン-イレブン・ジャパンの齋藤曜介氏(商品本部デイリー部 FF・冷凍食品マーチャンダイザー)は次のように話す。
「お客様がセブン-イレブンで購入したい商品は何かを検討する中で、美味しさにはできたてや温度感がすごく重要だという考えに至りました。店内で揚げるものの中で、揚げたてを提供することで美味しさを伝えやすいと判断したのが、カレーパンでした」
市場で一番、お客様に評価されるカレーパンをつくる
セブン-イレブンではオリジナルの袋入りカレーパンを売っているが、『お店で揚げたカレーパン』はそれとはまったくの別物で、カレールウ、生地などを見直している。
味の要になるカレールウでは、スパイス感のある仕上げにした。ただ、スパイス感を出すと辛いイメージを持たれがちになるので、香りにこだわった。齋藤氏は次のように話す。
「開発の大前提は『市場で一番、お客様に評価されるカレーパンをつくりたい』でしたので、取引先が持つカレーづくりの知見を生かしながら開発を進めました。袋入りだと時間の経過とともに香りが飛んでしまいますが、冷凍されたものを店舗で揚げて提供するので揚げたてに出合いやすいことから、香りやスパイス感にこだわることができました」
香りは工場ででき上がったときがが一番いいわけではなく、店舗で購入した人が食べるときに一番いいように仕立てた。齋藤氏によれば、工場のできたてと店舗で揚げたものの味を比較すると、工場のできたては物足りなさがあり味が劣るそうだ。
カレールウづくりでは、スパイスごとにどのタイミングでどれだけ投入するかを見定めることが煩雑を極めた。齋藤氏は70回近くカレールウを試食しているが、実際の試作回数は1000回程度にまで及んでいる。
1つでも手を抜いたらすぐ売れなくなる
これほどまで試作を繰り返した理由の1つに、生地とのバランスや相性もある。サクッとしつつもモチっとした食感が、食べるときに実感できる生地を目指し、パン粉も専用のものをつくったほどである。
小麦粉は一から選定し複数種をブレンド。油を多く吸ってしまうとベタベタしてサクッとした食感が得られないことから、油をあまり吸わないようした。カレールウ同様1000回を超える試作の末に完成させた。
専用のパン粉も油をあまり吸わないようにした。当初は市販のパン粉を使って試作に取り組んだが、求める美味しさが実現できなかったという。
「市販のパン粉は、できたてを急速冷凍し店舗でもう一度揚げることを想定していません。油を吸いすぎないようにすることはもちろんですが、冷凍することの適性や二度揚げすることの適性を持っていなかったので、店舗で揚げてから時間が経ったものを食べたときの味が、市場で一番お客様に評価されるものになりませんでした」
専用のパン粉をつくることにした背景をこのように明かす齋藤氏。開発着手から比較的早い段階で、専用のパン粉が必要という決断に至った。
パンをつくっている取引先とともに、油の吸収が抑えられる小麦粉の配合にしてパンを焼きパン粉を製造。試作は数百回に及んだ。
油にもこだわった。工場で揚げるときに使う油と店舗で揚げるときの油があるが、中でも店舗で揚げるときに使う油は、胃もたれしにくい特性のものや匂いが出づらいものなどをブレンドして専用につくってもらったものを使っている。
パン粉や油にも妥協しなかったわけだが、齋藤氏はこのように話す。
「どこか1つでも手を抜いた商品は、ビックリするくらいすぐ売れなくなります。だから手が抜けないですし、妥協できるポイントは何1つありません」
saito
セブン-イレブン・ジャパン
商品本部デイリー部
FF・冷凍食品マーチャンダイザー
齋藤曜介氏
法改正が販売店の拡大を後押し
『お店で揚げたカレーパン』はまず東京都・神奈川県・東海エリアの一部店舗から販売をスタートした。エリアを限定した上に、店舗も限定している。
こうした販売になったのは、売れるかどうか未知数なこと、店内で揚げて提供するには菓子製造業許可の取得が求められることがあった。齋藤氏は次のように話す。
「菓子製造業許可は都道府県や市区町村によって許可の取得が必要な場合とそうでない場合がありました」
販売店の本格拡大が始まったのは2022年に入ってからのことだ。法改正により、菓子製造業許可の取得ではなく飲食店営業許可の更新で販売可能になったことが主な理由だ。同時に製造能力も拡大。現在5工場で製造し、全国の店舗に供給できるようになった。
また、2アイテム目以降も検討。エリアを限定したテスト販売も含め年に複数アイテムの発売を考えている。直近では1月17日から四国4県と岡山県で『新宿中村屋監修インドチキンカレーパン』の販売を開始した。
一番売れるのは朝から昼にかけて
『お店で揚げたカレーパン』は徐々に販売エリアを拡大してきたこともあり、販促らしい販促ができなかった。その代わり、買い求めて食した人たちの口コミがSNSで拡散し、広く知られるところとなった。
口コミで目立ったのは、揚げたての美味しさを評価する声。「揚げたてはやっぱり美味しい」といった驚きの声が挙がっている。口コミが活発になるにつれて、販売されていないエリアからは「うちの地域まだ売っていないよ」「いつ売るの」といった声も挙がるようになった。
また、他のホットスナックと売れる時間帯が異なるという。コロッケや唐揚げ、フライドチキンといった惣菜系は昼から夕方にかけてよく売れるのと違い、朝から昼にかけてよく売れる。
レジ横のケースに並べられた揚げたて。朝から昼にかけてもっとも売れる。コーヒーとの相性がいいこともあり、セブンカフェと一緒に購入されることが多いという
取材からわかった『お店で揚げたカレーパン』のヒット要因3
1. 貴重な体験を身近なものにした
パン屋でも揚げたてのカレーパンを購入できることは、なかなかない。しかし、身近な存在のコンビニでいつでも、揚げたてを買うことができるようになった。貴重な体験が身近なものになり、注目を集めることができた。
2.できたての美味しさが実感できる
食べ物はできたてが美味しいが、カレーパンも例外ではない。これまで揚げたての味わいは想像をするしかなかったが、コンビニで揚げたてが気軽に買えるようになったことで、できたての美味しさを実感しやすくなった。
3.徹底したつくり込み
市場で一番評価されるカレーパンを目指し開発。取引先とともに、カレールウや生地を徹底的につくり込んだ。パン粉や店舗で使う揚げ油は独自のものを使うほどのこだわりようで、求める味を実現するために妥協しなかった。
意外とできたてを食す機会がない食べ物のできたてを食べる体験は、喜びが大きく何回でも体験したくなるもの。それが身近なコンビニで叶うとなれば、なおさらだ。『お店で揚げたカレーパン』のヒットは、できたてを食す機会が意外とないものをホットスナックの新商品にすることの布石になるかもしれない。
製品情報
https://www.sej.co.jp/products/a/item/150275/
文/大沢裕司