住宅街の老舗もつ焼き店で一献
緩い坂道を下り終えて交差点に出る。よく見ると五差路だ。右に伸びる通りにも店の明りが見えるが、もう少し先に進んでみることにしよう。
バーやパスタの店などを通り過ぎて次の交差点に出る。なんとここもよく見てみると変則的な五差路なのだ。目の錯覚ではない。
左右の通りのどちらにも飲食店が見えるが、右に見える渋い外観の「もつやき」の看板を掲げた居酒屋が気になった。街並みに溶け込んだ老舗のお店であることは一目瞭然である。「ちょっと一杯」にはいい時間だ。入ってみることにしよう。
引き戸を開けて入ってみると、外観の素朴な佇まいからは意外なまでに奥に向けてスペースがある店内で、多くのお客で賑わっていて少し驚かされる。
ほぼ満席だったのだが、焼き場を囲むカウンターにいたお客の1人が帰り支度をしていたのでなんとか入れそうな感じだ。カウンターの後ろから店の奥にかけてはテーブル席が並んでいて、卓はすべて埋まっていた。
出入口近くで少し待ってから、空いたカウンター席に無事に着かせていただく。厨房の前の梁の下にはメニューが記された黒い短冊の板が2段構えで並んでいる。短冊にも記されているハイサワーを注文した。
何気なく入ったものの、これほどの人気店だとは思わなかった。地元で長く愛されているお店なのだ。タイミング良く席に着けて良かった。
ハイサワーのグラスがやってきたところで、もつ焼きのシロ、タン、コブクロを各2本ずつに生野菜をお願いした。ひとまずハイサワーをひと口飲み、お通しの漬物のカブ漬けをつまむ。ホッとひと息つける瞬間だ。
さっぱりした風味のハイサワーをチビチビ飲んでいると、もつ焼きがやってきた。どれも少しばかり焦げ目がついていてうまそうだ。さっそくいただこう。
シロの噛み応えがなかなかいい。ハイサワーが進んでしまいもう飲み終わりそうだ。2杯目もハイサワーにしよう。
店内のお客の半分以上、いや3分の2くらいは常連さんなのだろう。あちこちから話し声が聞こえてきて常にガヤガヤしている。人の集まりが放つ自然な雑音は心地よい“BGM”だ。
ハイサワーのお代わりをお願いしつつ、もつ焼きをどんどん食べ進める。食べ応えはあるが全部食べてもまだいけそうなので追加で注文することになるだろう。お酒ももう1、2杯は飲めそうだ。
だが調子に乗って長居して飲み過ぎてはならない。心地良いからといって切り上げるタイミングを逸した“茹でガエル”になるわけにはいかないのだ。
文/仲田しんじ