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【深層心理の謎】ゆっくりと進む危機に対して行動を起こすタイミングが遅れるのはなぜ?

2023.01.29

 最終的にどうにかうまく収まることもあるが、残念ながらどうにもならないケースもある。どうにもならないと気づいた時には早めに対策に出なければならないともいえるが、この場合は早急に動くべきなのか、それとも慌てずにどっしり腰を構えるべきなのだろうか——。

東十条を歩きながら“茹でガエル”について考える

 コロナ禍に戦争に物価高騰と先の読めない状況が続いている。まさに“一寸先は闇”だ。いろいろと対策を練っておかねばならないような気もしてくる。

※筆者撮影

 東十条駅の東口を横目に通りを進む。夜7時になろうとしていた。さっきまで十条駅界隈にいたのだが、考え事をしながら歩いていたらここまで来てしまった。

 今日はもう仕事をするつもりもないので、電車には乗らずにもう少し歩いてみよう。それほど腹は減っていないが、よさそうな店があれば入ってみてもよい。

 駅前を過ぎると通りは再び暗くなった。駅のこちら側はほぼ住宅街なので日が暮れれば一気に地味な様相になってくる。別の意味で“一寸先は闇”だ。

 先行きの見通しが悪い時、そして雲行きが怪しいと感じられてきた時には対応策を考えることになるが、その場合はすぐに実行に移すべきものなのか、それともいったん胸に秘めておいて、しかるべきタイミングで着手すべきなのだろうか。

 夜道を前から親子連れが歩いてくる。母親と手を繋いでいる小さい男の子は頭に緑色のカエル顔のニット帽を被っていた。

 それにしてもこんな時間に何の用事なのだろうか。会社から帰ってくる父親と駅で落ち合ってから何か美味しいものでも食べに行くのかもしれない。もちろん勝手な想像ではあるが……。

 親子連れとすれ違う。男の子のカエルの帽子はなかなか可愛らしい。

 今の混迷の時代に、カエルに何かメッセージ性があるとすればやはり“茹でガエル”だろうか。普段は水辺にいるカエルをお湯が張った鍋に入れれば当然驚いて鍋を飛び出して逃げるが、最初は水を張った鍋に入れ弱火にかけてゆっくり温めると、カエルは逃げ出すタイミングを失い最後は茹であがって死んでしまうという例え話である。

 その意味するところはゆっくりと進む環境の変化や危機に対応する難しさであり、往々にして行動を起こすタイミングを先延ばしにしてしまい惨事を招くことが警告されているのだ。

 “茹でガエル”の話をシンプルに検証するならば、鍋に張られているのが水であったにせよ、鍋に入れられた時点でそれをよしとせずにさっさと逃げ出すべきであることになる。

 とすればやはり雲行きの怪しさを感じたのならばいち早く行動を起こして対処したほうが良さそうだ。早い時点で決断できないことが致命的な先延ばしに繋がるようにも思えてくる。

内向的宿命論者が“茹でガエル”になりやすいのはなぜか?

 通りを進む。片側1車線の道路から縁石とガードレールで仕切られた歩道は緩やかな下り坂になっていて、遠くに見える交差点の周囲にはいくつか店の明りが見える。きっと飲食店もあるだろう。

※筆者撮影

 “一寸先は闇”の混迷を深める時代であるだけに、雲行きの怪しさに気づけるのはむしろ幸運なことだともいえるだろう。せっかく気づけたのだから、対策を練っていち早く行動に移したいものである。

 しかし残念ながら“茹でガエル”になってしまう人は後を絶たない。何が人を逃げ遅らせ“茹でガエル”にしてしまうのか。最近の研究ではそこには内向性と宿命論が深く関係しているという。いったいどういうことなのか。


 この実験の目的は、外向型と内向型の自尊心に対する宿命論的な時間の見方の影響をテストすることでした。

 外向性の高い参加者と低い参加者で運命論的な時間の視点が誘導される実験を行いました。実験グループの課題は、提示された登場人物の状況に身を置くことでした。登場人物は、非常に宿命論的な時間の視点を示しました。

 その結果、宿命論的な時間の視点を導入した後の内向的な人は、中立的視点を導入後の内向的な人よりも自尊心が高いことが示されました。宿命論的時間視点の導入後の外向的人物と、中立的視点の導入後の外向的人物との間の自尊心に有意差はありませんでした。

※「NLM」より引用


 ポーランド・ワルシャワ大学、ルブリン大学をはじめとする合同研究チームが2021年2月に「Journal of General Psychology」で発表した研究では、内向的な人の自尊心は、宿命論的な時間の視点が誘発された後、つまり未来が人間の制御を超えていると見なされる状況に置かれた後に高まることが示されている。

 自分の未来を自分の手でコントロールしてより良いものにしていこうとする自由意志の視点に立つのか、それとも未来はだいたいうまくいくだろうと高を括った宿命論の視点に立脚するのか、もちろんどちらであっても構わないが、両者はずいぶん異なる人生観になることは明らかだ。これまでの研究でも人生観はさまざまな行動に影響を及ぼすことが報告されている。

 もしも雲行きが怪しいと感じたら、自由意志的視点の者は対策を講じて実行に移すだろう。一方で宿命論的視点の者は「未来はだいたいうまくいく」と考えて何もしなさそうである。“茹でガエル”になりやすいのは後者のほうであることは間違いない。

 そしてこのようなある種の楽観的な宿命論者に、内向的な人がなりやすいことが今回の研究で明らかになったのである。平均年齢47歳の104人のポーランド人が参加した実験で、内向的な人は宿命論的視点に立つと自尊心(self-esteem)が高まることが判明したのだ。

 自尊心が高まれば雲行きが怪しい状況下でも自分だけは大丈夫だと思い込みやすくなる。そして残念ながら“茹でガエル”になってしまうのだ。

 自尊心が高まることで前向きな感情や幸福感に包まれ、利用可能な機会を逃さずに活用するなど、さまざまなポジティブな結果に結びつく一方で、投資よりも消費にお金を使いやすく、人生の問題を努力で克服するのではなく自然に解決するのを待つほうを選び、より頻繁に落ち込み、より高い攻撃性と不安感を抱く傾向が強まるということだ。

 内向的な人ほど、自分は特別だと思い込み“茹でガエル”にならないように自戒が求められているといえそうだ。

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