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【ヒット商品開発秘話】累計出荷本数25万本を突破したサンスター文具「メタシル」

2023.01.24

■連載/ヒット商品開発秘話

 大人になると使う機会が減るが、小学生頃までは毎日のように使う鉛筆。芯が丸くなると削らないといけない、使っていくうちに手が黒く汚れるといった不便や不都合を感じながら使っていたものである。

 このような不便や不都合を解消できるのが金属鉛筆。なじみは薄いものの以前からあった筆記具だが、2022年6月に発売されたある金属鉛筆がいま、文具売場を賑わせている。サンスター文具の『メタシル』のことだ。

『メタシル』は芯が黒鉛と金属を含んだ特殊芯。削ることなく書き続けることができ、筆記可能距離は約16kmに達する。通常の鉛筆と同じく消しゴムで消すことができる。

 軸は全6色。これまでに累計25万本が出荷されている。

軸色は全6色。左からブラック、ホワイト、ネイビー、ベージュ、レッド、ブルー

「保留」と評価されたアイデア

 開発の原点は、企画開発を担当した同社の大杉祐太氏(クリエイティブ本部イノベーション部)が美大生だった頃にあった。鉛筆はデッサンやデザインスケッチを描くのに不可欠。大杉氏は毎日ように芯を削り、手を真っ黒にしていた。

「こうした点を改善できれば……とずっと思っていました」と大杉氏。美大生だった2009年頃にはすでに金属鉛筆はあったが、芯の色が薄く消しゴムで消せない上に、価格が1万円ほどと高価。「憧れはありましたが買うまでには至りませんでした」と明かす。

サンスター文具
クリエイティブ本部イノベーション部
大杉祐太氏

 新商品を企画するに当たり鉛筆に対する不満を思い出した大杉氏は、「今の技術で金属鉛筆をつくれば実用的なものにできるのでは?」と考え、協力工場に相談。芯の色が薄い、消しゴムで消せないといった問題は技術的に解決可能なほか、安くつくることができることも確認できた。

 発売の1年半ほど前に、社内で2週間に1回のペースで実施されるアイデア会議に『メタシル』の原案を提案。協力工場につくってもらった試作品を持ち込んで臨んだ。

 会議では興味は持たれたものの、評価は高くなかった。懸念されたのが、販売の見通し。認知度が低いことから「そこまで売れないのでは?」とネガティブな反応が返ってきた。

 また、芯の濃さについて、「もっと濃くして視認性を良くしないといけない」という指摘を受けた。試作品の芯は従来の金属鉛筆より濃いものの3H、4H程度とまだ薄く、実用性にやや欠けた。

 最終結果は「保留」。アイデア会議はボツにならない限り、次はその上の企画会議で正式に提案することになることから、企画会議で提案するべく指摘された点をクリアすることにした。

 企画会議は毎週開催される。アイデア会議での提案から2、3週間後にはじめて『メタシル』の原案を提案した。これ以降、会議で受けた指摘を反映したものを企画会議に提案し続けた。

「最初の企画会議では芯の濃さなど直せるところは直して提案しましたので、反応も『これなら商品化できる』と変わりました」

 このように振り返る大杉氏。ただ、金属鉛筆の認知度が低いことから実験的な商品として位置づけられ、生産予定数が軸色1つ当たり3000本と控え目に設定された。

インパクト重視から決まった15kmを超える筆記可能距離

 開発では仕様が決まるまでに時間を要した。ターゲットの設定を含めて半年ほどかかっている。

 一番時間を要したのが、芯の濃さと筆記可能距離のバランスを取ることだった。インパクトのあるものにするため、企画会議で15kmを超える筆記可能距離が求められたことから、視認性の良い芯の濃さにした上でこれを実現することが不可欠になった。

 試行錯誤の結果、芯の濃さは2H相当にし、筆記可能距離は15kmを超える約16kmを実現した。芯は金属より黒鉛の方が多く使われており、これにより消しゴムで消せるようになった。

金属より黒鉛を多く使った芯により、普通の鉛筆同様、消しゴムで消すことが可能になった

未使用の芯(左)と筆記中の芯(右)の比較。使ってくうちに芯が丸みを帯び、描線が太くなる。筆記距離が16kmに達すると書けなくなるわけではなく、引き続き筆記できる

 2Hではなく2H“相当”と表現するのは、紙によって濃さが変わるからだ。表面が粗いと黒鉛が紙に転写されやすく芯の色が濃くなる傾向がある。筆圧によっても濃さは変わるという。

メモをとったりするだけではなく、スケッチしたりすることにも使用可能

水や水性マーカーなどでにじまない特性を持っているため、水彩画やイラストの下書きにも適している

 デザインは鉛筆そっくりだが、鉛筆とは違い八角形。八角形にした理由を大杉氏はこう話す。

「パッと見たら鉛筆と同じ六角形ですが、よく見たらそうではなかったと驚いてもらうために八角形にしました。それに、八角形は六角形より角がゆるくなり、握ったときに手が痛くなりにくくなります」

 安っぽく見えないよう、軸はダークな色合いにしマットな質感に仕上げた。大人っぽいものにすることで、背伸びしてでも大人っぽいものを持ちたがる男子中高生の衝動買いを狙うことにした。

 商品名は当初、別の名前で考えていた。だが、商品化を最終決定する2021年12月に変更することになった。

「当初考えていた商品名について経営サイドから、『その商品名だとどのような商品かが伝わらない』と指摘され、考え直すことになりました」

 このように明かす大杉氏。もう1つの候補として考えていた、メタルペンシルを略した『メタシル』を提案したところ、「この方がダイレクトでわかりやすい」と評価され採用されることになった。

注文殺到で発売を延期する事態に

『メタシル』は当初、2022年4月に発売される予定だった。6月になったのは、想定をはるかに超えるオーダーが入ったためだ。

 2月に小売店からの注文を受け付け始めたところ、想定の6倍以上の注文が入った。3月に家電量販店が自社ECサイト上で予約受付を開始した際は、その情報がTwitterで紹介されバズり予約が集中。同社にも一般ユーザーからの問い合わせが殺到するようになった。

 注文殺到に加え、工場がある中国で新型コロナウイルスによるロックダウンも重なり、入荷の見通しが立たなくなった。そのため4月に発売の延期を決定。生産体制を見直し、6月に発売となった。

一般ユーザーから商品に関する質問が多く寄せられたことから、同社は6月の発売前に大杉氏が質問に答える動画を制作しYouTubeで公開。このほか、大杉氏やデザイナーのみうらめぐみさんなどが出席し『メタシル』の魅力などを語った座談会の動画もつくり、YouTubeで公開した。

 販促は主にSNSと絡めて実施。発売後にTwitterキャンペーンを実施したほか、SNSでの拡散を目的に文具好きのユーチューバーやインフルエンサーに商品を提供することもした。

替芯を別売りしニーズに対応

 また2022年12月に、ノック式の『メタシル ライト ノック』を発売した。消しゴムで消すことができる点は『メタシル』と同じだが、筆記可能距離が約5kmで芯の濃さがH相当な点が異なる。軸は全8色。プラスチック製で『メタシル』より約8g軽くなった。

『メタシル ライト ノック』。芯の濃さはH相当で、筆記可能距離は約5kmとなっている。軸色は左からブラック、ホワイト、ライトブルー、ミントグリーン、イエロー、ライトピンク、ライトバイオレット、グレー

『メタシル ライト ノック』は、『メタシル』が1本990円と鉛筆としては高価なことや、「ノック式で持ち運びしやすいものが欲しい」といったユーザーの声を受けて開発した。価格は385円である。

『メタシル』ユーザーの声で多いのが、芯の交換を希望するもの。替芯のニーズが高いことから、同社は2023年2月上旬から替芯を販売する(440円)。

メタシル替芯

 同じタイミングで、『メタシル』の新色も販売される。新色は、それまでのマットな質感とは違いメタリックカラーになる。

メタリックカラーのメタシル。左からメタリックグレイ、メタリックレッド、メタリックブルー

取材からわかった『メタシル』のヒット要因3

1.利便性の高さ

 芯の濃さや紙によって芯の濃さが変わるところは人によって好みが分かれるが、削らず使い続けられる点などは従来の鉛筆にない便利な点。利便性が格段に向上した。

2.世代を問わず受け入れられるデザイン

 全金属製で軸はダークカラーを基調とし、マットな質感に仕上げた。大人が使っても違和感がないだけではなく、背伸びして大人っぽいものを使いたがる男子中高生の物欲を刺激した。

3.インパクトが大きい

 鉛筆は完成された感があり長いこと変わってこなかった。この先も変化しないだろうと思われる中、新規性の高いものを開発し市場投入した。そのインパクトは大きく、多くの人の目に留まったのは「必然」といってもいい。

 大杉氏によれば、一部のユーザーから「筆記可能距離が多少短くなってもいいので芯を濃くしてほしい」といった要望が挙がっている。今後は芯の濃さをはじめ、軸の形状などバリエーションを拡大し、より幅広いユーザーに使ってもらえるよう『メタシル』ブランドを育てていきたいという。

製品情報
https://www.sun-star-st.jp/items/220706145551/
https://www.sun-star-st.jp/items/221110011217/
https://www.sun-star-st.jp/items/%e3%83%a1%e3%82%bf%e3%82%b7%e3%83%ab-%e6%9b%bf%e8%8a%af/
https://www.sun-star-st.jp/items/221206114616/

文/大沢裕司

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