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人は必要もないのに、なぜ走るようになったのか?古人類学者が教える「運動の正解」

2023.01.20

■カウチポテト族より活動が乏しいチンパンジー

ちょっと視点を変えて、野生のチンパンジーの行動について見てみよう。これも、『運動の神話』(上巻)で紹介されている研究結果だが、オス・メスともにチンパンジーは、目覚めている時間のほとんどを「休息、毛繕い、穏やかな食物摂取、巣作りなどの座って行なう活動」にあてていることが判明している。

つまり、起きている12時間のうち10時間半は、アクティブな身体活動をしていない。文明化されたヒトでさえ、もっと活動的であろうし、そもそも12時間も眠らない。

ヒト社会では、座りすぎが健康上の問題とされて久しいが、チンパンジーを見習ってカウチポテト族のままでも問題ないのかといえば、そうは問屋が卸さない。

人間がそれをやってしまうと、「血液中の糖や脂肪が増えて体に害を与える」など、明らかな問題が発生しかねない点を、リーバーマン教授は指摘する。理由は単純明快で、人体は「非常に活発になるように進化した」からだ。

チンパンジーのメスは5~6年ごとに子どもを生むのに対し、いにしえの狩猟採集民の母親は、もっと早い間隔で子どもを生んだ。かつ、乳離れして自立するまでの期間が長いため、年齢の異なる複数の子供を育てていかねばならない。

となると、必要とされる食料は相当なものとなり、男は毎日狩りに出かけ、女は芋掘りに精を出さざるを得なくなる。脳も高度に発達し、原始的な社会が形作られたため、宗教的儀式といった社会的な役割もこなさねばならない。

かくして、ほかの霊長類より多くのタスクを抱えることになる。終日座っているというのは、人類史のスパンで見れば、つい最近始まった習慣なのである。

■古人類学者が教える運動の正解

『運動の神話』下巻でリーバーマン教授は、現代人に対する包括的な健康習慣を提言している。いわく、「タバコは吸わない、太らない、節度ある飲食をする、そしてもちろん、体を動かし続けること」だ。

では、具体的に「体を動かし続ける」とは、どんな運動を行ったらいいのか?

その1つが、ランニングやサイクリングに代表される有酸素運動だ。持病のない健常者に対して、これこれを週何回、何分せよとは明確に書かれていないが、「30分程度のジョギングやサイクリングを週に数回行なっている方は、1週間のルーチンにHIITを少し取り入れてみてはいかがだろう」と記述がある。

HIITとは、近年注目の「高強度インターバルトレーニング」を指す。これは、ごく短時間の息が切れそうな運動を、短い休憩を挟みながら行なう運動で、アスリートからビジネスパーソンまで、さまざまな層に人気がある。

効率的だからといってHIITのみにするのではなく、伝統的な有酸素運動にプラスするのがベストのようだ。ちなみに教授は、ランニングを趣味としており説得力がある。

もう1つが、抵抗運動。つまり筋トレだ。教授は、「筋肉量、特に力強さとパワーを生み出す速筋線維を維持するためには欠かせない」「骨量の減少を防ぎ、筋肉の糖分利用能力を高め、一部の代謝機能を強化し、コレステロール値を改善する効果」があると、そのメリットを挙げている。こちらは、主要な筋群すべてを使う筋トレを、週2回行なうことがすすめられている。

新年の抱負に、「運動」を掲げる人は実に多い。それだけ挫折する人も多いということだが、教授が推奨する程度の運動は、習慣づけてもよさそうだ。手始めに、スマホを持たずに見知らぬ土地を訪問してはいかがだろう(ただし駅1つ分の距離内で)。

ダニエル・E・リーバーマン教授 プロフィール
ハーバード大学人類進化生物学部でエドウィン・M・ラーナーII世記念生物科学教授を務める古人類学者。ハーバード、ケンブリッジ両大学で学び、人体の進化、特にランニングなどの身体活動に関する研究で知られる。「ネイチャー」「サイエンス」誌掲載論文をはじめ論文多数。ランニングを趣味とし、マサチューセッツ州ケンブリッジに在住。邦訳された著書に『人体600万年史 科学が明かす進化・健康・疾病』と『運動の神話』(ともに上下巻、早川書房刊)がある。

文/鈴木拓也(フリーライター)

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