「距離を置いた自己対話」でチャッターを鎮める
他者の力を借りずに、チャッターを鎮める方法もある。本書には「チャッターを制御するための26のツール」という項目があるが、その多くは自分の力でできるものだ。
なかでも意外性があるが効果的なやり方として、「距離を置いた自己対話」がある。
これは、チャッターのなかで、「自分」「私」「俺」というふうに自身の一人称を使うかわりに、「あなた」「鈴木さん」などと表現する。
「今日、鈴木さんはどうして山田さんに腹を立ててしまったのだろう」というふうに話すわけだ。たったこれだけで、ストレスのかかる問題が解決しやすくなり、賢明な推論や合意的思考が促進される。
そのエビデンスとしてクロス教授は、2014年のエボラウイルス危機で怯える人たちに実施したインターネット調査を挙げる。
エボラウイルスを心配しつつも、エボラがその後どれほどの脅威となるかについて、「私」の代わりに自分の名前を使って考えるよう指示された人びとは、事実に基づき、心配するには及ばない理由をより多く見つけた。
そのため、彼らの不安とリスク認識は低下するものと予測された。彼らはもはや、自分がエボラ熱に罹患しそうだとは考えていなかった。これは、より正確な現実認識であり、それまでパニック状態だった内なる声に口輪はめるものだった。(本書136pより)
こうした「距離を置いた自己対話」と似た「ツール」に、「友人に助言していると想像しよう」というやり方もある。
今まさに自分が悩んでいることと同じ悩みを、友人が抱えていると想像して、その友人にどんな助言をするだろうか?いい助言を思いついたら、自分に当てはめる。外部の視点を持つことで、いいアイデアが思いつきやすくなるメリットもある。
頭の中のひとりごとは、あまりにも日常的すぎて、その否定的側面を実感しないものだ。
本書は、その当たり前を前面に押し出し、新たな気づきを促してくれる。チャッターに苦しんでいる人はもちろん、人生の質を向上させたいと考える人も、読んでおくべき一冊だろう。
イーサン・クロス教授 プロフィール
意識する心のコントロールに関する世界的な第一人者。ミシガン大学の心理学部と同大学ロス・スクール・オブ・ビジネスの受賞歴のある教授であり、感情と自制研究所の所長。ホワイトハウスの政策議論にも参加し、『CBSイブニングニュース』や『グッド・モーニング・アメリカ』、NPR『モーニング・エディション』などの番組で、研究に関するインタビューを受けている。その先駆的な研究は『ニューヨーク・タイムズ』『ニューヨーカー』『ウォール・ストリート・ジャーナル』『USAトゥデイ』『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』などで取り上げられている。ペンシルヴェニア大学で修士号を、コロンビア大学で博士号を取得。全米ベストセラー、日本を含め世界40ヵ国以上で刊行された『Chatter ―「頭の中のひとりごと」をコントロールし、最良の行動を導くための26の方法』が初の著書。
文/鈴木拓也(フリーライター)