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4月からの時間外労働の割増賃金引き上げで中小企業と社員に生じるメリット・デメリット

2023.01.20

労働基準法の改正のうち、2023年4月から新たに適用となるものがある。月60時間を超える時間外労働の割増賃金の割増率の引き上げが中小企業にも適用となるのだ。これにより、どんなことが起きるのか、企業、社員ともに起きうる変化、メリット・デメリットなどを社会保険労務士に聞いた。

時間外労働の割増賃金引き上げで中小企業の企業と社員に生じる変化

月60時間超の時間外労働の割増賃金が50%に引き上げになるとはどういうことか。

労働基準法で定められている1か月の時間外労働とは1日8時間・1週40時間を超える労働時間のことだ。労働者に時間外労働をさせると、現行では大企業、中小企業ともに割増賃金を支払わなければならない。

その割増率は、60時間以下の場合は25%、60時間超の場合は大企業は50%、中小企業は25%である。

2023年4月からは、中小企業も50%になる。

これを受けて、中小企業の企業と社員にはそれぞれどんな変化が起き得るだろうか。社会保険労務士法人ALLROUND渋谷 代表社会保険労務士の中健次氏に話を聞いた。

【中小企業】

「中小企業は、現状の時間外労働状況の把握をしたうえで、時間外労働の削減のために業務の見直し・棚卸し、効率化の検討をしなければならなくなります。長時間労働の是正がすぐに難しい会社については人件費(割増賃金)が増加します。

引き上げ開始までに就業規則の見直しをして、割増賃金率の条文改訂、必要に応じて代替休暇の条文追加などを行う必要があります。場合によっては人事総務、労務担当者が正確に給与計算をするための教育の検討も必要になるでしょう」

【社員】

「中小企業の社員は、長時間労働の是正のための取り組みが全社的に行われることに対し、自身の業務のやり方・量などの棚卸しや効率化の検討が迫られるでしょう。

長時間労働となっている時間外労働の賃金ありきで生活が成り立っていたという場合で、会社が長時間労働の是正に成功した場合、法の目的や会社の意図に反していますが、転職や副業を検討する方が出てくる可能性もあります」

メリットとデメリット

中小企業と社員、それぞれの主なメリットとデメリットは?

【中小企業】

<メリット>

「各会社の捉え方次第ですので、難しいところがありますが、長時間労働の抑制につながるところは大きいでしょう。また長時間労働のある中小企業については、労働時間の現状の把握、分析、および各人の業務の見直しや教育をする良いタイミングになり得ます。

企業の人事総務・労務担当者の方で、今まで長時間労働の是正を経営陣に打診していたが、なかなか動いてもらえなかったという方がいるのであれば、2023年4月からは、『現在の時間外労働の状況だと、月ベース、年間ベースでこれぐらい人件費が上がってしまう』といった数字的な話もできるため、経営陣を説得しやすくなり、動いてもらいやすくなる可能性があります」

<デメリット>

「時間外労働の多い会社は人件費増となります。例えば、割増無しの一時間単価が1,500円の労働者が70時間の時間外労働をする場合、次の計算になります」

●引き上げ前
割増単価:1,500×1.25=1,875円
1,875×70時間=131,250円

●引き上げ後
割増単価1(60時間以下):1,500×1.25=1,875円
割増単価2(60時間超) :1,500×1.5=2,250円
1,875×60時間=112,500円
2,250×10時間=22,500円

合計135,000円

「つまり、まったく同じ働き方をさせても、引き上げ前後で上記の例の場合、131,250円−135,000円で月3,750円多く支給する必要があります」

「設備投資で長時間労働を抑制できるのであれば、その設備投資が増したり、残業代で稼ぎたいという従業員が他の会社へ転職の可能性が出てきたりします。対策として、設備投資増しについては助成金の利用、転職者増しについては、効率的に業務を行わせ、賞与など他の支払い方での対応などが考えられます。

給与計算が煩雑になるデメリットもあります。使用している給与計算ソフトの対応方法(60時間超の時間外労働の場合の入力方法等)をしっかりと確認し、法の無知による意図せぬ未払い残業代を生じないよう注意しなければなりません。ここから労務トラブルに発展し、従業員との関係性が悪化する可能性もあります」

【社員】

<メリット>

「これを機に会社の指示による長時間労働が減少する可能性もあるため、長時間労働に悩まされていた社員にとって、ワークライフバランスの充実が見込まれます。引き続き残業の多い会社では、今までと同じ働き方をしていても時間外手当が増します」

<デメリット>

「法律や36(サブロク)協定により時間外労働の限度は各社で決められていますが、社員によっては、自身の体は大丈夫だからとにかく残業をして稼ぎたい、という方が多少います。そのような方については、今回の改正により会社側から今後は時間外労働のストップがかかることも考えられます。つまり収入減となります」

ブラック企業は倒産の危機に?

今後、長時間労働を減らさないいわゆる「ブラック企業」は人件費増しにさらに苦しめられることになるため、ブラック企業であっても長時間労働を減らさざるを得なくなる。その際、生産性が下がり、倒産するなどはあり得ることだろうか? 中氏は次のように答える。

「可能性としてはあり得るかと思います。労働者の採用や派遣労働者の受入れ等を考えず、信頼でき、かつ慣習的に長時間労働をお願いできた既存従業員に頼り切っている体制の会社は、特にあり得ることだと思います。長時間労働を行っている会社は業務が属人化していることも多いため、今回の引き上げというより、そもそもその既存従業員が退職をしてしまったり、心身の状態を崩したりした際などの労務リスクが高くなります。

時間外労働の賃金が増えるのを覚悟して従前どおりの働き方をさせる会社もあれば、このタイミングで現在の業務の棚卸をして、過重労働になっている従業員の業務を一部他の従業員へ割り振る、または役員などの労働者ではない立場の人が業務を引き受ける会社もあれば、新たに労働者を積極的に採用し、営業をさらにかけ続ける会社など様々なパターンが考えられます」

残業代を稼ぎたい労働者はブラック企業に集まる?

人件費が上がっても長時間労働を減らさないブラック企業が一定数でも存在し続けるとすれば、残業代を稼ぎたい労働者はブラック企業に集まるという事象が起きるのではないだろうか。

「ブラック企業の定義は明確ではありませんが、労働者と企業の利害が一致する場合、そのようなケースもあり得るのではないでしょうか。

しかし最近では副業という選択肢もあるため、とにかく残業代を稼げる会社という決め方ではなく、自分がやりたいこと、自分らしく働ける会社で働きつつも、副業として別の会社でも働いて収入を補う、もしくはご自身でビジネスを始めてみるのも有りかとは思います。副業に対する考え方、社内手続きについては、雇用されている各会社に確認が必要です」

会社員にとっては長時間労働が減るチャンスだ。一方で、収入に影響が出ることも大いに考えられる。よく会社の動きと自分の働き方を検討する必要がありそうだ。

【取材協力】
中 健次氏
社会保険労務士法人ALLROUND渋谷 代表社会保険労務士
東京都社会保険労務士会所属。日本大学商学部卒業。10年以上の社会保険労務士業界での経験の中で、小規模の会社から千人以上の上場企業まで、また業種についてもIT業界、人材派遣、職業紹介事業、不動産業、飲食業、介護、保育業界など、業種に捉われず広く労務顧問を経験。的確な助言、手続は勿論のこと、経営者や労務担当者が悩んだ際に真っ先に浮かぶ顔となるよう、クライアントとのコミュニケーションを大切にしている。
https://arsb.jp/

取材・文/石原亜香利

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