ウェルビーイングは、企業が取り組むべきものとして話題に上ることの多い注目ワードです。社会人なら、知っておきたい言葉との一つといってもよいでしょう。ウェルビーイングの意味や注目される理由、企業の導入例を紹介します。
ウェルビーイングとは
ウェルビーイングには、どのような意味があるのでしょうか?似ている言葉である『ウェルフェア』との違いも合わせて見ていきましょう。
「幸福」とも訳される概念
ウェルビーイング(well-being)は、心身ともに良好で、満足した社会生活を送れる状態を指す言葉です。日本語では『幸福』と訳されることもあります。
厚生労働省ではウェルビーイングを「個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味する概念」としています。
また世界保健機関(WHO)憲章の前文にある以下の一節は、ウェルビーイングを定義する際によく用いられる文章です。
「Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.
健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが 満たされた状態にあることをいいます」
※出典:世界保健機関(WHO)憲章とは |公益社団法人 日本WHO協会
瞬間的な幸福というよりも、幸福な状態が長く続く様子を指しているのが、ウェルビーイングの特徴といえます。
ウェルフェアとの違い
ウェルフェア(welfare)は『福祉』や『福利』『幸福』を意味する言葉で、一般的には福祉事業に関して使われます。
福祉とは、主に『公的扶助によって生活を豊かにする』といった意味で、高齢者や障がいを抱える人、児童などをサポートする多義的な言葉である『社会福祉』は、英語でsocial welfareと記します。
その他にも、ウェルフェアは『福利厚生』という意味でも用いられる言葉です。福利厚生とは、社会保険や住宅手当・社員旅行・結婚や出産の祝い金など、企業が給与以外に従業員やその家族に提供する制度のことです。
社会保険については法律で決まっているためどの企業でも差はありませんが、住宅手当や祝い金などは、企業が独自に設けます。もし給与が同じ場合、福利厚生が充実している方が、従業員と家族の幸福度(ウェルビーイング)は高いといえます。
福祉事業・福利厚生どちらにしても、ウェルフェアは、ウェルビーイングを実現させる手段と考えてよいでしょう。
ウェルビーイングが注目される理由
ウェルビーイングという概念は、なぜ近年注目されるようになったのでしょうか。政治的・社会的な背景を三つ紹介します。
価値観の変化・幸福度向上への期待
ウェルビーイングが注目される理由の一つに、ビジネスに対する人々の価値観の変化があげられます。従来のビジネスは、売上高や利益、効率性など、経済的な成長を重視していました。
経済活動の発展によって、安くて便利なモノやサービスが続々と登場し、豊かな生活を送る人が増えます。しかしその結果、人類は環境破壊や貧困、過労死などのさまざまな社会問題を引き起こしてしまいます。
このためモノの豊かさよりも、心の豊かさを重視する方向へと、考え方が変わってきたのです。価値観の変化は地球規模で起きています。
国連が発表する『世界幸福度ランキング2022年版』では、日本は146カ国中54位となっています。ただし、主要7カ国(ドイツ・カナダ・アメリカ・イギリス・フランス・イタリア・日本)中では最下位です。
今後日本では、国や企業が積極的に国民のウェルビーイング向上に取り組むことが期待されています。
参考:World Happiness Report 2022 | The World Happiness Report
働き方改革との関係
労働は、人生における重要な要素です。生活費を稼ぐことはもちろん、やりがいやプライベートとの両立など、個人がウェルビーイングを実感できるかどうかは、働き方に大きく影響されるといってもよいでしょう。
かつての日本では、長時間労働や男女間の賃金格差、年功序列などが当たり前でした。皆が同じように働くことが大切で、個人の意思や能力は二の次だったといえます。
しかしそれでは、誰もが心身ともに健康で満足した状態にはなれません。例えば子どもが生まれた直後にもかかわらず、毎日深夜まで残業させられるようでは、親としての幸せを感じられないまま時が過ぎてしまいます。
子どもが小さいうちは残業を控え、手が離れたら思い切り働くといった、柔軟な労働環境の実現を求める声が、ウェルビーイングが注目される一因となっています。
SDGsの一部でもある
ウェルビーイングは、持続可能な開発目標を指す『SDGs』の一部でもあります。SDGs目標3『すべての人に健康と福祉を(Good health and well-being)』に、福祉の意味でウェルビーイングが使われているのです。
またSDGs目標5『ジェンダー平等を実現しよう』や目標8『働きがいも経済成長も』も、ウェルビーイングに深くかかわる目標といえます。
ウェルビーイングはSDGsの達成に大きく貢献する概念であり、世界的に必要と認識されている言葉なのです。
参考:外務省「持続可能な開発目標(SDGs)と日本の取組(PDF)」
世界中で行われている取り組み
ウェルビーイングを実現するために、早くから取り組んでいる国や企業もあります。世界で行われている、代表的な取り組みを見ていきましょう。
Google「デジタルウェルビーイング」
『デジタルウェルビーイング』は、スマホなどのデジタルデバイスの使い方を見直すことで、使い過ぎを防いで健康的な生活を送れるようにする考えを指します。
スマホの普及により、いつでも情報を得られ、人と簡単につながれる便利な世の中が実現しました。しかし便利過ぎるために、人はスマホを手放せなくなり、心身の健康を損なったり、ワークライフバランスが崩れてしまったりする弊害が指摘され始めます。
2018年、Googleは初めてスマホユーザーに対する、デジタルウェルビーイング向上の重要性について言及します。その後Appleもスマホ中毒への対策を発表し、世間の注目を集めるようになりました。
デジタルウェルビーイングを実現するための具体策としては、以下の機能があげられます。
- 1日のスマホの利用状況が簡単に分かる
- アプリの利用時間を制限できる
- 受け取る通知を管理できる
- 就寝中は起動しない
参考:Digital Wellbeing で Android スマートフォンの使用パターンを管理する – Android ヘルプ
Google – Google について、Google の文化、企業ニュース
オーストラリア「ABW」
ABWとは『Activity Based Working』のことで、就業時間や場所を自由に選べる働き方を指します。
社員の幸福度を高めることが、優秀な人材の定着につながるとの考えから、オランダで生まれた働き方です。オーストラリアでは、以前から国が積極的にABWを推進してきました。
個人デスクをなくす『フリーアドレス』だけでなく、自宅やカフェ、屋外などでも働けるワークスタイルを導入することで、一人ひとりの生活や価値観に合った働き方を選択できます。
企業にとってはコストの削減に、社員にとってはワークライフバランスの実現につながるため、両方にメリットがあるとされています。
企業がウェルビーイングを行うメリット
ウェルビーイングの推進は、企業経営にさまざまなメリットをもたらすといわれています。主なメリットを三つ紹介します。
健康経営の促進
従業員の健康管理は、企業経営にとって大変重要な課題です。従業員が、皆心身ともに健康な状態にあれば、生産効率が上がって業績アップが期待できます。
アメリカの企業の調査では、健康管理への投資1ドルに対して、3ドルのリターンが見込めるとの報告があるほどです。
またウェルビーイングの実践は『従業員の幸福度を優先する企業』といった、よいイメージにつながります。優良企業として社会的に認知されるだけでも、大きなメリットといえるでしょう。
参考:企業による「健康投資」に関する情報開示について|経済産業省
離職率が下がり人材も集まる
ウェルビーイングには、離職率を下げ人材確保が容易になる効果も期待できます。心身ともに健康な状態にある人は、仕事に前向きに取り組めるうえに、周囲を思いやる余裕を持てるようになるためです。
ウェルビーイングによって健康な従業員が増えれば、職場の雰囲気が良好になり、人間関係によるストレスで辞める人を減らせるでしょう。
職場の居心地がよい、働きやすい企業との評判を聞いて、優秀な人材が集まってくることも十分考えられます。
生産性の向上も期待
ウェルビーイングの実現には、それなりの費用や時間がかかります。従業員の業務時間を減らしたり、休暇を増やしたりすれば、生産量が減って業績に響く心配もあるでしょう。
しかし実際には、ウェルビーイングを実施する企業では従業員のモチベーションが上がり、生産性も向上することが期待できます。
快適な状態で、やりがいを持って働ける環境を整えることで、個々のパフォーマンスを最大限に引き出せるのです。一見すると遠回りな施策であっても、最終的には大きな利益につながるといえます。