裁判所の判断
裁判所が出した結論は、
× 訴え ~その1~
× 訴え ~その2~
○ 訴え ~その3~
○ 訴え ~その4~
となりました(長崎県ほか事件:長崎地裁 R3.8.25)
認められた賠償額は33万円です(慰謝料30+弁護士費用3)
順番に解説しますね。
× Xさんの訴え ~その1~
Xさん
「必要もないのに接近してくるんです」
↓ 上司Yはデカかったようです
職場の人も「コイツちょっと近くねーか」と感じていました。F総括に対し「Xさんと上司Yの話す距離が近いように思えます..」と伝えていたんです。
あと、
「私の手を握ってマウス操作をしてきます」
「上司Yの腕が私の胸に触れるんです」
とXさんは主張しましたが・・・無念でした。
裁判所は「業務上の必要性があるときに、至近距離に接近することや、パソコン操作をした際に手が当たり、腕が胸に触れたとして、そのことが平均的性労働者を基準として、性的不快感を与えるものとして、違法であるとまではいえず、身体の接触等について、上司Yの行為が違法であるとは認められない」と判断。
・・・?
・・・・・分からんわ~
肉体労働ならまだ分かるんですよ。倉庫内作業や引っ越し作業とかなら。不意に当たってしまうことがあるかも。でも今回デスクワークですよ。至近距離まで迫る必要性あります?女性の胸にあたることなんかナイでしょ。
Xさんは「私の手を握ってマウス操作をしてきます」と主張しましたが、残念ながらそこまでは認定されず。〈パソコン操作をした際に手が当たり〉というフワッと認定にとどまりました。この主張が通ってたら確実セクハラなんですけどね~。
× Xさんの訴え ~その2~
上司Yが
1. 「俺じゃダメかな」
2.「俺の前ではそういうことをいってもいいけど 」
3. 「俺の何が気に食わないの」
と発言した点についても・・・無念です。
裁判所は「前後の経緯に照らせば、いずれも上司が原告を指導する立場にあることを前提に、発言1と発言3は、指導者として不適切か、不満があるのか問うものであり、発言2は現地調査に向かう際に、現地調査の際には、そ のようなことを言わないようにとの趣旨で述べたも のであることが認められ、原告に男性らしさをア ピールするために使用したものとは認められない。 以上によれば、上司Yの発言が、平均的女性労働者を基準として、性的不快感を与えるものとして、違法であるとは認められない」
○ Xさんの訴え ~その3~
上司Yの指示が理解できなからメモをとろうとしたら
「メモをとるな」って…。
これはパワハラ認定されました!
裁判所は「原告は上司Yの説明を十分に理解できずにいたところ、メモをとることを制限されたことも、理解を困難にした要因であったと認められるから、上司Yがメモをとることを制限したことは、合理的な理由なく原告の業務習熟を妨げるものであり,違法」と判断。
上司Yの説明はヘタクソだった可能性が高いですね。Xさんの前任者も「上司Yの指示は要領を得ず、強い口調で指導されることがあるんです…」と上司に訴えていたと認定されているので。
○ Xさんの訴え ~その4~
辞めたいことを上司Yに伝えたら、
「俺の何が気に食わないのか」
「逃げるのか」
「俺に対して失礼だと思わないのか」
と言われました。
これもパワハラ認定されました!
裁判所は「職意向を示した原告に対し,原告が上司Yによるパワハラを訴え、辞めようとしているものと捉え、自己防衛的に原告を非難するものであり、退職意向を示した部下に対し、事情を聴取する際の上司の言動として、不適切であることが明らかであり、社会通念に反し,違法」と判断。
▼ 慰謝料の額
・メモとるなパワハラ
・「逃げるのか俺に失礼じゃないか」発言パワハラ
で認められた慰謝料は30万円です。
Q.なぜ慰謝料が30万円になったんですか?何か基準でもあるんですか?
A.いい質問ですね~。
・・・・
わがんねーっす!裁判官が「エイ!」と決めます。裁判官は過去のパワセク事案の慰謝料を調べて煎茶でも飲みながら「今回は、うーん、こんなもんかな」って決めます。
▼ 病院には行った方がいい
Xさんは「セクパワが原因で適応障害になりました」と主張しました。
この主張が認められたら(=セクパワと適応障害との間の因果関係が認められたら)慰謝料が跳ね上がります。3ケタに乗ることが多いです。
しかし、今回、裁判所は認めませんでした。
でも!
↓ 裁判所は「ひょっとしたら適応障害への影響もあったかも…」と考慮してくれてます。
それを考慮して慰謝料がチョイ増しになったと思います。なので、セクハラ・パワハラに遭遇して心身がヤバくなってきたら通院をオススメします。
さいごに
録音の重要性についてお伝えします。
今回、Xさんは「私の手を握ってマウス操作をしてきます」と主張しましたが、残念ながらそこまでは認定されず。
しかし!
録音があれば一撃でセクハラ認定されてた可能性ありです。たとえば「あ・・あの・・・マウスは自分で操作できますので」という発言を録音していれば、裁判官は「ムムッ!女性の手に触れておるな!キショ!セクハラだ」と認定してくれる可能性が高まります。レベル高めですが工夫してみてくださいね。
「こんな解説してほしいな~」があれば下記URLからポストして下さい。
では、また次の記事でお会いしましょう!
取材・文/林 孝匡(弁護士)
【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。
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