明らかに得する選択肢を目の前に提示された場合、手を伸ばしたくなるのは人情だし、むしろ多くは我先にとつかみ取ろうとするだろう。しかしその判断は本当に利益をもたらすものなのか——。
得をしようとして損をした話を聞かされる
昨日、仕事関係者のある人物から予定してた旅行をキャンセルしたので、週末は東京にいるという旨の連絡を受けた。
何のことはない業務連絡なのだが、聞いてもいないのに詳しい経緯を教えてくれたのだ。それによれば事は少しばかり複雑で、なかなか残念な話でもあった。
午前中から東新宿駅界隈で所用があり、用件を済ませてから明治通りを池袋方面に歩いていた。午後2時半になろうとしている。冬晴れの空が清々しい。
通り沿いにある区営スポーツ施設、早稲田大学理工学部、戸山公園を横目に進んできて、訪通りを越えると東京メトロ副都心線・西早稲田駅のメインの出入口が見える。このまま高田馬場駅界隈まで歩くつもりだ。今日はまだ何も食べていないので、どこかで昼食にしてみてもよい。
旅行をキャンセルしたという知人からの連絡だが、話を聞いてみるとそもそもは昨年10月に以前から行きたかった某県某所への旅行を計画していたというのだ。いったんは日取りまで決めたものの、残念ながら仕事の状況とどうしても折り合いがつかずに秋の旅行は断念することになったという。
しかし問題となったのは10月の時点で勢いに任せて県内で使えるプレミアム食事券を2万円分購入してしまったことであった。この食事券は利用期限が今年1月半ばに設定されていることから、年が明けてから再び旅行のプランを練り、この週末に1泊2日で旅を楽しむことにしたのだ。
しかし今回も土壇場になって仕事のスケジュールと重なり、あえなく諦めざるを得なくなったということだ。そして購入した2万円分の食事券は使うことなく期限切れになることが決まってしまったのである。
それにしても2万円分の食事券をみすみす失ってしまうのはもったいない限りだ。その知人が言うには、仕事を返上して旅を楽しむ選択もあったということだが、それだと単純に失われるもののほうが大きくなるという。
2日間仕事をして得られる見返りや信用、実績などを考慮すれば、2万円の食事券を失うことは甘受すべきということだ。まぁそれは賢明な判断だろうとは思う。旅に出るとすれば当然だが交通費や宿泊費もかかる。
その食事券は1万円で1万2500円分の買い物ができるというお得なもので、知人はお得に旅を楽しもうとして食事券を購入したことは間違いない。この食事券のキャンペーンには予算額があり、売り切れて買えなくなる可能性もあったことから、2万円分を購入した時点で知人は5000円の利益を得た幸運な人物であった。
しかしその後の紆余曲折を経て、皮肉にも結果的に2万円を失うことになった。得をしようとして打って出た行動だったが、そもそもそんなことをしなければ損をすることもなかったのだ。得をしようとして損をしたことになる。