【私たちの選択肢】クィアギャル・遊楽木節子 後編
人生に行き詰まると、わたしたちは目の前の世界しか見えなくなります。そんな時、知らない世界や知らない誰かの人生を知ると、すこし気持ちが楽になったりします。
人はいくつもの選択肢をもっている。そして自由に生きることができる。このインタビューは、同じ世界に生きている”誰か”の人生にフォーカスをあてていきます。
アイドルグループのメンバーでありながらカミングアウト
アイドルグループ在籍中に、性的マイノリティのクィアであることを公表、ジェンダーの理解を深めるために現在はソロアーティストとして活動をしている遊楽木節子さん。
前編ではアイドルになるまでのきっかけ、そして自分のセクシャリティとの葛藤をお聞きしました。後編ではまず、カミングアウトをするきっかけになった出会いについて触れていきます。
前編はこちら
【私たちの選択肢】ジェンダーへの理解を深めるために活動を続けるクィアギャル・遊楽木節子
【私たちの選択肢】クィアギャル・遊楽木節子 前編 人生に行き詰まると、わたしたちは目の前の世界しか見えなくなります。そんな時、知らない世界や知らない誰かの人生を...
「誰にも言えなかった自分のセクシャリティをカミングアウトしようと思ったのは、ライブ現場が一緒になったSSW・足浮梨ナコさんとの出会いが大きかったです。梨ナコさんはすでに自分がクィアであることをカミングアウトしていて、社会を変えていきたいと発言をしていました。そのライブはちょうど衆議院選挙の日だったんです。当時15歳でまだ選挙権をもっていない梨ナコさんがこんなにいろいろ考えているのに、わたしはこのままでいいのかなって思ったんです」
自分も話したい、自分だからこそ話せることがある。そう確信した遊楽木さんは、自身のセクシャリティについてつづったnoteを公開。その内容は大きな反響を呼び、アイドルファンに留まらず海外でも記事が拡散されました。自分の気持ちが受け入れられていく一方で、アイドルグループに所属をしている自分がカミングアウトをすることで周囲を困惑させていないか不安にもなったといいます。
「女の子同士のグループだからぎくしゃくしてしまわないかとか、着替えをする時にクィアの人がいたら相手はどう感じるだろうかとか…考えるとこわかったです。だけど、メンバーは変わらずにいてくれた。ファンの方も、”自分は当事者じゃないけれどこういう考え方もあるんだと知ることができた”と声をかけてくれました」
もっとジェンダーのことを考え、話し合いたい。当時所属していたグループのプロデューサーに直談判をし、足浮さんとのトーク配信を実現。JGBTQ関連の映画やドラマを軸に、明るく自らのセクシャリティについて語らいました。そのトーク配信は現在も継続。タイトルは「ウチらの放課後トーク!」と名付けられました。学生時代、放課後の恋バナに参加できなかったふたりの願いがつまっています。
それらの活動を重ねるうちに、遊楽木さんの周りの人々にも少しずつ変化が出てきました。
「”彼氏ができたらクリスマスはどうする?”みたいな話題が出るとき友人がわたしに、”彼氏とか彼女ができたときは〜”という聞き方をしてくれるようになったんです。異性愛の押し付けをされなくなって気持ちが楽になりました」
パートナシップ制度では足りないこと
自らを語るなかで多くの当事者に出会い、悩んでいたのは自分だけではないんだと安心をすると同時に、遊楽木さんはまだ解決できていない大きな不安に気づきます。
「日本では同性婚が認められていません。まわりの当事者の方から話を聞いていると、パートナーシップ制度では全然足りないのだと思い知らされました。病気になっても病室に通してもらえなかったり、結婚をするために同性婚のできる国に移住をしたり。自分にパートナーができたときに、性別が異性同士じゃないからといってそんな状況になったらこわくて希望がないと感じたんです」
いつかずっと先のことだと思っていた”同性婚”という壁に、今まさに直面している人々がいる。その姿を知るほど、いつかの自分のためだけではなく、今身の回りにいる当事者の人たちの力になりたいと思いました。
「今まではLGBTQというネットの中の存在みたいに思っていたけれど、そうじゃなかった。わたしたちは同じ日常にいるんです。ジェンダーの話題はどうしても暗くなってしまいがちですが、ウチらは絶対に明るい方向にもっていきたい。 放課後に教室で話すみたいに、普通のテンションで普通に話す当たり前の話題にしたんです」
セクシャルマイノリティやカミングアウトという言葉をなくしたい
クィアである自分を誇って活動をしたい。そして自分が世にでることによって、こういう人もいると知ってもらいたい。そう願った遊楽木さんはグループからの卒業を決心。自分の個性を今まで以上に出したいと考えました。
「特に未成年のLGBTQ当事者の方に届けたいんです。保健体育の授業も学校の恋バナも、異性愛が前提。わたしがもっと活動をしてクィアポップアイコンになって”自由なんだよ”と伝えたい。最終目標としては、セクシャルマイノリティやカミングアウトという言葉をなくしたいんです」
遊楽木さんのnoteには、「カミングアウトしないからこそ自分を守れることももちろんある」を前提として、「伝えたいけど差別や偏見を恐れて伝えられない人がいるなら、マイノリティであってもこんなに人生最高ってことを私が身をもって証明できる存在になりたい」とつづられています。
しかし、カミングアウトをすることで自分を偽らなくて済む反面、遊楽木さん自身が心無い言葉を受ける可能性もあります。それでも発信し続けようと思っているのは、自分への決意でもありました。
「自分で自分を勇気付けているところもあるんです。今でも葛藤はあるし、つらい思いはしてきたけれど、カミングアウトしてからの人生のほうがほんとうの自分で人に出会える。いろんな選択肢はあるけどこういう生き方もあるよって、誰かがつらくなったときにわたしの姿を見て光の方向を向けたらいいなと思っています」
自分のセクシャリティを誰にも言えずに悩んでいる人が、ネットで検索をしたときに「ウチらの放課後トーク!」が出てきてほしい。クィアを公表している二人組が楽しそうに話している配信を見て、一人じゃないと気づいてほしい。夢はたくさんあります。
「カミングアウトをしたら差別されて、その後はずっと暗い人生になってしまう。そう思い込んでいたのは自分自身だったんです。あくまで”わたしの場合は”ですが、世界は思ってたより優しかったって気づけました。その経験をもって言えることがあると思うから、いつか母校で講演会をして、子どもたちにLGBTQの存在を伝えていきたいです」
人の心はいつだって自由。既存のテンプレートでは不足があるならば、選択肢さえ増えれば社会はもっと広く、もっと豊かになります。今はまだ迷いや揺らぎのなかにいる誰かが、遊楽木さんの存在を知ることによって“ウチらって最高じゃん“と笑い合うことができるように、わたしたちが自分らしくいられるためにゴールなく考え続けたいのです。
遊楽木節子 Profile
2018年よりアイドル活動を開始。2021年12月より足浮梨ナコとともにドラマや音楽などについて自身のセクシャリティの意見を交えながら語り合う「ウチらの放課後トーク!」を定期配信している。ミスiD2022エンジェル賞。
文・成宮アイコ
朗読詩人・ライター。機能不全家庭で育ち、不登校・リストカット・社会不安障害を経験、ADHD当事者。「生きづらさ」「社会問題」「アイドル」をメインテーマにインタビューやコラムを執筆。トークイベントへの出演、アイドルへの作詞提供、ポエトリーリーディングのライブも行なっている。EP「伝説にならないで」発売。表題曲のMV公開中。著書『伝説にならないで』(皓星社)『あなたとわたしのドキュメンタリー』(書肆侃侃房)。好きな詩人はつんくさん、好きな文学は風俗サイト写メ日記。
編集/inox.
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