生き馬の目を抜く厳しい金融街で働くエリートたちは、なぜ詐欺師にまんまと騙されてしまったのだろうか?
「自分だけは詐欺師に騙されない自信がある!」という人にこそぜひ見ていただきたいのが、2023年1月4日よりNetflixで独占配信中の『バーナード・マドフ: ウォール街の詐欺師』。
アメリカで製作されたドキュメンタリー・シリーズだ。
映画『テッド・バンディ』やNetflixドキュメンタリー『殺人鬼との対談』シリーズのジョー・バーリンジャー監督が手がけている。
<あらすじ>
被害総額640億ドル、巨額の投資詐欺で2008年12月に逮捕されたナスダック元会長バーナード・マドフの事件。
もともと貧しいユダヤ系移民の家庭に生まれ育ったマドフは、戦争中の飢えや実父の事業失敗などを経験したこともあり、成長するにつれて富や社会的地位への並々ならぬ執着を持つようになった。
成功を目指してロースクールに入学したが、授業についていけず1年で中退。
それでも大金を稼ぐ夢を諦めたくなかったマドフは、義父のサポートを受けてウォール街で証券会社を設立。
店頭株取引で収益を着実に伸ばしつつ、さらに投資顧問事業も始め、巧みな交渉術と高いリターンで順調に顧客を獲得していった。
しかしマドフの輝かしい実績を疑いの目で見る顧客や競合会社も次第に現れるようになり、2008年の金融危機で遂にポンジ・スキームが発覚する。
当時の映像や関係者らへのインタビューを交えつつ、稀代の投資詐欺師の実態を深掘りしている。
全4話。
<見どころ>
本作に登場する“ポンジ・スキーム”とは、有名詐欺師チャールズ・ポンジの名前に由来する投資詐欺の手法。
「自分にお金の運用を任せてくれれば高いリターンを返す」と約束して投資家から言葉巧みにお金を集め、実際には一切運用を行わずに自分の懐に入れるというものだ。
ポンジ・スキームでは、他の投資家から集めたお金を“配当金”と偽って渡すため、最初のうちはなかなか騙されていることに気づけない。
そのポンジ・スキームが2008年にバレるまでは“投資の神様”や“ウォール街の名士”、“信頼できる人ナンバーワン”などと崇められ、ナスダック会長にまで登り詰めていたのだから、世間の名声というものがいかにいい加減なものなのかが良くわかる。
真実の姿は“大嘘つきの詐欺師”なのに、やれ全知全能だのやれ大物だのと絶賛され尊敬され持ち上げられまくっているマドフを見ていると、意外と皆“何となくの雰囲気”や“自分にとっていい人(=メリットがある人)かどうか”だけで人を判断しているのだな、と冷めた気持ちになってくる。
上昇志向の強いマドフは、結婚相手選びも抜かりなかった。家柄が良く成績優秀で働き者で容姿端麗な女性との、いわゆる“逆玉婚”。
そしてエリートな義父のコネで、自分の証券会社もちゃっかり設立。
当初は結婚に反対していた義父からなんやかんやで優良顧客をたくさん紹介してもらい、あっという間に高収入を達成。
ロースクールの勉強にはついていけなかったようだが、要領が良くコミュニケーション能力も高く、商才もある程度あったようだ。
本作のマドフに限らず、ドキュメンタリーで取り上げられるレベルの有名な詐欺師は基本的に能力が高くエネルギッシュな人物が多いので、「なぜ真面目に合法なビジネスをしなかったのか?」と残念な気持ちになる。
非合法の手段で100儲けるより合法的に70儲け続ける方が長期的には幸せになれるのになぁ……と思うのだが、後者をどうしても選べないのが詐欺師の気質なのだろう。
気質というのは体質と同様に、意志だけの力で簡単には変えられないものだ。
ちなみにNetflixでは、実在する詐欺師を題材とするドキュメンタリーが本作以外にも充実している。
たとえば『ヴァンナ・マルキ:TVショッピングの女王』ではイタリアで怪しい商品を売って荒稼ぎしていた女性詐欺師があっけらかんとインタビューに応えているのだが、イタリア語でも伝わってくるトークスキルの高さには舌を巻いてしまう。
Netflixシリーズ『バーナード・マドフ: ウォール街の詐欺師』
独占配信中
文/吉野潤子