発売から1か月で100万食、10か月で500万食を突破し、発売1周年を過ぎた今も快進撃を続ける日清食品冷凍の「日清本麺」。〝日清が本気で創った一杯。〟という魅惑的なキャッチフレーズの期待を裏切らず、ラーメンマニアからも称賛の声が上がるという大ヒット商品は、いったいどのようにして生まれたのか。気になる今後の展望は?など、日清食品冷凍の三島健悟さんに聞いた。
(左)日清本麺 こくうま醤油ラーメン
(中)日清本麺 濃厚味噌ラーメン
(右)日清本麺 ゆず塩ラーメン
冷凍麺の世界で、ラーメンだけが時代遅れだった
構想から6年を経て、2021年9月に発売された『冷凍 日清本麺』シリーズ。なぜ、冷凍ラーメンというジャンルで“日清の本気”を見せることになったのだろうか。
「6年かけようとしていた訳ではなく、結果的にこれだけの期間が必要でした。パスタやうどんの冷凍技術は、高いレベルに進化したと思いますが、ラーメンはまだその境地にたどり着いていなかった。市場では、あんかけラーメンやチャンポンなど具やスープに焦点を当てた商品が中心で、麺自体はそれほど期待されていなかったんです。我々は並々ならぬラーメンへの情熱と開発力を持つ会社です。冷凍ラーメンを担当してからずっと、これでいいのか……とモヤモヤしていました。そんな中、開発部門から冷凍ラーメンの世界を広げることができそうな新しい技術の話を聞き、一念発起して開発にチャレンジしたのが『冷凍 日清本麺』シリーズです。」
大型ヒットとなった『冷凍 日清本麺』は、王道の醬油ラーメンへの挑戦から始まった。
写真は『日清本麺 こくうま醤油ラーメン』。
目指したのは王道のラーメン、そして麺の存在感を強めて主役にすること
即席麺やチルド麺では、“王道の醤油ラーメン”や“王道の味噌ラーメン”が当たり前に買えるのに、冷凍ラーメンにはそうしたものが定着していない。即席麺やチルド麺では“美味しさの概念”が出来上がっていたが、冷凍麺では未開の分野ともいえる状態だったのだ。
「旨いラーメンとは何なのか」。三島さんは3つの課題を掲げた。
1 麺の風味、鼻から抜ける麺の香り
2 小麦の味
3 食感
ラーメンがパスタやうどんと違うのは、かんすいの存在だ。麺をすすった時に、かんすいの風味が鼻から抜ける。このラーメンらしい香りが、今までうまく出せていなかった。
「この香りを冷凍ラーメンで出せるようになったことが、最大の進化といえます。ラーメン店と変わらないレベルの麺だよね、とご評価いただくゆえんです」
そして麺の食感も、日清食品冷凍ならではの麺に対する愛と美学が反映されている。
「今まで弊社の冷凍ラーメンは、麺の表面がつるっとしていたんです。でも、ラーメン店のゆでたての麺は、表面にわずかな質感がある。ほんのわずかな違いですが、食べる時に気づいてしまうんです。それは麺文化が根付いている、日本人ならではの感覚かもしれませんね」
『冷凍 日清本麺』シリーズの麺は、表面にちょっと質感があって、噛みしめれば小麦の香りと味が広がる。社内のラーメンのスペシャリストたちが「小麦の花が咲いている」と称する麺が、未開の地・冷凍ラーメンの世界に降臨したのだ。
〝麺〟に全集中をかたむけ、誕生した『冷凍 日清本麺』シリーズ。
頑固なラーメン屋のように〝電子レンジ専用!〟を打ち出した
「お客様が限定されてしまうことはわかっていましたが、今回は鍋を使わないレンジ専用商品としました。頑固なラーメン屋じゃないですが、うまい麺をベストな状態で食べて欲しかったので」
『冷凍 日清本麺』シリーズには、電子レンジ調理だからこその高度な技術も盛り込まれている。
「電子レンジの中で麺の入った内袋が加熱されると、麺の上に付けた氷が水蒸気となり、内袋の中にたまって麺を蒸すように加熱します。麺の食感に大きく影響するので、水分の量は緻密に計算しています。さらに、内袋のままレンジ加熱することで、麺の香りを閉じ込めることもできるんです」
誰でも上手く調理できる。再現性の高さはレンジ調理の大きなメリット。
麺のスタイルは三者三様。麺に合わせて、スープも調整
現在『冷凍 日清本麺』シリーズは3種。醤油ラーメンはしなやかな食感のストレート麺で、流行りのラーメン店などにありそうな食感だ。味噌ラーメンは黄色いちぢれ麺で、こってりとした濃厚なスープによく絡む。女性をターゲットにしたゆず塩ラーメンは平打ち麺で、すっきりとしたスープと相性がよく、心地よいのど越しが楽しめる。
「最初に完成したストレート麺は、すっきり系の醤油ラーメンに合わせると、麺の味にスープが負けてしまったんです。そこで、バランスが取れるように、コク深いスープを採用するなど、麺に合わせてスープを調整しました。」
(左)『日清本麺 濃厚味噌ラーメン』
(右)『日清本麺 ゆず塩ラーメン』
感度の高いラーメンマニアの熱意が、興味のなかった人々にまで伝播する
発売当初、まず最初に飛びついたのはマスコミとラーメンマニアだったという。その後、一般の消費者にも商品が知れ渡り、SNSなどに「日清本麺があったら、ラーメン店に行く回数が減ってしまうかも」というコメントが上がるまでに。
「冷凍ラーメンの〝麺〟のレベルアップという、消費者の方々も気づかなかった潜在的なニーズに気づけたことがヒットを導いたと考えています。また、即席麺と違って、冷凍ラーメンは食べたことがない方も多いことから、商品の打ち出し方も少し変えました。〝日清が本気で作った旨い麺。それが冷凍だった〟として、「冷凍」ではなく「日清」を前面に出すことで、一度食べてみようかなというムードが消費者の方々の間に生まれました。SNSの熱心な投稿も後押しとなって、ラーメンマニアではない、一般の方々にも“おいしい冷凍麺の新製品”として広まっていったように感じます」
厳しい食品業界を1年のりきった御礼企画は「1誕(ワンタン)」。そして未来への展望
冷凍ラーメンの新製品で1年間売場に残ることは、結構難しい。保守的な消費者が多い業界なので、新製品を出してもなかなか売場に残らないのだ。
「日清本麺は発売1周年を迎え、好評のまま2年目に入ることができました。そこで、感謝の気持ちを込めて実施したのが「ワンタン1個サービス」の期間限定品の発売です。〝1〟周年〝誕〟生祭ということで、1誕(=ワンタン)をプラスしました。ラーメン屋さんでもよく、具材をプラスするサービスとかやっていますよね。そういう雰囲気を出したかったんです」
ワンタン付きの期間限定品は2022年11月から2か月程度の限定でリリースされている。
新製品を出してもなかなか売場に残らない業界で1年、大きな支持を受け続けた「日清本麺」。もはやロングセラーに育つ予感しかしない。
「最初はラーメンマニアに認められるような味に仕上げましたが、今後はすっきり系のラーメンなど、スーパーのメインターゲットである40代以上の女性にも響く味をつくりたいと思っています。」
小学館DIMEトレンド大賞で食品部門賞も受賞!その感想はいかに?
「この度は、本当に素晴らしい賞を頂戴し、関係者一同、深く感謝しております。我々の麺へのこだわりや情熱が、本当に消費者の方々に伝わるのかどうか、不安を抱えながらスタートした開発でしたので、生みの苦しみは少なからずありました。発売してからは多くのご支持をいただけたうえに、DIMEトレンド大賞も受賞することができ、充実感と達成感でいっぱいです。まだ生まれたばかりのブランドですので、気を引き締めて、長く愛されるブランドに育てていきたいと思います。最終的にはお店のラーメンを食べに行かなくても、『冷凍 日清本麺』シリーズがあればいいと言わせるレベルにしたいですね」
製品情報
https://www.nissin.com/jp/products/brands/honmen/special/1/
取材・文/嶺月香里
DIMEトレンド大賞発表!2022年のヒット商品、話題の人物をまるごとYouTubeで配信中
構成/DIME編集部