産地直送の卵と地鶏で作られた親子丼を賞味
通りを進む。ハンバーガーチェーンに続いてコーヒーショップの前を通り過ぎた。ハンバーガーや軽食というよりも、今は一食分の食事を摂りたい気分だ。
少し先のほうに店の明りが見える。飲食店だろうか。店先には鉢植の植物が並んでいる。花屋かガーデニングのお店なのだろうか。
近づいてみると飲食店だった。店先の展示物を見ると産地直送の卵や野菜、地鶏などが食べられるようだ。「親子丼」の文字もある。久しぶりに親子丼を食べるのもいいだろう。入ってみよう。
店内は広くけっこうなお客の入りだ。家族連れらしきグループが2、3組はいるだろうか。1人客はいなかったが、カウンター席があるので大丈夫だろう。案の定、お店の人にカウンター席を案内される。
席に着き目の前に立てかけてあったメニューを手に取って開き、さっと眺めてみるが心づもりは決まっている。群馬県産の卵を使っているという親子丼を注文した。
店内の中央付近にはカゴに積まれた卵が陳列されているテーブルがある。ここで卵を買って帰ることもできるのだろう。アンティーク調のインテリアで天上も高く、山間部の国道沿いにあったりするカフェレストランのようだ。だがチェーン店ならいざ知らず、今はそうした趣のある田舎のカフェやレストランもきっと少なくなっていそうだ。
親子丼がやってきた。月並みだが見るからに美味しそうだ。さっそくいただこう。
木のスプーンで卵でとじられた鶏肉の一片をすくって口に運ぶ。美味しい。続けてタレが染みたご飯をすくって追いかける。何も言うことはない。ちなみに鶏肉は山梨県産の地鶏で、お米は長野県産のコシヒカリということだ。
乗っている生卵の黄身を箸の先で刺し、崩れた黄身を絡めて食べる鶏肉とご飯も格別である。ランチタイムには卵かけご飯の食べ放題もあるということでなかなか楽しそうだ。
スマホを持たぬ身として個人的には外食での“スマホ食い”がそもそも不可能なのだが、世の中的には今やまったく普通のことになっている。だがこうして特別に美味しいものを食べている時はやはりスマホから目が離れるのではないだろうか。
その意味では美味しいものを食べる体験というのは味覚を楽しむことに加えて、ホッと“ひと安心”できる時間でもあることになる。安心できる状況であれば、スマホを置いて料理を眺めたり辺りを見回す心の余裕も生まれてくるのだろう。
美味しいものを食べることはメンタルヘルスの改善にもつながることになるが、その一方でくれぐれもカロリー過剰摂取には気をつけなければならない。この親子丼を美味しくいただいたら今夜はもう何も食べないことにしよう。まぁそれでも少しばかりの寝酒は嗜むのだが……。
文/仲田しんじ