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ドラえもんを本気で作っている研究者が挑む〝ロボットを愛する〟心の準備

2022.12.19

もし目の前にいる人から「ドラえもんをつくりたい」と言われたら、あなたはどんな反応をするだろう? そんなの無理? 出来るわけない?

──いえいえ、実際に「つくれる自信がある」と言うのが、マンガ『ドラえもん』でドラえもんが誕生する設定の2112年9月3日よりも前にドラえもんをつくることに本気で取り組んでいる日本大学の大澤正彦助教なのです。……とはいえ大澤さん、ドラえもんをつくるって、どういうことなんでしょう?

日本大学文理学部情報科学科助教
大澤正彦
1993年生まれ。東工大附属科学技術高校、慶應義塾大学理工学部を首席で卒業。慶應義塾大学大学院理工学研究科開放環境科学博士課程終了。博士(工学)。次世代社会研究センター(RINGS)センター長も務めている。

ドラえもんを“つくりたい”が“つくる”へ変わった

「最初にドラえもんをつくりたいと思った経緯の記憶はないんですけど、2歳のときにしゃべっていた言葉を親がメモしたものには“ドラえもん”と一生懸命に言っていたり、3歳のときには旅行先の旅館の大宴会場で名乗りを上げて『ドラえもん』の曲をカラオケで歌ったそうです」

物心ついたころにはすでに「ドラえもんをつくりたい」という意識が芽生え、それがずっと変わらなかったという大澤さん。幼いころからロボット好きで工作も得意だったため、小学生のときにロボットセミナーへ通うようになり、さらにロボットとドラえもんへの思いは強くなっていく。

「セミナーにお弁当を持っていくんですけど、一回ロボットをつくり始めたらやめられなくて、いつも帰りのバスで食べていました(笑)。そのくらい没頭してつくってましたね。ただ僕はつくるのは得意だったんですけど、操縦がビックリするくらい下手で、出来上がったロボットを戦わせる勝負になるとすぐに負ける(笑)。それで『もう嫌だ! 操縦するからいけないんだ』と思って、電子工作に移りました。回路を組んで、手を叩くと近づいてくるロボットや、母が部屋に近づいたらアラートが鳴るセンサーなどをつくっていました。だから、今も僕の根底には『つくるのが大好き』がありますね」

その後、高校進学で「機械システム分野(ロボットなど)と情報システム分野(コンピューターなど)、どちらにするかとても悩んだ」という。

「最初は何の迷いもなくロボット科へ行こうと思っていたんですけど、体験入学で機械システム分野は定員オーバーで、仕方なくコンピューター科へ行ったら、それが楽しくて、しっくりきたんです。それで、電子回路やロボットキットだけをこのままずっとつくっていてもドラえもんに近づいている感じがしない、と子供な がらに思って。それよりもプログラミングやコンピューターの考え方を知ったほうがいい、とコンピューター科を選び、高校に入ってから本気で始めました」

でも「ドラえもんをつくりたい」という思いは自分でも実現できる目処が全く立たず、結局人に言えずじまい。しかしその考えが大きく変わったのは、大学へ入って研究に出会ってからだという。

「“つくりたい”という感情が“つくる”という意志に変わった瞬間が2014年、大学4年生のときでした。研究できる環境が手に入り、自分が思い描いているゴールまでにはどういう計画を立てればいいのか考えられるようになって、ロジックの力で主張して自分の夢を守れるようになったんです。そして『全脳アーキテクチャ若手の会』をその年に立ち上げて、信頼できる仲間と出会えた。そこであるときに『ドラえもんをつくる』という夢をふと言ってしまったら、それから仲間が『大澤はドラえもんつくるヤツだからね』と自然に言ってくれるようになったんです。この“認められた経験”が大きくて。自分ひとりだけではドラえもんはできないかもしれない、という不安な気持ちがずっとあったのが、この人たちと一緒なら絶対にできるという イメージが湧いてきたんです」

“ドラえもんの種”を送り出せればいい

「全脳アーキテクチャ若手の会」は脳や人工知能、そしてそれらが与える影響について興味がある人であれば何歳でも、どこに住んでいても仲間に入れる会だ。大学3年生だった大澤さんはまず興味のあった脳全体の構造や、それを参考に設計した人工知能について学べる「全脳アーキテクチャ勉強会」に参加、そこで出会った仲間と新しいコミュニティを作ろうと「若手の会」を立ち上げた。その際に「30年続くチームをつくって、30年のプロジェクトとして計画を立てよう」と提案、今もそのロードマップにのっとって研究を続けているという。

「2044年までの30年間を4つの区間に分け、今は第1クォーターが終わったところです。この間にどんな技術が必要かというイメージも湧いたので、プロジェクトとしては全体の1/4の進捗があった、想像以上に進んだといってもいいのかなと思ってます。いま僕らがつくっているのは“ドラ、ドラ”としゃべる小さなロボットです。僕らの考えているドラえもんの定義は、世界中の人全員に『このロボットはドラえもんだ』と認めてもらえること。そこから考えると、今はまだまだドラえもんだと認めてくれる人は、誤差にも入らないくらいで(笑)。でもある人にとってこのロボットは何%くらいドラえもんだと思ってもらえるんだろう、という一人ひとりの思いも大事じゃないかなと考えているんです」

そして「2044年までにドラえもんを構成する技術を世の中に全部送り出して、プロジェクトを完了したい」と言う大澤さん。

「“完成”じゃなくて“完了”なんです。『これができたものですよ』と完成したロボットを送り出すのではなくて、“ドラえもんの種”みたいなものを送り出せればいいのかな、と思ってるんです。例えば、いきなり賢いロボットが家にやってきて『これと一緒に暮らしなさい』と言われたら、ちょっと怖いですよね? それは人間同士でもそう。だからロボットと暮らすことも、ずっと一緒に過ごしてお互いに気心が知れている人や自分の子供と暮らすのと同じだと考える、つまり赤ちゃんみたいな状態から自分の手元でロボットが育っていけば、『ドラえもん』の世界でドラえもんが周りから愛されているのと同じ世界になる。だから、2044年までに僕らの生きている世界でも、ロボットを愛せる心の準備ができて、受け入れられるような状態になってほしいんです」

科学技術の進化は人間を置き去りにすることで上手くいっている

2022年にはキーワードを与えるだけでプロ顔負けの精密な絵を自動生成するサービスが話題となるなど、AI(人工知能)が膨大なデータを解析して自律的に学ぶディープラーニングの技術が飛躍的に向上するなど、科学技術は驚くほどの速さで進化が続いている。

「2012年頃にディープラーニングが広まって、それから10年経ち、その進化はホントに止まることがないというよりどんどん広がっていっている、というのが僕の解釈です。『AIに絵が描けそうだ』というのは5年くらい前から言われていたので、これまでに『できるだろう』と予測されたことはほとんど可能になっている感覚だし、その方向ではうまくいくだろうと思っています。ただ僕自身はディープラーニングやAIの研究の積み上げに参加しているというよりは、どちらかというとそれを専門的に研究している仲間に背中を預ける感覚でいるんです」

しかし「語弊を恐れずにいうならば、今の科学技術の進化って、人間を置き去りにすることによって上手く行っているところがあると思うんです」と大澤さんは語る。

「科学技術が進歩すれば、それを応用して新しい科学技術をつくる。そうやって技術を生み出すループがつくられるんです。そうすると、コンピューターが10倍速くなったら、10倍速く研究が進むようになる、なのでさらに、さらに……となるんですけど、人間はコンピューターのようにどんどん速くはならない。だから人間が作業に関わるとスケールアップしないので、いなくていいようにコンピューターだけで自動化する、というのが今のトレンドですよね。それが『科学技術の進化=人間を置き去り』の意味です」

このまま人間を置き去りにしてしまうと、いずれは効率化が極限まで推し進められ、曖昧さの一切ない困った世界ができあがってしまう……そうならないために大澤さんが研究しているのが、「HAI(Human-Agent Interaction)」という技術なのだ。

インタビュー後編では、HAIとはどんな研究なのか、何を目指しているのか、その技術が進んだ先にはどういった世界が広がっていくのか、じっくりと大澤さんにお話を伺う。

Q:ドラえもんのエピソードで好きな回は?

「ションボリ、ドラえもん」
(「てんとう虫コミックス ドラえもん 第24巻」収録)

僕はひみつ道具がメインにならない回が好きみたいです。子供の時から「ドラえもんのひみつ道具をひとつもらえるとしたら、何?」という話に興味を持てなかったんですよね。だからひみつ道具よりも、ドラえもん自身に興味を持ったんでしょうね。

「ションボリ、ドラえもん」は、ドラえもんとのび太がいつもケンカばかりしているのを見たのび太の子孫のセワシが未来から優秀なドラミちゃんと一緒に来て、ドラえもんと代わると、全部が上手くいくようになって、ドラえもんが未来へ帰ることになるんです。でもセワシからそう聞かされたのび太が「いやだ!! ぜったいに帰さない!!」とドラえもんを引き止める、という話なんですけど、より便利なテクノロジーではなく、そうではないテクノロジーが選ばれるって、異常事態ですよね?(笑) より生活を豊かにしてくれて、上手くいく存在よりも、ストレスを抱える方を取りたいというのは、ドラえもんとドラミちゃんが『テクノロジーの枠を超えている存在だから』なんですよね。

例えば自分の子供よりもテストの点がいい子供がやってきて、『この子をあなたの子供にしたいですか?』と聞かれたら『そんなわけないでしょ!』となりますよね? 自分の子供だったら、親だったら、友人だったら……と人間に当てはめたら当たり前のことを、ロボットとの関係性で成り立っているのが「ションボリ、ドラえもん」で、僕はそれが当たり前の世界になっていることにドキドキしてしまったんです。だから自分が求めている理想ってここなのかな、自分の価値観ってこのお話からできているのかな、と思っているんです。

Q:ドラえもんのひみつ道具で好きなものは?

「ひみつ道具はどれが好きですか」という質問はよく聞かれるんですけど、僕はひみつ道具でズルをして、ドラえもんが出来ちゃったら嫌なんですよ(笑)。「もしもボックス」なんて絶対ダメです! だからどのひみつ道具ならズルにならないかな、と考えて「雲かためガス」なら大丈夫かな、と。空の雲で楽しくプカプカ遊んだら、戻ってきてドラえもんづくりに専念する、これなら温泉と変わりないかな……と思ったら、雲まで飛んでいく「タケコプター」がある前提なことに気づきました(笑)。

また去年子供と初めて一緒に『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』を見に行ったんですけど、それに出てきた「かべ紙秘密基地」を見て、研究室が狭いからほしいなぁ、と思ったんですよね。でも研究室の場所をひみつ道具で増やすのってやっぱりズルかな、と揺らいでます(笑)。

取材・文/成田全(ナリタタモツ) 撮影/ANZ 

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