かつてはお弁当のおかずや食卓のサブ的ポジションを担うイメージだった冷凍食品が、大きく変わり始めている。そのきっかけと現状について、専門家に話を聞いた。
冷凍食品ジャーナリスト
山本純子さん
冷凍食品新聞の記者を経て、フリー記者として冷凍食品の動向を41年にわたり取材。冷凍食品サイト「冷凍食品エフエフプレス」編集長を務める。
ふたつの冷凍炒飯が冷食の認識を変えた
2020年のコロナ元年をきっかけに、冷凍食品のニーズが飛躍的に高まっている。家計調査による1世帯当たりの冷凍食品の消費支出額の推移をみると、2019年の支出額が前年度比マイナス0.07%だったのが、20年には約14%増加。翌年の21年には約18%増となっているのだ。
「コロナ禍初年度は外出自粛要請で買い物の頻度を抑える人が多く、長期保存ができる冷凍食品のニーズが高まったのは必然だと思います。でも翌年、さらに支出額が増えたのは、それをきっかけに冷凍食品のおいしさを知った人が多かったから。ただ実をいうと、冷凍食品の需要はコロナ以前から増え続けてはいたんです」
そう語るのは冷凍食品ジャーナリストとして活躍する山本純子さん。山本さんによると、そのターニングポイントは2015年。ニチレイの『本格炒め炒飯』がリニューアル発売されたことだった。
「ニチレイが約30億円を投資し、パラパラ感のある本格的な炒飯をさらにおいしくしました。また同じ年に味の素冷凍食品が『ザ★チャーハン』をリリースしたことも大きかった。これによって手作りするより、冷凍食品のほうが手軽でおいしいという認識が一気に広がったんですね。さらにその翌年にはフランスの冷凍食品専門店『ピカール』が日本上陸、2018年には無印良品が初めて冷凍食品の開発・販売をスタート。こうしてじわじわと冷凍食品の良さに対する認識が広がっていった中、コロナで加速したという流れです」
おいしさの秘密は「システム冷凍論」にあり
普段食べない人が一度食べるとその良さに気づいて日々の生活に欠かせなくなるほど、冷凍食品の味は進化している。その大きな理由はやはり、料理の素材や調理法にこだわる、各メーカーの企業努力が大きいようだ。
「よく冷凍食品がおいしくなっている理由に〝冷凍技術が進歩したから〟という方がいますが、凍結の技術や理論はずっと変わっていないのです。東京海洋大学の鈴木徹教授が冷凍食品のおいしさについて、素材・調理と凍結、そして保存、解凍・調理の4要素が掛け合わさった『システム冷凍論』を提唱していますが、その4要素どれが欠けても冷凍食品はおいしくならない。つまり企業努力で素材と調理の部分が格段に進歩したのは事実ですが、消費者が冷凍食品の保存と解凍・調理を間違えば、その味は再現できないのです」
ちなみに冷凍食品の品質はマイナス18℃以下の冷凍庫で、温度変化を少なくすることで保たれる。
「マイナス18℃以下では細菌が繁殖しないので、冷凍食品は基本的に保存料が必要ありません。また急速冷凍により食材の組織が保たれるので、栄養素や味わいもそのままキープできます。よく冷凍食品は体に悪いという人がいますが全く逆。鮮度の良い食材を使い、衛生的な環境で作られていますから」
今や冷凍食品はお弁当のおかずや食卓のサブ的ポジションではなく、メインメニューとしての品質は十分。その流れは今後も加速すると山本さんは断言する。
「冷凍食品協会によると最新の日本人冷凍食品消費量は過去最大の年間23㎏だそうですが、これでも欧米の半分くらい。この数字はまだまだ伸びると思います。日本ではまだ〝手抜き〟のイメージも根強いですが、冷凍食品を使うことは〝手間抜き〟。体にも良くて簡単でおいしいのだから、どんどん活用してほしいですね」
冷凍食品の1世帯当たり年間の消費支出額の推移
冷凍食品の消費支出は2019年を除き増加。コロナ禍のニーズ急増には、冷凍食品が徐々に評価されている下地があったのだ。
出典/『家計調査(総務省)』からGDFreak作成
(このグラフの世帯には2人以上世帯と単身者世帯が含まれる)
冷凍食品を食べる頻度
調査結果によると、半数以上は冷凍食品を食べる頻度を「週1回以上」と回答。食べるシーンで一番多かったのは「夕食」(59.5%)だ。
株式会社ONE COMPATH 『Shufoo!』調べ
※小数点第2位以下は四捨五入しているため、比率の合計が100%にならない場合があります。