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【深層心理の謎】一度不快に感じた音は音量が下がっても気になり続けるのはなぜ?

2022.12.10

 思わず内臓が縮みあがり、鳥肌が立つ不快な大音量を久しぶりに聞いた。油の切れた自転車のけたたましいブレーキ音だ――。

電車内でも路上でも音が気になる

 周囲の音が気になったりすることはあるが、自分が発している音にはある意味で盲点だろう。特に無意識に発してしまっている音は自覚できなくとも不思議ではない。

 今日乗った電車内でドアの脇に立っていたのだが、近くにいた若い男がスマホを眺めながら突然大きな音をたてて鼻をすすったのだ。不快というよりは少し驚かされたのだが、それ以降、どういうわけなのか10秒に1回くらいのペースで小さく鼻をすするようになっていて、何度か聞かされているうちにだんだん不快になってきたことは否めない。

 ポケットテッシュをあげようかという考えも一瞬よぎったが、降りるまであと2駅くらいのことでもあったし気にしないように努めてやり過ごした。おそらく当人には自分が鼻をすすっているという自覚はないのだろう。

※筆者撮影

 所用を終え新宿警察署近くの青梅街道を歩いていた。もう夜8時半を過ぎている。西武新宿駅で電車に乗る前にどこかで何か食べて帰るのもいいだろう。大久保方面側の路地に入ってみることにした。この辺は住宅と中小のオフィスビルが混在している一帯だ。飲食店もそれなりにある。あまり訪れることがないエリアなので様子見を兼ねて少し歩いてみたい。

 耳をつんざく大音量の異音が背後で鳴り響く。整備不良の自転車のブレーキ音であることは間違いない。鳥肌が立ち胃が縮みあがってくるような尋常ではないブレーキ音を聞かされるのも久しぶりのことだ。

 後ろを振り向くと、こちらに向かって初老の男性が自転車を漕いでいる。案の定というか、相当に年季の入った自転車である。すぐ近くにいた歩行者にぶつからないようにブレーキをかけたようだった。

 ブレーキ音の前には気づかなったが、そもそも自転車を漕いでいるだけでチェーンや車輪が軋む音が鳴り響いていた。さらに今さっきほどではないものの、その後も軽くレバーを握ることがあるようで、そのブレーキ音も断続的に鳴っている。

 さっさと追い越してくれればいいのだが、極端なノロノロ運転でなかなか追いついてこない。もし早歩きをしたならむしろ自転車から離れてしまいそうだ。ギーコ、ギーコ、というペダルを踏んで軋む音が辺りに延々と響く。なかなか耳障りだ。

 歩くスピードをかなり緩めてしばらくするとようやく自転車が追い越していった。しかし追い越されたものの、自転車はなかなか先へと走り去っていってはくれない。

 そして当然、漕ぐ度に錆びた金属が擦れる音が鳴り響き、少しばかり不快な気分にもなってくる。誰かを不快な気分にさせていることなど、自転車を漕いでいる当人はこれっぽっちも気づいていないのだろう。

 まぁあまり気にせずにゆっくり歩くことにしよう。徐々にではあるが自転車は先に進み離れていく。

 左には大衆食堂チェーンの店があるが、もう少し先に行ってみたい。そういえばこのチェーンは夏の時期にハイボールとレモンサワーが90円で提供されていた期間があって、それに釣られて何度か足を運んだものだった。師走を迎えている今となっては些細な“夏の思い出”かもしれない。まったく1年が過ぎるのは早いものだ。

音量が低くなっても脳は変わらぬストレスを受けていた

 路地を進む。不快なノイズの発生源である自転車はようやくだいぶ先のほうへと進み、十字路を左折して見えなくなった。

※筆者撮影

 電車の中での鼻をすする音といい、路上での整備不良の自転車の音といい、今日は何かと音に悩ませられる日である。というよりも自分が少し気にしすぎているのだろうか。

 最新の研究では、一度大きなノイズにさらされてストレスを受けると、その後は音量が低下したとしても同様のストレスを受けることが示されていて興味深い。つまり一度気になったノイズはその後もずっと気になってしまうのだ。


 研究者たちは各人の自己申告によるストレスレベルが、空飛ぶ車の騒音レベルに対応していることを発見しました。騒音が大きくなるにつれて、参加者はより大きなストレスを報告しました。

 騒音レベルが低下すると、彼らはストレスレベルが低下したと報告しました。しかし脳活動データは異なるパターンを示しました。

 予想通り、実験でノイズレベルが初めて上昇したとき、脳波データは参加者の間でより高いレベルのストレスを示しました。しかし参加者が大きな騒音にさらされると、騒音レベルが下がった後でも、ストレスレベルは低下しませんでした。

 これは、多くの人が騒音に慣れていると思っていても、知らず知らずのうちにストレスを感じている可能性を示唆しているのかもしれません。

※「Nagoya University」より引用


 名古屋大学と慶応大学の合同研究チームが2022年9月に「Technical Journal of Advanced Mobility」で発表した研究では、近い将来に開発される空飛ぶ車(アーバン・エア・モビリティ、UAM)が普及した社会において、その騒音に対する住民の社会的受容性を、アンケートを使用した社会心理学的評価と、機器を使った脳波測定によるリアルタイム評価の異なる2つのアプローチで分析した。

 実験参加者は、地上15メートルの都市上空を時速25キロメートルで飛行する空飛ぶ車(UAM)のシミュレーション映像を「感性アナライザー」と呼ばれるポータブル脳波装置を装着し脳活動がモニターされている状態で視聴した。

 映像の音声には同じ高度を同じ速度で飛行する産業用ドローンの飛行音が適用されていたのだが、音量(騒音レベル)が異なる8つの映像が用意されてそれぞれ参加者によって視聴された。各映像を視聴した後、参加者は書面によるアンケートに回答してストレスのレベルが評価された。

 研究チームが予測した通り、より騒音レベルが高い映像であるほど参加者はストレスレベルも高くなると回答していたのだが、興味深いことに脳活動はその回答に一致していなかったのだ。

 最初に大きな騒音の映像を視聴した参加者は当然強いストレスを受けたのだが、次により低い騒音の映像を視聴した際、参加者はストレスも低下したと回答したのだが、脳活動は大きな騒音の時と変わらない動きを見せていたのである。つまり当人は騒音に慣れたと思い込んでいたとしても、脳のほうは変わらぬストレスを受けていることになる。

 最初に耳に入った比較的大きな鼻をすする音や自転車のブレーキ音にストレスを受けたわけだが、その後に音量が低くなったとしてもそれらの音には最初と同様のストレスを受けていたことになる。小さくなっても止まない音が気になるのも、ある意味では当然だったということになりそうだ。

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