イーロン・マスク氏がTwitter社を買収し、やりたい放題の様子が連日マスコミを賑わせています。数千人の従業員の解雇、トランプ氏のアカウントの復活、認証バッジの有料化して数日後にそのサービスを停止するなど、マスク氏の行動は破天荒な印象を受けます。
しかし、これらの施策は極めて合理的なもの。マスク氏がトップに立つ前のTwitterが、むしろ普通ではなかったことに気づかされます。
広告主にとって旨味の少ないTwitterのプラットフォーム
Twitterは売上高が競合と比較して低く、その割に多額の経費をかけているという致命的な経営ミスがありました。
2021年度の売上高は51億ドル。130円換算でおよそ7000億円です。売上規模は日本のサイバーエージェントと近い水準にあります。規模は大きいようにも感じますが、最大の競合で同様のサービスを提供するMeta(旧:Facebook)の売上高は1,179億ドル。円換算すると15兆3,270億円。圧倒的な差をつけられています。
※Financial Informationより
Twitter
Meta
Twitterは売上高の9割を広告が占めています。広告事業は閲覧者が多い方が有利です。
ユーザー数はFacebookが全世界で29億、Twitterが3億。1/10ほどに留まっています。Twitterはユーザー数が少なく、広告を出稿する企業からすると魅力がありません。
また、Twitterは短文で投稿するという特徴があるため、広告を出稿しても読み飛ばされてしまうという構造的な欠陥を抱えています。
世界的に見ると、Web広告はGoogleとFacebookに二極化しています。
さらにTwitterは、フェイクニュースや誹謗中傷の発信場所という不名誉なイメージが染みついていました。そのため、創業者のジャック・ドーシー氏はプラットフォームの健全化に注力していました。
マスク氏が大量の解雇者を出すと、従業員がTwitterの投稿内容をチェックし、人為的に操作していたことが明らかになりました。これは健全化を図ろうとしていたことが背景にあります。
マーケティングに多額の費用を投じる不可思議な会社
Twitterは2021年度に5億ドルの営業赤字に陥っています。これは7億6,500万ドルの一時的な和解金が発生したため。Twitterは株価を不正操作したとして2016年に提訴されていました。
それがなければ2億7,300万円の黒字ですが、正味の営業利益率はわずか5.4%ほど。Metaの営業利益率は39.6%です。Twitterは売上高が低い割に、経費をかけすぎています。
その中でもマーケティングコストが高いことが特徴的。Twitterは23.1%、Metaは11.9%です。Twitter日本法人においては、広報部門が全員リストラの対象になったと報じられました。マーケティングコストが重いのは他社と比較すると明らかです。
マーケティング活動がプラットフォームの健全化やTwitterのブランドイメージを向上させ、売上高の伸長に一役買っているのであれば、意味はあります。しかし、そうはなっていません。
マスク氏が、早い段階でマーケティング部門にテコ入れするのも納得ができます。
※Financial Informationより
Twitter
Meta
MetaはFacebookの広告依存を危惧し、メタバースという新領域に先行投資を重ねています。しかし、Twitterは研究開発費が売上高に占める比率においてMetaをも上回っています。
2021年にジャック・ドーシー氏がCEOを退任し、パラグ・アグラワル氏が後任に指名されました。アグラワル氏はエンジニア出身で、Twitterの機能面を強化する戦略を打ち出していました。
音声機能、投げ銭による収益力強化を図ろうとしたのです。2021年5月に新機能として音声ライブ配信機能スペースが搭載されました。しかし、音声SNS「Clubhouse」が登場してすぐに廃れたのと同じく、Twitterのスペースも積極的に活用されている様子はありません。
身の丈に合わない研究開発費をかけても、成果が出ない状況が続いていました。