こんにちは。
弁護士の林 孝匡です。
今回は、ニュースのザックリ解説です。
「スシローさん!きちんと給料はらえよ!」
と労働組合が噛みついたようです。
具体的には、
「手洗い・着替えなどの時間、なぜ無給なんだ」
「その時間分の給料を払え」との要望です。
厚生労働省のガイドラインでは、ザックリと以下の時間は労働時間(=給料が支払われるべき)と定められていますからね。
・着替えの時間
・後始末(清掃など)の時間
・手待ち時間(指示があれば業務開始できるようスタンバイ)
・研修、教育訓練など
以下、ニュースの内容と【給料が支払われるべき労働時間】について解説します。
ニュースの内容
スシローでアルバイトしている方が労働組合に駆け込んだようです
「手洗いや着替えなどの時間に、給料が支払われてないんですけど…」
という相談です。
アルバイトの方いわく、タイムカードを押す前に、
「手洗いや着替えなどをやっておくように」と指示されていました。
それは無給ね、ってことです。
特に手洗いは、指をこする回数まで指定されていたようです。
仕事を始めるまでの準備時間で合計10~15分かかるとのこと。
この準備時間については、スシローはお給料を支払っていませんでした。
労働組合(首都圏青年ユニオン)は、それらの時間は労働時間だと判断し、今後、スシローに対して未払い分の支払いを請求するために団体交渉を求めるようです。
以下、手洗いや着替えなどの時間は労働時間なのか?について解説します。
厚生労働省のガイドラインでは
厚生労働省のガイドラインでは「準備行為」は労働時間にあたると定められています。
なので、今回の「手洗いや着替えなどの時間」も労働時間にあたる(=給料を請求できる)可能性が高いと考えます。
ガイドラインによれば、以下の時間は労働時間になります。
・準備行為
・待機時間(いわゆる「手待時間」)
・研修などの時間
順番に解説します。
■ 準備行為
使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間
今回のスシローのケースは、コレにあたるかどうかが争われることになります。
手洗いや着替えは会社から命じられているので、労働時間に当たる可能性が高いと思います。
そのほか、よくトラブるケースは、待機時間と研修などの時間です。
厚生労働省のガイドラインでは「以下も、労働時間だ!」と定められています。
■ 待機時間(いわゆる「手待時間」)
使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間
これは、指示があれば業務開始できるようスタンバイしている時間です。
ぜんぜん緊張から解放されないので労働時間ってことです。
会社は「何もしてない時間だから」と給料を払わないことがありますが、
会社の指揮命令下に置かれている時間なので労働時間にあたります(=その時間分の給料を請求できる)
看護師さんの裁判例がよく見受けられます。
■ 研修などの時間
参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間
「会社が勉強を命じるならそれも労働時間ですよ」となっています。
最高裁判所の判例
最高裁も同じことを言っています
(三菱重工業長崎造船所事: 最高裁 H12.3.9)
この最高裁判決を元に、上の厚生労働省のガイドラインが作られました。
長崎の造船所で起きた事件です。
「着替え時間などの給料を払えー!」と従業員が声を上げた事件です。
どんな事件かというと、
この造船所では、以下のような規則が定められていました。
・始業時刻に間に合うよう着替えを完了させよ(作業服や保護具などの装着)
・その後、準備体操場に移動せよ
・その後、資材を受け出し、散水せよ
・終業後は、作業場から更衣所まで移動して着替えよ
これを怠ると懲戒処分を受けたり、成績考課に反映されて減収にもつながる場合がありました。
この造船所では、以下の時間について、給料を支払っていませんでした。
・着替え
・準備体操場までの移動時間
・資材を受け出し、散水した時間
・終業後は、作業場から更衣所まで移動して着替えた時間
微々たる時間としても、毎日のチリツモで金額は大きくなりますからね…。
ついに、
そこで、従業員が「この時間分も給料を支払え!」と提訴しました。
■ 最高裁の判断
最高裁は「以下は労働時間だ!」と認定しました。
○ 着替え
○ 準備体操場までの移動時間
○ 資材を受け出し、散水した時間
○ 終業後は、作業場から更衣所まで移動して着替えた時間
その理由としては、以下のとおりです。
・労働時間とは【労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間】をいう。
・業務の準備行為などを義務付けられ、またはこれを余儀なくされたときは、当該行為は、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれていると言える。
・上記4つの時間は、使用者の指揮命令下に置かれている
要するに、使用者の指揮命令下に置かれているかどうかで、その時間分の給料を請求できるかどうかが決まります。
この最高裁に照らしてみても、今回のスシローのケースは、アルバイトの方の言い分に分があるんじゃないですかね〜。手洗いや着替えなどは会社の命令ですから。
まとめ
今回は、スシローのニュースを基にして、給料が支払われるべき時間について解説しました。
ザックリと以下の時間は労働時間にあたります(=給料を請求できる)
・着替えの時間
・後始末(清掃など)の時間
・手待ち時間(指示があれば業務開始できるようスタンバイ)
・研修、教育訓練など
朝礼や終礼の時間分、給料が支払われていない方って、いますか?
厚生労働省のガイドラインに照らせば、支払ってもらえる可能性があります。
会社の方は、上記ガイドラインをご覧になって支払いを検討してみて下さい。
支払われていない方は、スシローのアルバイトの方のように、社外の労働組合や弁護士さんに相談してみましょう。
今回は以上です。
では、また次の記事でお会いしましょう!
取材・文/林 孝匡(弁護士)
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