レベニューシェアという、発注者・受注者ともにリスクの軽減が期待できる契約方法が注目を集めています。レベニューシェアの特徴に加えて、混同しやすい契約方法や契約時から会計処理に至るまでに注意すべきポイントについて確認しましょう。
レベニューシェアの基礎知識
近年、IT業界を中心に採用されるケースが増えているレベニューシェア型契約とは、どのような契約内容なのでしょうか。レベニューシェアの特徴や、他の契約形態と比較した際のメリット・デメリットについて解説します。
レベニューシェアは成果報酬型の契約
『レベニューシェア(Revenue Share)』とは、成果報酬型の契約形態の一種です。従来の固定報酬型の契約形態とは異なり、契約締結時に取り決めた割合で事業により生まれた収益を分配し、仕事の受注者に対して報酬を支払うというものです。
固定報酬型の契約と比較した場合、仕事の発注者と受注者の両者が、業務やプロジェクトの結果に対してより深くコミットする契約形態で、業務委託契約に近いイメージといえます。
レベニューシェアのメリット・デメリット
仕事の発注側の立場として、レベニューシェア型契約の採用にあたり考えられるメリットは以下の通りです。
- 初期費用を抑えられる
- 受注者と協力関係を強化できる
一方で、発注側のデメリットとして、以下のようなものが挙げられます。
- 収益増に比例して支払う報酬額も増える
- 意思決定権や責任の所在が曖昧になる
受注側のメリットは以下の通りです。
- 事業収益の分配により、継続的に収入が得られる
- 事業がうまくいけば、発注者の予算以上の報酬を得られる可能性がある
対して受注側には、以下のようなデメリットも考えられます。
- 初期費用を負担しなければならない
- 事業収益によっては、損失が発生する可能性がある
混同しやすい契約方法
発注企業が得た収益を配分するレベニューシェアには、混同しやすい契約方法がいくつかあります。代表的な二つの契約方法について、レベニューシェアとの違いを確認しましょう。
プロフィットシェア
レベニューシェアが『Revenue(売上・収益)』を分配対象としているのに対し、プロフィットシェアは『Profit(利益)』が分配の対象です。
プロフィットシェアは、レベニューから必要経費を差し引いた利益を分配するため、極端な例を挙げれば、売上があっても利益が出なければ報酬は支払われないということになります。
このようにプロフィットシェアは、事業が赤字であれば報酬を受注者に支払う必要がないため、発注側にとってはメリットが大きいでしょう。その一方で、受注者にとっては報酬が得られない・減少するリスクが高まるという、デメリットが大きくなるのです。
成果報酬型・成功報酬型
レベニューシェアは成果報酬型契約の一種ですが、異なる点は報酬額の取り決め方です。成果報酬型契約では、何を成果とするかが発注者によって異なるため、報酬の金額や支払いに関する取り決めも変動します。
その点、レベニューシェアでは『報酬は事業収益の何%』と明確に定められているため、『成果』の定義がブレません。
成功報酬型契約は、依頼された仕事が成功か失敗か明暗がはっきりと現れるM&A仲介業や士業などで採用されるケースの多い契約方法です。成功報酬型契約では、明確に金額で報酬を定めているケースと、M&A成約時の譲渡金や賠償金などの獲得額に対する分配比率で定めるケースとがあります。
分配率を定める点はレベニューシェアと共通していますが、成功報酬では、あらかじめ定義されている『成功』が達成された場合にしか報酬が発生しないという点が、レベニューシェアとは異なる点です。
レベニューシェアの相場と会計処理
レベニューシェアは、契約時にさまざまな取り決めを丁寧に行わなければ、報酬支払いや会計処理でトラブルが発生する可能性があります。報酬の相場と分配率の設定方法に加えて、会計処理の際に気をつけるべきポイントについて押さえましょう。
契約内容はケースバイケース
『レベニューシェアの相場ってどれくらい?』『どのくらいの分配率が妥当?』という疑問は、発注者・受注者の双方が抱きやすいものです。
レベニューシェアにおいて、相場や妥当な分配率は明確には決まっていません。一般的には、業務委託契約によって受注者に支払われる外注費よりも大きな金額を受け取れるケースが多く見られます。
しかし、契約を締結する受注者・発注者の業界や業種、発注する仕事内容や契約期間などによって変化するため、一概にはいえないでしょう。
報酬の分配について契約書でどのように定めるかという点が、レベニューシェアにおける最重要事項です。報酬の分配に関して取り決める際には、以下のような点に留意しながら進めていくことで、後々のトラブル回避につながります。
- 消費税の処理
- 報酬額に端数が生じた場合の処理
- 報酬額計算の対象となる収益額の計上タイミング
- 収益分配ができなくなった場合の対応
加えてレベニューシェアでは、費用負担についても明確に契約書内で定めておく必要があります。契約締結から事業収益の分配が行われるまでの間に発生する諸費用の負担については、以下の点に留意のうえ定めるとよいでしょう。
- 各費用項目の具体的な内訳
- 各費用項目における費用の負担者
- 負担費用の上限額
- 負担費用の支払い方法と支払い期限
会計処理では経費負担の内訳が重要
レベニューシェアによる報酬の会計処理方法は、発注者と受注者で異なります。発注者が支払った報酬は、外注費用と同様に会計処理され、その際には請求書や領収書の提出が必要です。金額だけでなく、詳細な内訳が明確に記されていなければなりません。
一方で報酬を受け取った受注者は、受け取り額をそのまま収入・利益として計上することはできません。受注者が受け取った報酬には、契約期間内に受注者が負担した諸経費が含まれているケースがあるため、その場合は必要経費を差し引いた額を利益として計上します。
レベニューシェアのビジネスモデル事例
発注者が受注者に一方的に仕事を依頼する業務委託契約と比較しても、両者が強固な協力関係を築いて事業を進めていけるというメリットが注目を集めているのがレベニューシェアです。レベニューシェアを採用している事例を紹介します。
あべのハルカス
大阪のランドマーク『あべのハルカス』では、パナソニックインフォメーションシステムズ株式会社(パナソニックIS)と、レベニューシェアによる協力関係を結んでいます。
同タワー内の『ハルカス300(展望台)』と『あべのハルカス美術館』において、パナソニックISは発券枚数をレベニューシェアの基準とし、施設内に設置する機器とITサービスの提供を行っているのです。
クラウド型システムと一体になったチケット発券機や入場ゲートにより、来場者のカウントや売上集計、デジタルサイネージを用いた来場者への案内や告知を行い、あべのハルカス側が当初予定していた来場者数を上回る状況が続いています。
日本ユニシス
日本ユニシス(現BIPROGY)は、ある量販店A社のECサイト立ち上げに際し、レベニューシェアを採用してシステム開発とその運用を担いました。
A社では、業界内における競争激化と消費者の消費行動の舞台がインターネットに移行したことを受け、他社との差別化を図る目的で、ECサイトのオープンを決断しました。
発注者がシステムの開発・運用に、受注者が発注者の顧客に近い視点にそれぞれ寄り添いながらECサイトの活性化を目指したことで、利便性・操作性・ユーザー満足度ともに高いECサイトへと成長できたのです。
わおん
『保護犬・猫と暮らす障害者グループホームわおん』では、レベニューシェアの採用により全国各地に施設を拡大しています。
国保連請求額を対象に、施設運営者と本部が97(運営者): 3(本部)という比率で分配することで、運営者が多くの収益を得られる仕組みを構築しているのです。
フランチャイズとライセンス契約のメリットを組み合わせたビジネスモデルを構築し、グループホーム開業を望む人が参入しやすい環境を整備しました。
レベニューシェアにより施設運営者と本部とのつながりが強化されたことで、主体的に収益性の高い施設運営ができるようになっているのです。
イオン
大手小売のイオンは、先述の日本ユニシスの事例を参考に、ポータルサイト『イオンスクエア』の立ち上げに際し、レベニューシェアを採用して進めました。
消費者行動の変化を受け、ECビジネスへの参入を決断したイオンは2013年、全国に約200あったショッピングモールへの年間来場客数9億人(当時)をターゲットに掲げ、実店舗だけでなくオンライン上でつながることを目的としました。
そして、他社との差別化、競争優位性の確保を目指し、顧客満足度に焦点を当てたEC基盤の構築を進め、イオンスクエアを立ち上げたのです。
その結果、当初のもくろみ通り、イオンスクエアは高い顧客満足度につながるポータルサイトとしてサービスの拡充を続け、今なお成長しています。