思わず時間を忘れて、ゲームに熱中してしまう人も多くいることでしょう。人々を惹きつけるゲームの特徴をビジネスなどに生かしたのが、ゲーミフィケーションです。ゲーミフィケーションの特徴やサービス設計・運営のポイントに加えて、成功事例を解説します。
ゲーミフィケーションの基礎知識
ゲーミフィケーションは、近年注目されている考え方です。ゲームを今まで関わりのなかったビジネスやサービスに取り入れることで、ユーザーのモチベーションの変化を期待しています。
ゲーミフィケーションとは
ゲーミフィケーション(gamification)は直訳すると、『ゲーム化』という意味で、ゲーム以外の分野にゲームの要素を生かすことを指します。
人々を惹きつけるゲームの要素を導入すれば、単純作業や難しい業務も楽しんで取り組めるようになるでしょう。ゲームと同じようにクエスト(課題)やゴール(目標)を明示することで、やるべきことと達成したことが可視化されます。
ゲーミフィケーション自体は、ポイント制度などの形で以前からビジネスにも導入されていました。広く知られるようになったのは、アメリカの大手調査会社ガートナーが、2011年に『テクノロジーハイプサイクル』でトレンド技術として取り上げてからです。
ゲーミフィケーション台頭の背景
かつては否定的な意見が多かったゲームも、スマートフォンの普及に伴い誰でも手軽に楽しめるようになった結果、価値が再認識されるようになりました。
ゲームに対する肯定的な意見が増えたおかげで、ビジネスや教育などさまざまな分野に応用するハードルが低くなったのです。
情報があふれかえる現代では、伝えたい情報をユーザーに伝えるのは困難です。ゲーミフィケーションを用いれば、ユーザーの注目を惹きつけられるため、情報を適切に伝える手段として欠かせません。さらには業務を面白く見せて、作業効率を向上させるのにも役立ちます。
ゲーミフィケーションに必要なゲーム要素
ゲーミフィケーションを実践する前に、人々を惹きつけるゲーム要素を理解する必要があります。ゲーミフィケーションで取り入れる、四つのゲーム要素を確認しましょう。
目的と現在位置
ゲーミフィケーションに必要な一つ目の要素は、目的と現在位置の提示です。ゲームにおける目的の例として、『魔王を倒す』『街を作る』などが挙げられます。現在位置は『最初の村にいる』『世界ランキング100位』などです。
目的がなければ行動にはつながりません。SNSへの投稿など、対象ユーザーに求める行動を決めて、分かりやすく魅力的な形で提示する必要があります。
ユーザーの行動を後押しする上で、現状を伝えるのも重要です。自分が今いるステップを明確に把握できれば、目的達成までの道のりがはっきりするのに加え、これまでの努力も振り返れば、モチベーションアップにもつながります。
さらにリーダーボードを用いてユーザー間の順位を示せば、競争を刺激するのに効果的です。
クエスト
明確な目的があっても、目的までの道のりが長いと、何から手をつけていいか分からなくなるものです。ゲーミフィケーションにおいても、目的を達成するために何をしたらいいか、クエスト(課題)を提示することが重要です。
ゲームで魔王を倒すために何をすればいいか分からなくても、目の前の敵を順番に倒しているうちに、気が付いたら魔王戦までたどり着いているものでしょう。
クエストの難易度が高すぎると、なかなかクリアできず、ユーザーは離脱してしまいます。またクエストの規模感が大きいことも、ユーザーの離脱を引き起こす原因です。
ユーザーが達成感を得て、継続的に楽しめるように、クエストを細かく設定することが重要と考えましょう。
クエスト達成への報酬
ゲームでは、クエストを達成すると、経験値の付与や探索範囲の拡大などの報酬が与えられます。継続的に取り組んでもらうためには、ゲーミフィケーションでもクエストに対する報酬の設定が必須です。
報酬には、『マネタリーリワード』『インナーリワード』『ソーシャルリワード』の3種類があり、ユーザーの特性やクエストのレベルに合わせて報酬を設定します。
マネタリーリワードはポイントやクーポンなどお金として使えるもの、インナーリワードは達成感や特別オファーへの招待、ソーシャルリワードはステータスの付与や他ユーザーからの賞賛が該当します。
他プレイヤーとの交流
他プレイヤーとの交流を促進するのも、ゲーミフィケーションにおいて重要な要素の一つです。
ゲームでも特定のクエストを達成するためには協力プレイが必須だったり、ゲームレベルを公開して競争を促したりして、ロイヤリティーの向上につなげています。
ゲーミフィケーションでも、サービスやコンテンツ内での交流・競争を促進する仕組みを作ることが大切です。
さらにゲーム外での情報交換も促せば、既存ユーザーのモチベーション向上に役立てられるほか、新規ユーザーの獲得にもつながるでしょう。
効果的なゲーミフィケーションのポイント
ゲーミフィケーションにはさまざまなメリットがありますが、ただゲーミフィケーションを適用すればいいわけではありません。効果的なゲーミフィケーションを実現するために、押さえておくべきポイントを解説します。
ユーザーの特性を把握する
多くの人が同じゲームに熱中していても、ゲームに熱中する理由は人それぞれです。
ゲーミフィケーションでも同様で、対象者のニーズに合わせて設計・運営できていなければ、十分な効果は得られません。ゲーミフィケーションを導入する際には、ユーザーの特性を把握するところから始めることが大切です。
ユーザーの特性を分析する際は、『バートルテスト』と呼ばれる分類法を利用するといいでしょう。バートルテストでは、関心のある事柄と行動特性の2軸を基に、ユーザーを4タイプに分類します。
単独でのレベル上げに意欲的なのが『アチーバー』、他プレイヤーと協力して秘密ルートを発見したり、新しい世界に挑戦したりするのを楽しんでいるのが『エクスプローラー』です。
ゲームの内容を楽しむよりも、ゲーム内の競争で他プレイヤーに勝つのを重視している人を『キラー』、他プレイヤーと協力する点に魅力を感じている人を『ソーシャライザー』に分類しています。
継続的な改善を加える
ゲーミフィケーションは導入したら終わりではありません。導入後はユーザーの声を取り入れ、少しずつ修正していく作業が必要です。実際に多くのモバイルゲームでも配信後に修正が加えられ、アップデートが繰り返し実施されています。
最初から完璧な仕組みを作り上げるのは非常に困難です。ゲーム要素を追加しすぎたせいで注意がそれてしまったり、対象のユーザー層が想定とずれていたりする場合もあるでしょう。
ユーザーのニーズとのずれを放置していると、サービスやコンテンツからどんどんユーザーが離れていく一方です。ゲーミフィケーションの導入後も、定期的に改善を施す作業が欠かせません。
ゲーミフィケーションの成功事例
ゲーミフィケーションを取り入れた結果、サービスやコンテンツの改善につながった事例を紹介します。ビジネスにおける事例はもちろん、社内向けのゲーミフィケーションの事例も確認しましょう。
ビジネスにおけるゲーミフィケーション
大手コーヒーチェーンでは、ポイント制度を導入して、ユーザーのリピート率向上に役立てています。
アプリ上ではポイントがコーヒーカップ内の星の数で表現されており、カップが満杯になると無料アイテムがもらえる仕組みです。さらに会員だけに新商品をいち早く宣伝して、インナーリワードも提供しています。
またランニング測定アプリでは、ランニングの距離と時間に応じてトロフィーが付与されたり、アプリ内のライバルとランキングで競走できる仕組みが用意されていたりします。
さらにランニングの記録をSNSで共有できるようにして、他ユーザーとの交流や承認欲求の充足につなげています。
社内教育におけるゲーミフィケーション
ゲーミフィケーションは社内の制度にも導入が可能です。ある会社では、業務の隙間時間に安全訓練のゲームを取り入れた結果、短い時間で従業員の安全意識を高められ、事故の発生率をおよそ半分に減らせました。
また別の会社では、業務上で直面した技術的な問題に関して従業員同士がオンライン上でやり取りして、解決する仕組みを作りました。回答者はポイントをもらえるため、多くの従業員が積極的に回答するようになったそうです。
構成/編集部