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医薬品から食用コオロギ養殖まで!化学メーカー太陽HDはなぜ〝畑違い〟の事業に進出したのか?

2022.11.17

■連載/阿部純子のトレンド探検隊

社会に貢献する企業の役割を考えた取り組みがSDGsに結びついた

太陽ホールディングス」(以下、太陽HD)は、2023年に70周年を迎える老舗のグローバル化学メーカー。主体であるエレクトロニクス事業では、電子機器の心臓部であるプリント基板を保護するインキ「ソルダーレジスト」において世界シェア60%を占める。

2011年に代表取締役社長に佐藤英志氏が就任して以来、業績は右肩上がりで急成長し、2022年3月期には過去最高売上・利益を達成。エレクトロニクスを筆頭にエネルギーや医療用医薬品事業など事業は多岐に渡り、現在は、ソルダーレジストを中心としたエレクトロニクス事業、水上太陽光発電のエネルギー事業、昆虫食・植物工場等の食糧事業、医療・医薬品事業、ICT・ファインケミカルの5つの事業セグメントを展開している。

また、SDGsが国連で採択される前から取り組みを開始、こども食堂や保育園といった地域貢献活動も積極的に行っている。これらの取り組みや、エネルギーや食糧など“畑違い”の事業にも進出した理由などについて、食糧事業や水上太陽光発電事業を担当してきた、太陽ホールディングス執行役員の荒神文彦氏に話を伺った。

【荒神文彦氏 プロフィール】
2011年太陽ホールディングス入社。太陽グリーンエナジー取締役副社長、太陽グリーンエナジー代表取締役社長を経て、2018年太陽ホールディングス執行役員(現職)、2022年太陽ホールディングス総務部長(現職)、嵐山食堂代表取締役社長(現職)。

■水上太陽光発電

「社長の佐藤は『企業は地域社会の一員であり社会の公器』として、就任以降10年間、社会の一員として社会の発展に寄与することが、企業が果たすべき責任のひとつだと社員に語ってきました。こうした考え方から、地域社会に貢献するためにグループ各社が連携し幅広い活動に取り組んできました。

SDGsが国連サミットで採択されたのが2015年。弊社も2014年12月に太陽グリーンエナジーを設立、2015年から水上太陽光発電所の稼働を始めました。しかし、SDGsのためというよりも、社会に貢献する企業の役割を考えて取り組んできたことが、結果的にSDGsの様々なゴールに当てはまったのです。

水上太陽光発電事業のきっかけとなったのは、佐藤が社長に就任した年に起こった東日本大震災でした。弊社の製品の8割ほどが輸出向けで、輪番停電のため工場の1日数時間の停止を余儀なくされたことで、海外の取引先からサプライチェーンを懸念する声が多く寄せられました。インフラの中でも最も重要な電力の課題が浮上し、エネルギーの自社創出が必要だと『出来ることから始めよう』をコンセプトに、2015年に水上太陽光発電事業を開始しました」(荒神氏)

自然や景観を損なわない水上設置型パネルによる太陽光発電は、使われていない溜池貯水池を有効活用したエネルギー事業。溜池貯水池は農業用や飲料水用など半数は人工的に作られたものだが、農業離れが進行している中で管理する人も減り、溜池が老朽化、放置される問題が深刻化している。太陽HDではこうした使われていない“放置溜池”を利用し水上太陽光発電事業に活かしており、継続的に溜池の整備やメンテナンスを行うため、自治体や農業事業者の負担軽減にも貢献している。

太陽HDの本店所在地である埼玉県比企郡嵐山町からスタートし、今年8月現在で国内に14基設置、年間想定発電量25GWh=約8400世帯分を発電している。太陽HDグループでは国内エレクトロニクス事業に使用する全ての電力相当量をクリーンエネルギーで賄っており、今後は全事業の電力をクリーンエネルギーで賄うことを目指している。

太陽HDの子会社である太陽インキ製造はApple社の有力取引先だが、水上太陽光発電の取り組みが評価され2018年にはApple向けの生産を100%クリーンエネルギーで行う製造パートナーとして選ばれ、以降Apple の「The Supplier Clean Energy Program」に参加している。

■食用コオロギの生産

高たんぱくで栄養価が高く、環境負荷の少ない食材として世界的に注目されている昆虫食。

太陽HDの子会社である太陽グリーンエナジーでは2018年より福島県二本松市、2020年から嵐山町で、飼料・食用のコオロギの生産を開始。現在、年間に3トンのコオロギを生産している。

食用コオロギとして昆虫煮干し、パウダー加工品などにして、自社オンラインサイト「TAIYO Green Farm Cricket」https://taiyocricket.base.shop/ や、太陽グリーンエナジーが生産したコオロギを使用し昆虫食専門店「TAKEO」https://takeo.tokyo/ が商品化した「二本松こおろぎ 福島・ソース味」「埼玉嵐山こおろぎ ピリ辛麻辣味」を一般に販売している。

「食用コオロギの生産は社員の発案から始まった社内ベンチャー的な事業です。二本松にあるグループ会社の太陽ファインケミカル(旧中外化成)の従業員が、大学・大学院時代に昆虫の研究を行っていて、たんぱく源としての食用昆虫は有益だという話を、有り体に言ってしまうと社内の飲み会で話していたことから始まった事業でして(笑)。食糧問題解決を目指してという大きなものではなく、さまざまなアイディアがかみ合って、結果的にこのような展開が生まれました。当初は家畜の飼料や、ペット用のえさを想定していましたが、コスの問題もあり現在は食用コオロギとしての商品を主にしています。

食用コオロギは小さな取り組みから始めたので、TAKEO社さんから“コオロギ業界のトップランナーのひとり”とまで評価されるほど、大きな取り組みになるとは正直思っていませんでしたが、徐々に人員を増やして取り組んでいます」(荒神氏)

■植物工場

食糧事業の取り組みについては、2015年に嵐山町で始めた閉鎖型植物工場でサラダ用ベビーリーフの栽培がスタートとなり、その後、イチゴやメロンのハウス栽培にも着手。土を使わない農業で高品質の野菜・果物を生産し、最終的には農業に適していない土地でも生産できるよう海外で展開して収益を上げることを目標にしている。

収穫された農作物とその加工品は、2020年から一般向けにもECサイト、スーパー、農産物直売所で販売している。

「昆虫食もそうですが、農業に参入したのは、日本の就農人口の減少や食糧自給率の低下に危機感を覚え、将来起こり得る食糧不足への対応として始めました。

植物工場は2014年ごろにブームになり、工場システムが海外に進出したりしましたが、日本では露地ものの野菜が新鮮で安全性が高く、それほど広まらなかった経緯がありました。第2次ブームは2019年ごろで、栽培にLED照明を使うことで、環境に左右されず、成長促進を促すなど利点も多くありましたが、設備投資がかかるという点で、日本ではあまり状況は変わりませんでした。

現在は第3次ブームで、規模が小さく副業的に運営できる小ロットの物を扱うことで少しずつ拡大しています。必要な品種を必要な量だけ作るといった、個々のビジネスモデルに合った植物工場が数多く出てくるだろうと言われています。これは昆虫食の仕組みにも共通していて、自分たちのビジネスモデルに合った形で作る小さな工場は今後も増えていくのではないかと思われます」(荒神氏)

■駅前嵐山食堂・こども食堂

相対的貧困率が先進国の中でも特に高いと言われる日本で、各地で貧困家庭を支援する「こども食堂」の取り組みが行われている。

地域貢献の取り組みとして2018年から太陽HDの地元・嵐山町の東武東上線「武蔵嵐山駅」前で「駅前嵐山食堂」の営業を開始。飲食だけでなく、地域の人々のコミュニティー作りの場として活用されている。

多くの子どもたちに楽しい食事の時間を過ごしてもらえるよう、小学生未満無料、高校生以下100円で食事を提供する「こども食堂」を定期的に開催していたが、現在は新型コロナの状況もありテイクアウトのお弁当を提供している。

「当初は人が集まるかどうか不安でしたが、オープンすると毎回60~70人も訪れて驚きました。コロナ前までは、食事の場でもあり、地元の人が集まるコミュニティーの場にして人と人のつながりを大事にできる場所として機能していました。子どもだけでなく、親子や祖父母と孫といった家族で訪れる方も多く、公園デビューならぬ食堂デビューのような感覚で、子育て中のお母さんが他のお母さんたちとの交流の場にするために訪れることもありました。コロナ禍以降、テイクアウトのお弁当を提供していますが、状況が落ち着いたら、食堂として再開したいと考えています」(荒神氏)※下記画像は2018年当時

■医療・医薬品事業

エレクトロニクスに次ぐ二本目の柱としての規模を持つ事業が、2017年に新規参入した医薬品事業だ。創薬は開発費のリスクが伴うため、後発進出となる太陽HDでは差別化を図るため、製造業を生業としてきた経験を活かして、創薬を行わずに「医薬品の製造」に商機を見出し、長期収載品の製造販売及び医療用医薬品の製造受託に特化。その結果、5年で売上は約30倍になり、中堅製薬会社に肩を並べる勢いで成長している。

「化学メーカーとして医薬品事業への参入障壁もありましたが、我々が今までやってきた事業やグローバル展開を活かせば戦える部分があるのではないかと、自ら変化を生み出すという目的もあり医薬品事業に進出しました。

現在は国内で事業を行っていますが、海外工場の立ち上げや海外市場での販売など生産のグローバル展開にも挑戦していきたいと考えています。

日本国内で蓄積した技術を海外で展開するときに、どのくらい再現性があるかということが最も議論されたのが1980年代。電子立国と呼ばれた日本のエレクトロニクス産業が海外でどんどん展開され始めた時代でしたが、最も重要な要素は日本で作るときと同等の品質を確保することでした。しかしグローバルで展開される中で、いまやエレクトロニクスはどの国で作ってもほぼ同じ品質のものが作れる時代になりました。

一方、日本の製薬産業は国内生産、国内消費が中心で、日本で作られた薬の方が安心だと思われる傾向があります。でも本当に日本で作ったものだけが品質の良いものなのでしょうか?エレクトロニクスはどの国で作っても安定した品質ができるということを90年代には達成しています。海外で長く展開してきた我々の優位性が品質の確保という点で医薬品にも活かせるのではないかと考えています」(荒神氏)

【AJの読み】エレクトロニクス事業で培ったグローバル展開の強みを多くの事業で活かす

筆者は「宇宙少女」のCMで初めて「ソルダーレジスト」の存在を知った。ソルダーレジストはあらゆる電子機器の心臓部である「プリント基板」を保護するインキであり、パソコン、スマホ、タブレット、自動車、家電、AV機器など身の回りにあるものに欠かせない製品だ。

ソルダーレジストの世界シェア6割を占める化学メーカーの太陽HDが、エネルギーや医薬品事業に進出したり、食用コオロギや果物の栽培を行っているのか疑問だったが、今回話を伺って、どの事業も根底には「社会や地域のために役立つ存在でありたい」という佐藤社長以下、社員全員の想いがあるのだということがわかった。

エレクトロニクス事業で培ったグローバル展開の強みを他事業にも活かしているのは同社の特色でもある。今後もあっと驚くような意外な新規事業を展開するかもしれないと期待させてくれる企業だ。

文/阿部純子

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