2. 日本でeスポーツ大会に高額賞金を出しにくい理由
日本のeスポーツ大会において高額賞金を提供するためには、超えなければならないハードルがいくつかあります。
多くの国内eスポーツ大会において、提供される賞金額が低く抑えられているのは、以下に挙げるハードルを超えることができていないためと考えられます。
2-1. 参加費を賞金に回すことはできない
日本では、賭博などが刑事罰の対象とされている関係で、eスポーツ大会の参加費を賞金に回すことはできません。
「賭博」とは、偶然の勝敗によって、2人以上の者が財物や財産上の利益の得喪(獲得・喪失)を争う行為をいいます。
eスポーツのように、当事者の技量によって勝敗が左右する部分が大きいものでも、偶然的要素が介在する限りは、金品等を賭けて行えば賭博に該当します。
大会参加費が賞金に充てられる場合、eスポーツの勝敗によって参加者が金銭の得喪を争う構図となるため、賭博に該当する可能性が否定できないのです。
したがって、大会参加費を高額とし、それを賞金に充てることで賞金総額を増やす方法は、日本では認められません。高額賞金を提供するためには、大会参加費に頼らず、大口のスポンサーを確保するなどの対応が求められます。
2-2. スポンサーが十分につかない
最近でこそ、日本でもeスポーツ大会の注目度が高まり、高額の賞金を提供するスポンサーが付くケースが増えています。
しかし、世界全体に対して広告宣伝効果がある海外のeスポーツ大会に比べると、日本のeスポーツ大会はどうしてもスポンサーが付きにくい傾向にあります。これはeスポーツ大会に限った傾向ではなく、あらゆる競技大会に共通していることです。
日本において高額賞金のeスポーツ大会を増やすためには、国内のeスポーツの裾野を拡大し、スポンサーから見た大会の魅力を高めていくことが不可欠といえるでしょう。
2-3. 高額賞金は景品表示法違反に当たる場合がある
日本のeスポーツ大会における高額賞金の提供は、従来から景品表示法(正式名称:不当景品類及び不当表示防止法)への抵触が指摘されてきました。
eスポーツ大会の賞金が、景品表示法上の「景品類※」に該当する場合、賞金額について以下の上限が適用されます。
(1)1人に交付する賞金の最高額は、対象商品・サービスの購入費用等の20倍まで(最大10万円)
(2)賞金総額は、対象商品・サービスの売上予定総額の2%まで
※景品類:顧客を誘引するための手段として、事業者が供給する商品・サービスに付随して提供される物品・金銭その他の経済的利益(景品表示法2条3項)
要するに、ゲームの販促目的でeスポーツ大会の賞金が提供されていると判断されれば、大会の賞金額に厳しい制限がかけられてしまうのです。
この景品表示法に関する問題は、eスポーツ大会の賞金を「仕事の報酬」と整理することでクリアできます。
消費者庁のノーアクションレターによると、何らかの方法(ライセンスや予選会の成績など)によって高い技術を保証されたプレイヤーに対して提供される大会賞金は、そのプレイを観客や視聴者に披露して大会の競技性・興行性を向上させる「仕事」の「報酬」であるため、景品表示法の適用対象外とされています。
参考:法令適用事前確認手続照会書|消費者庁
参考:法令適用事前確認手続回答通知書|消費者庁
現在日本で開催されている高額賞金のeスポーツ大会は、上記ノーアクションレターの見解に従って運営されています。
しかし、参加者の技術水準を確保できない大会や、主催者のコンプライアンスに関する方針上、保守的に運営せざるを得ない大会などにおいては、以前として高額賞金の提供が困難な状況があるようです。
3. まとめ
日本のeスポーツ大会における賞金水準は、残念ながら海外の大会にはまだ及びません。
しかし、eスポーツの裾野は確実に広がっているうえ、高額賞金に関する法的な疑義もある程度解消されつつあります。そのため、今後は日本においても、高額賞金のeスポーツ大会は増えていく可能性が高いでしょう。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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