※こちらの記事は後編です。本記事単体でもお読みいただけますが、前編から読み進めていただくことをおすすめします。
2022年10月24日に、性犯罪に関する改正刑法の試案が公表されました。
参考:法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会 第10回会議配布資料「試案」||法務省
今回の改正刑法試案は、年少の未成年者を被害者とするケースを中心に、性犯罪全般の抑止を目的としています。前回は、既存の強制わいせつ罪・強制性交等罪などに関する変更ポイントを解説しました。
今回は後編として、改正刑法試案において新設が提案されている、グルーミング行為とポルノ画像の撮影等に関する罪の内容を解説します。
1. 変更ポイント⑥|グルーミング行為の刑事罰化
(前回からの続き)改正刑法試案による6つ目の変更ポイントは、グルーミング行為※に係る罪が新設された点です。
※グルーミング行為:性交等またはわいせつな行為をする目的で、若年者を懐柔する行為
わいせつの目的で、16歳未満の者に対して、以下のいずれかに該当する行為をした場合には「1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金」、実際に面会した場合には「2年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金」に処することが提案されています。
・威迫し、偽計を用い又は誘惑して面会を要求する行為
・拒まれたにもかかわらず、反復して面会を要求する行為
・金銭その他の利益を供与し、又はその申込み若しくは約束をして面会を要求する行為
また、16歳未満の者に対して、ポルノ影像の送信を要求した場合には「1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金」に処することが提案されています。
なお、被害者が13歳以上16歳未満である場合、上記の各犯罪が成立するのは、5歳以上年上の者に限られています。
グルーミング行為は、大人が社会経験や知識で優越していることを悪用して、中学生・高校生といった年少者との性的関係を目論む、卑劣かつ悪質な行為です。そのため、今回の改正刑法案において刑事罰化が検討されています。
2. 変更ポイント⑦|ポルノ画像の撮影行為等の刑事罰化
改正刑法試案による7つ目の変更ポイントは、性的姿態等の撮影行為等に係る罪が新設された点です。具体的には、以下の各罪が新たに提案されています。
(1)撮影罪
(2)提供罪・公然陳列罪
(3)保管罪
(4)影像送信罪
(5)記録罪
<用語の定義>
「性的姿態等」……以下のいずれかに該当する姿態
(a)人の性器・肛門またはこれらの周辺部、臀部、胸部
(b)人が身に付けている下着(通常衣服でおおわれており、かつ性的な部位を覆うのに用いられるものに限る)のうち、現に性的な部位を直接・間接に覆っている部分
(c)(a)(b)のほか、わいせつな行為または性交等がされている間における人の姿態
「性的な部位」……上記(a)に当たるもの
「性的な部位等」……上記(a)または(b)に当たるもの
「性的影像記録」……以下のデータ
(d)撮影罪に該当する行為によって生成されたデータ
(e)記録罪に該当する行為によって記録されたデータ
(f)(d)(e)の複写物
「影像送信」……電気回線を通じて、性的映像記録に係るもの以外の影像を送ること
「暴行・脅迫等」……以下の行為
・暴行または脅迫を用いること
・心身に障害を生じさせること
・アルコールまたは薬物を摂取させること
・睡眠その他の意識が明瞭でない状態にすること
・拒絶するいとまを与えないこと
・予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、または驚愕させること
・虐待に起因する心理的反応を生じさせること
・経済的または社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること
「暴行・脅迫等の事由」……以下の事由
・暴行または脅迫を受けたこと
・心身に障害があること
・アルコールまたは薬物の影響があること
・睡眠その他の意識が明瞭でない状態にあること
・拒絶するいとまがないこと
・予想と異なる事態に直面させて恐怖し、または驚愕していること
・虐待に起因する心理的反応があること
・経済的または社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮していること
「対処能力」……性的な行為に関して自律的に判断して対処することができる能力
2-1. 撮影罪
撮影罪に該当するのは、以下の行為です。法定刑は「3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金」とされています。
(1)正当な理由がないのに、ひそかに性的姿態等(公共の場で自ら露出しているものを除く)を撮影する行為
(2)暴行・脅迫等その他これらに類する行為により、人を拒絶困難にさせたうえで、その性的姿態等を撮影する行為
(3)暴行・脅迫等の事由その他これらに類する事由により、人が拒絶困難であることに乗じて、その性的姿態等を撮影する行為
(4)人に以下の誤信をさせて、または誤信に乗じて、その性的姿態等を撮影する行為
・行為がわいせつなものでないこと
・特定の者以外が閲覧しないこと
(5)正当な理由がないのに、13歳未満の者の性的姿態等を撮影する行為
(6)正当な理由がないのに、13歳以上16歳未満の者の対処能力が不十分であることに乗じて、5歳以上年上の者が、その性的姿態等を撮影する行為
2-2. 提供罪・公然陳列罪
提供罪・公然陳列罪に該当するのは、以下の行為です。法定刑は、(1)については「3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金」、(2)については「5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金」とされています。
(1)性的影像記録を提供する行為
(2)性的影像記録を不特定もしくは多数の者に提供し、または公然と陳列する行為
2-3. 保管罪
保管罪に該当するのは、提供罪・公然陳列罪に当たる行為をする目的で、性的影像記録を保管する行為です。法定刑は「2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金」とされています。
2-4. 影像送信罪
影像送信罪に該当するのは、以下の行為です。法定刑は「5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金」とされています。
(1)正当な理由がないのに、送信されることの情を知らない者の性的姿態等の影像送信をする行為
(2)暴行・脅迫等その他これらに類する行為により、人を拒絶困難にさせたうえで、その性的姿態等の影像送信をする行為
(3)暴行・脅迫等の事由その他これらに類する事由により、人が拒絶困難であることに乗じて、その性的姿態等の影像送信をする行為
(4)正当な理由がないのに、13歳以上16歳未満の者の対処能力が不十分であることに乗じて、5歳以上年上の者が、その性的姿態等の影像送信をする行為
(5)情を知って、(1)から(4)のいずれかに当たる行為により送信された影像の影像送信をする行為
2-5. 記録罪
記録罪に該当するのは、映像送信罪に当たる行為のうち、(1)から(4)のいずれかによって送信された影像を記録する行為です。法定刑は「3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金」とされています。
3. まとめ
これまで紹介した改正刑法試案の内容は、施行が確定したわけではなく、今後改正に関する議論が進められる予定です。
年少者に対する性犯罪が深刻な社会問題となる中で、改正刑法試案で示された内容がどこまで採用されるのかが注目されます。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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