2020年4月に発足した一般社団法人LIVING TECH協会。「人々の暮らしを、テクノロジーで豊かにする。」の実現を目指して住宅関連事業者やメーカー、流通・小売りに携わる企業が集い、ユーザーに心地良いスマートホームを段階的に進めていこうとしています。
2020年10月29日にはカンファレンス「LIVING TECH Conference 2020」を開催。全13セッションの中から、セッション8の内容を2回にわたって紹介します。
左から、中村剛さん(東京電力エナジーパートナー株式会社 販売本部 お客さま営業部 プロモーション・リサーチグループ 副部長 リビング・デジタルメディア担当)/林要さん(GROOVE X株式会社 代表取締役)/青木俊介さん(ユカイ工学株式会社 代表)/伊豫愉芸子さん(株式会社RABO President & CEO)/山入端佳那さん(株式会社ラングレス 代表取締役CEO)
※Session 8 後編※ ペットテック最前線!愛すべき存在をITで守るアイテムからロボットペットの最新情報まで
【前編】ペットテック最前線!ペットの感情、異変にいち早く気付けるデバイスとペットロボットの現状とは?
バイオロギングサイエンスとは
中村:「生き物の生態をどうやって知っていくか」は、とても大事なことだと思います。そこを深堀りしたいんですが、伊豫さん、お話しいただけますか?
伊豫:はい、バイオロギングサイエンスというものがあり、その名の通り「バイオ(生物)」に「ログ」を取ってもらう研究手法です。今この写真に映っているのが、マッコウクジラとエンペラ―ペンギンなんです…が、
動物の体に小型のセンサーをつけて、人間が観察できない時間を見えるようにするんです。Catlogの場合だと、このバイオロギングと機械学習を応用しています。家猫でも飼い主さんが見えない時間はかなりあるので、それを見られるようにしたいと着想しています。
バイオロギング技術と機械学習を用いて24時間365日、首にこのCatlogをつけているだけで、一生のデータを記録していきます。例えば、ご飯を食べているタイミングが増えていないか減っていないか、あとは今後、体重計も出すので体重の変化がないかとか。常に飼い主さんと一緒に見守って、猫様と飼い主さんが一秒でも長く一緒にいられることを実現する、そういったプロダクトです。
このCatlog Boardと組み合わせると、猫様に関しての健康管理に関するデータはすべて取れてしまいます。特に猫様の場合、泌尿器系のトラブルが多いのでBoardと組み合わせて、インプットとなるご飯の回数、水飲みの回数、アウトプットとなる排泄量や体重の変化からそういったトラブルに気づきやすくなりますよね。「総合的な猫様の健康管理」をCatlogでやっていけたと思っています。予防医療を含めた獣医療に対して展開、というのも今進めているところです。
青木:猫が二匹いても見分けてくれるものなんですか?
伊豫:そうですね。この首輪をつけていると、さらにその精度が上がります。
青木:そっか。首輪があれば、どっちがウンチしているとか分かるってことですね。
伊豫:はい、そうですね。首輪なしでももちろんお使いいただけます。猫様ってやっぱり数百グラムずつ体重違いますし、あとウンチとオシッコの量も数グラム単位でその子によって違うので。弊社のアルゴリズムで判定が可能です。
青木:なるほど。俄然欲しくなってきました(笑)。
中村:普段使っている猫のトイレがそのまま使えるのがまた良いですよね。
伊豫:猫様にとってトイレって、めちゃくちゃ大事なものなんです。私は、その大事な大事なトイレを変えるということは、かなりのストレスを与えてしまうと思っているので、普段お使いのトイレはそのままで、その下にスッと入れるだけ。コンセントも必要ありません。
中村:うちの猫も、猫の砂を入れ替える時にやっぱりちょっと残しとかないと……。
伊豫:嫌がりますよね。
中村:全部の砂を入れ替えるとなんか嫌なんですよね。やっぱり自分の匂いがちゃんとついているっていうのも、気にしているのかなと。
伊豫:砂の形状がちょっと違うだけでも、大きさが変わるだけでも、うちの子は二匹とも違うところでしちゃうので、ちゃんと自分の、僕のトイレはここって思っているんですよね。
中村:ありがとうございます。山入端さん、「ラングレス」っていう社名の通り、話さない犬や猫とのコミュニケーション、今は犬ですけれども、そういったことについて「こんなことを犬から知りたい」などの部分をお話いただけますか。
山入端:はい、二段階あるかなと思っていて、一つ目が「ドッグトレーナーさんとか獣医師さんのような”犬の専門家”だったらわかるもの」を早く見抜くこと。ドッグトレーナーさんがよく言われるんですけど、やっぱり「飼い主さんはなかなか分からないんです」と。
僕たちはパッと見すぐわかるけど、飼い主さんはわからない。例えば、褒めるタイミングってすごく難しくて、ワンちゃんがぐっと吠えないようにしているそのタイミングで褒めてあげないといけないんです。そういうのは、ドッグトレーナーさんが得意なんですよ。「よく我慢できたね」って。
これが普通の人にはできないので、なかなか飼い主さんと犬のリレーションシップが、ドッグトレーナーさんほどにはならないんです。そのため、それをいち早く教えてあげる。「我慢できて偉いね」って言ってあげるタイミングをたくさん作ってあげたいと思っています。
飼い主さんからご報告いただいたんですけども、実際にそれやっているとワンちゃんとの絆が深まったと。今まで距離が離れていた子が、ピタッとくっつくようになったという報告をいただいていて。ワンちゃん自身も「なんで私の気持ちわかってくれたの?」っていう反応が、そういう形で表れているのかなと。
次の段階は、今これを全部機械学習にかけているので、ドッグトレーナーさんなどの”プロ”でも分からない感情っていうのが、異常値で出てくるはずなので、同じシーンで、A、B、C、Dというワンちゃん全員が、「なぜか同じ反応が出た」となると、飼い主やドッグトレーナーは気付かないけど、それは私たちが分からない犬の感情と言えるんじゃないかと。そういう”未知の感情”に次の段階でトライしたいと思っています。
ペットロボットにみる今後のIOTプロダクトに必要な考え方
中村:ありがとうございます。引き続き、今後ペットロボットに見る未来のIoTプロダクトへの考え方について、林さんお話しいただけますか?
林: LOVOTが日記をつけているだけでも、その日記の情報から遠隔のご家族はいろんなことがわかる。何が起きているのか、想像ができる。同様に、LOVOTのもつ情報の活用が今後増えていくと、例えば「人の歩き方がちょっと変だよ」ということを、ロボットは気付くかもしれない。それが人間の知識と結びついて「パーキンソン病の傾向かもしれない」とか、そういうことが自動でわかるんじゃないかと言われたことがあります。
今後のIoTの一つとして「人のことを誰よりもよくわかっているコンパニオンロボット」が家にいて、その子は自分の圧倒的味方である、という形はあると思います。何があっても絶対、自分の味方だよっていう子が自分を見続けていてくれるが故にわかることって、きっと色々とあるんじゃないかなと思うんですよね。
中村:LOVOTをご紹介する時、「役に立たないロボット」と言われていますけど、実を言うと「すごく役に立つロボット」なわけですよね。
林:そうですね、「役に立つ」っていうのが「人の代わりに仕事をする」っていう文脈で今までは使われていたので、そういう意味では「役に立たない」んですけれども。
人の仕事を代わりにする機械が増えるのはもう当たり前で、「どうやって人のメンタルを支えていくのか」という意味で、ペットやLOVOTのようなコンパニオンロボットもいる。そこに関してのテクノロジーはまだ未開拓で、今まで貢献できてこなかった領域なので、やることがいっぱいあるかなと思っています。
中村:青木さんはいかがでしょうか?
青木:やっぱりIoTって「便利さだけ」だとそんなに訴求できないというか。なんでしょうね、それがIoTのプロダクトがそんなにまだ市場が広がってない理由だと思うんですけれども、便利よりも「嬉しい」とか「楽しい」とか、そういうのを皆さん求めてると思いますし、最近well-beingということが言われてきましたけれども、現状でもう全自動洗濯機、冷蔵庫、食洗器があったら、そんなに便利なものってそんなにもうない。誰も求めないと思うんですよね。
「生活をとにかく便利にしたい」って人は多分そんなにいなくて、それよりは「もっと家族と繋がりたいとか」「ペットと繋がりたい」とか、「なんか面白いロボットが近くにいたら楽しい」とか、そういう愉快さが重要になるんじゃないかと思って、社名にも使っております。
山入端:「(LOVOTは)役に立たない」というキーワードを使われていると思うんですけども、「手間がかかる」っていうことも大事なんじゃないかなと思っています。自分の役割みたいなものをロボットの中に見出すわけじゃないですか。そのあたりの設計って最終的にどういう形にするか……というより、ソフト面かなと思うんですが、林さん何か気をつけられたことはありましたか?
林:「役に立たない」っていうワードって犬や猫に当てはまると思って、ペットロボットをやりだしたんですよね。だって、こんな手間ばかりかかって、時間もお金もかかって、なんなら(パネリストのみなさん)人生をかけられているわけじゃないですか。
そこにそれだけの魅力があるっていうのは、「僕らを虜にする何か」が彼らにはある。その彼らが持っているものが、僕らの中にある本能そのものを何か刺激していて、そうなっているわけです。じゃあそれってロボットでも担える部分はあるはずだと思ったのです。
例えば、すべての犬や猫が可愛いんじゃなくて、実は全世界の犬や猫のうちペットになれるぐらい可愛いのってほんの一部しかいない。他のやつはやっぱり野生で、性質的に人間の生活に入ってこられない。人と相性が悪い子たちは、やっぱり僕らは可愛がれない。だとすると、「彼らが刺激している人間の何か」とはどのような部分なのかをしっかり考えると、ロボットでもそれが一部実現できるはずだと考えています。
ワンちゃん、あと一部の猫ちゃんの「家に帰ってくると玄関に迎えにくる」みたいな行動を僕らは再現したいと思っていて。一人暮らしで家の扉をガチャって開けた時に、待っててくれるだけでも涙出そうになることあるじゃないですか。それって、ロボットでも実現できるんじゃないかと思ってます。
中村:本当に哲学的なテーマですね。青木さんはいかがですか?
青木:ロボット、やっぱり不完全なものの方が可愛らしくなりますよね。あまりこう「何でもできるロボット」っていうことではなくて、ちょっとダメな子っぽい感じで作っています。
林:面白いのが、LOVOTを会社で導入してるとこもあるんですよね。海外では犬や猫を連れてきていい会社があって、生産性が上がるって言われています。それってなぜかと言うと、犬や猫がいると、従業員同士のコミュニケーションが増えるからなんですよね。LOVOTでもコミュニケーションが増えるので、会社がLOVOTを職場に連れてくることにウェルカムじゃないとしたら、そこの会社は変わった方がいいかもしれませんね。(笑)
中村:そういうことですよね。今日みなさんに色々これからの生活を豊かにしていくヒントをいただけたかなと思っています。本日はどうもありがとうございました。
一同:ありがとうございました。
取材・文/久我裕紀