人月で見積もりしてもらうデメリット
人月で見積もりしてもらうのにはデメリットもあります。見積もりの結果を見るときには、デメリットを踏まえた上で十分に注意が必要です。
見積額を誤魔化される
人月での見積もりにはさまざまな問題点があります。1人月当たりの仕事量が異なることに加えて、人数と時間は単純な反比例関係ではなく、個人の力量は反映されません。さらに同じ人月単価で複数の会社を比較できるほど単純でもありません。
人月の問題点を十分に把握していればきちんと判断できますが、知識がなければ適正な見積もりかどうか判断がつきません。人月単価だけを見て発注先を選ぶと、いつまでたっても納期が定まらず、トータルでは相場以上のコストがかかってしまうケースもあるでしょう。
人月による見積もりが分かりやすいのは、作業を極端に単純化しているからです。単純化する過程で省かれたポイントにも気を配らなければ、見積額を誤魔化されて損をしてしまう恐れがあります。
柔軟に対応してもらえない
システム開発に取り組んでいると、最初の契約時点では把握しきれていなかった問題点も、次々に浮かび上がってきます。途中で気付いた問題が実は重要なポイントで、システムの根幹に関わる問題であるケースも珍しくありません。本来であれば、十分な時間を割いて対応する必要のあるポイントです。
しかし人月で出した見積額を基に契約を交わしていると、途中で浮かび上がった問題には対応してもらえない可能性があります。なぜなら当初に想定していなかった問題に対処していると、納期が間に合わなくなって契約違反になってしまうからです。柔軟な対応が望めないのも人月による見積もりの欠点です。
IT業界への悪影響も
人月で見積もりを出す文化は、発注元に大きなデメリットがあるだけではなく、システム開発を担うIT業界にも悪い影響が及んでいます。
ITエンジニアの価値が下がる
システム開発の最初に労力をかければ後に大きなリターンが望めるのが、ITビジネスの大きな魅力です。またIT業界の成長が著しい昨今ではITエンジニアの需要が大きく、高収入や高単価の仕事が狙えます。
しかし人月で工数管理をする会社で働いた場合、ITエンジニアもほかの社員と同様に働いた時間に対して給与が支払われる形になります。知識集約型のはずのIT業界が、労働集約型の労働形態になるわけです。
労働集約型の働き方では、長時間働くほどに収入が増える仕組みです。労働時間と収入が比例する環境では、ITエンジニアに見合った給与が与えられる見込みは低く、低賃金労働の温床になります。
必要なスキルが身に付かない
人月商売では納期に間に合うように納品することが何より重要です。途中で新たな問題が判明しても、対応する必要はありません。中身がなくても、最初の契約内容にさえ沿っていれば何も問題がないといえます。
ゴールありきの仕事では常に質的水準が低く設定されてしまい、ITエンジニアは最低限の作業しか求められません。問題に対処して新しい知見を得ることにこそ、成長のチャンスが隠れています。人月商売をしている会社では問題に対処する過程を踏まないため、ITエンジニアにとって成長が見込めないでしょう。
個々のITエンジニアが成長できる環境になければ、日本全体としてもIT産業のクオリティが落ちていきます。一人一人のITエンジニアを大切にできないことで、全体に悪影響が及んでしまうといえるでしょう。
構成/編集部