2020年4月に発足した一般社団法人LIVING TECH協会。「人々の暮らしを、テクノロジーで豊かにする。」の実現を目指して住宅関連事業者やメーカー、流通・小売りに携わる企業が集い、ユーザーに心地良いスマートホームを段階的に進めていこうとしています。
2020年10月29日にはカンファレンス「LIVING TECH Conference 2020」を開催。全13セッションの中から、セッション4の内容を3回にわたって紹介します。
左から、ウエスギセイタさん(YADOKARI株式会社共同代表取締役)、東克紀さん(YKK AP株式会社 事業開発部 部長)、窪田国司さん(株式会社ユニットコム代表取締役 主席ライフスタイルデザイナー)、上野純平さん(BCG Digital Ventures シニア プロダクトマネージャー)
※Session 4 中編※「夢が現実に! 普通のサラリーマンが脱サラせずに自由な二拠点居住ができる時代へ。」
【前編】Withコロナでサラリーマンの二拠点化が普及する!タイニーハウスがもたらす新しい住まいの在り方
二拠点居住を実現するための課題と解消法
東:「HACOBASE」(前編参照)は、中へ入ると本当に自分の部屋よりもいいんじゃないかっていう。特殊な窓を使っています。机と座る場所から左奥に簡易キッチンがあって、右側に洗面所、トイレがついています。さらにシャワー室まで付いています。これが「HACOBASE」でフルスペックのものになりまして、ここから必要に応じて引いていくような選び方をしていただければと思います。プランによっては机の上のところにベッドみたいなスペースもあったりもします。
じつはですね、テクノロジーという部分では、「おはよう」「おかえり」「ただいま」とか言うと、テレビがついたり電気がついたりとか、いろんな仕組みになっています。「ただいま」とか言うとお掃除ロボット『ルンバ』とかは動いていろんなことができるので、ぜひそれもこの小さい部屋の中で体感していただきたいなと思います。
上野:すごく面白そうですよね。こちらはどうですか窪田さん?
窪田:ちなみに販売するとだいたいいくらぐらいですか?
東:フルスペックで480万ですね。施工費込みです。
窪田:安いですね。車1台分ぐらいですか?
東:ちょっと高めの車1台分ぐらい。タイヤタイプは、トレーラーの車両代や手続きやナンバーを取ったりとかあるので、プラス220万ぐらいだと思います。それまでやれば、今度は可動産で動かせるっていうサイズになっています。
窪田:寒さ対策などはどうですか?
東:断熱性は簡単に言うと、「HACOBASE」を北海道の札幌で冬に設置しても、エアコン1台で十分生活できます。エアコンも風力が強い風がそんなバーッと出てくるような状態じゃなくて、ふわっと吹いているぐらいで安定して過ごせるような断熱性があります。
上野:一番安いといくらぐらいですか?
東:ミニマムで300万円ぐらいになるんですかね。
上野:ここまで住宅変遷の話をしたり、「HACOBASEプロジェクト」の内容が理解できたと思いますので、今回のメインテーマである、これを一般のサラリーマンのものにするために向けた課題をユーザー視点であったり事業者目線でどんどん話していただきます。
東さんが建築面を話していただいて、窪田さんはマーケット目線で人の動きの話をしていただきますし、ウエスギさんは、ちょっと俯瞰的に見ていただいて、「こういう人の流れがあるよ」とか「世界ではこうなっているよ」みたいな話をどんどんしていただきたいと思います。
事前にこういう課題があるというところでいえば、そもそも二拠点にする時に二拠点目の地域は、どうやって見つけるかというところがあります。どこでも働けるといっても、本当にどこなんですかね? 現実的にその境界線は何で決まるんだろうっていう話です。二拠点先でどこを選ぶかより地域のコミュニティに入らないとなかなか「なぜ二拠点しているんだっけ」というのを忘れるかなと思ったりとか。そうするためにいま欠けているものはなにか、また商売をするにはどうすればいいか。建築の規制もちゃんと守らないといけないところはある。何がネックになっているのか。
新型コロナの影響で一気に働き方をリモートワークにしたんですけど、1年経過するとみなさんがいろいろ学ばれるところもあって、これを本当にやり続けるのかっていうのと、ちょっと変えようかみたいなところが起きてくる。そのなかで家を買った瞬間に「リモートなし」と言われそうだと、さすがに普通のサラリーマンは躊躇してしまう。そうした時に、どうしたらいいのか。いろんなところのお話を聞いていきたいと思います。ウエスギさん、どこから行きましょうか?
ウエスギ:別荘っていうもの自体がステータスシンボルから、どちらかというと普通のサラリーマンが使える物という前提でいくとですね、軽井沢やそういう避暑地というよりは、通いやすいエリアであることがすごく大事なのかなと思っていて。
上野:通いやすいエリア?
ウエスギ:そうですね。
東:まさに今回のテーマみたいに、僕はどこに住もうかなというので、実際に土地を探したりとか自分でも始めたんですよね。初めはトレーラーハウスで土地を探して、いろいろネットで調べたんですけど、行き着いたところは会社にも通えてそこにも行けるというだいたい1時間ぐらい圏内。
ウエスギ:一番ベストですよね。あるハウスメーカーさんと3年ぐらい前、2万人に二地域拠点のアンケートを取ったんですけど、そのときも結局90分圏内ぐらいの距離でないと、だいたい1年ぐらいでドロップアウトしちゃうっていう。物理的に通いやすいっていうのは、東さんがおっしゃっていただいたので、本当にすごく大事なんじゃないかなと思います。
上野:90分っていうところで、窪田さんの資料のまさに1.5時間圏内。
東:僕が狙っている、真鶴町がこの資料には入ってないんじゃない?東海道本線で行くと1時間20分ですよ。
上野:真鶴駅から10分ぐらいであれば行けますか?
東:そうですね。結構、真鶴町は多いですよね。
ウエスギ:多いと思います。あとは大磯とか二宮町とか。逗子鎌倉はもともと多いですけど。
東:小田原あたり?
ウエスギ:そうですね。はい。
窪田:今年の東京近郊人気ナンバーワンは本厚木ですけど。人が多く来るところじゃなくて、ちょっといい位置に暮らせるところっていうのは、逆に言うと少しでも人が来るような観光地じゃないところに移り始めているんで、そこは土地も安いしサラリーマンでも非常に求めやすいところにはなっています。
東:土地は、いまネットで探すと千葉の木更津とか行くと50万円とか100万円とかであるんだけど。3か月ぐらい探している中でわかったのが、やっぱり安い土地には規制というか前は家が建っていたけど、新しく建てようと思ったら建築基準法や条例にひっかかって、今は建てられないというのは多い。トレーラーハウスみたいなものだと、建築基準法の規制に入らないから安い土地を買って置いておくのはすごく有効的ですよね。
ウエスギ:タイヤタイプのものは、土地条件で建てられない場所に建てられるというメリットがあるので、本当に初期コストが安い。上物だけで500万とおっしゃっていたので、土地付きで本当に600~700万円で、すぐに二地域居住みたいものを始められるというのは、みなさんにとって可能性があるんじゃないかなと思います。
東:ちょっと気になっているのは、山中湖あたりにはトレーラーハウスが置いてあって、見るとタイヤがパンクして廃墟っぽくなっているものが多い。さっき1時間半って言ったじゃないですか。しょっちゅう行かない場所はメンテナンスにも行かなくなるし、車でも1時間半でさっと行けるところというのは結構ポイントなのかなとすごく思いました。
ウエスギ:勤務先でトラブルがあった時に、車か電車でギリギリ戻れる距離というのも、そのぐらいがベストなのかなと感じます。
上野:課題として見つけ方は、まず現実的な境界線が90分ぐらいですね。90分という距離がひとつあります。ほかに見つけ方について、東さんは何かありますか?
東:なんだろうなあ。土地は、結構いろいろな情報が載っているんだけど、生の声を聞かない限り、よくわからないというところでしょうね。現地の不動産屋に行って、やっと状態がわかるという。土地の情報がちゃんと入ってくるんだったら、消費者は上物と土地の価格が一瞬で判るような時代になってくるんじゃないかって思います。
窪田:事業的に考えた時に、普通の人でもDIYとか自分でやり切れる方はいいですよ。ただ、サラリーマンの場合は、どうしていいのかがまずわからない。変なものをつかまされて、それがさっきの山中湖の件じゃないですけど、第二の空き家問題になっていくというケースもあるんでね。事業としてきちんとプロデュースするようなマッチング会社さんがあった上でやるビジネスに、そろそろ小屋市場を持ってかないと。
要は保証保険もさっきの制度も含めてですけど、そういう部分ではスクラップを作ってはいけないっていうのは、住宅のマーケッターなのであります。施工屋さんや不動産屋さんといった、そっち側に関わる方々も本業としてしっかりと捉えていく時代になったのかなという気がします。
上野:その流れでいくと、「趣味じゃありません」、「(利益度外視の)DIYでなくてちゃんと商売にする」というところがそうですね。ウエスギさんはどうですか?
ウエスギ:基本的には、商売にすると法規制の問題がいろいろ出てきます。特に可動産を使って商業施設を運営する中で、法規制やいろんなことをクリアした上で、その箱を貸し出せたり宿泊ができたりっていうことが、やっと日本もできるようになってきた。まさにこの動く空間をどう使うかで、ライフスタイルを新たに提案するということ自体は次のビジネスチャンスになるんじゃないかというふうには感じていますね。
窪田:家電業界であるとか車業界とか、逆に言うと住宅業界も住宅市場や小屋市場というラインがボーダーレスになり始めて、窓とか断熱の部分も住宅だけの問題ではなくなっています。車の問題も自動車業界や家電業界の方々と同じプロジェクトを組んでやっていくような枠組みがあれば、さらにエンドユーザーにとってつかみどころがあるものになってくる気がします。
上野:業界を超えた繋がりも必要だと。
東:数年前にHondaの「Honda 家モビ Concept」で、家の一部が走り出して。だから本当に境目がなくなってきますよね。
後編へ続く。
supported by YKK AP
取材・文/久村竜二