2020年4月に発足した一般社団法人LIVING TECH協会。「人々の暮らしを、テクノロジーで豊かにする。」の実現を目指して住宅関連事業者やメーカー、流通・小売りに携わる企業が集い、まずは、ユーザーに心地良いスマートホームを段階的に進めていこうとしています。
2020年10月29日にはカンファレンス「LIVING TECH Conference 2020」を開催。全13セッションの中から、セッション1の内容を3回にわたって紹介します。
左から、池本洋一さん(株式会社リクルート住まいカンパニー 『SUUMO』編集長 兼『SUUMO』リサーチセンター長)、井上高志さん(株式会社LIFULL 代表取締役社長)、竹中貢さん(北海道上士幌町町長)、佐別當隆志さん(株式会社アドレス 代表取締役社長)
※Session1 中編※ 「「職住融合」「職住近接」という新しい暮らし方にテクノロジーはどう寄り添うべきなのか」
コロナ以前からICTを積極的に導入
竹中:上士幌町のことを具体的にお話しますと、例えば人口の問題。地方創生で人口の問題は大きな課題でしたけど、5年間に社会増として244人、純粋に42人が増えています。東京都の一極集中が課題になっていますが、東京都からの転入が多く、かつ若い世代が多いです。ですから高齢化が今のところ止まっていて、そのため地域経済の景気で税金の方も少しずつ増えてきているような状況です。
『プラチナ大賞』(「プラチナ構想ネットワーク」主催)でも上士幌町の評価があったわけですけれども、人口だけが増えたのではなくて賃貸住宅が非常に多くできているということだと思います。子育てと教育の関係では、幼稚園あるいは保育所の完全無料化、そして18歳まで医療費無料だとかですね。移住定住の関係でも、北海道トップレベルで移住者が多いというようなこと。こういったことが総合的に評価されて人口が増えているということはあると思います。
総合的なことでありますけど、ICTによるまちづくりというのはかなり前から進めておりまして、具体的に各役場のポジションでどんなことがICTとして必要なのか? やっていることは何なのか? このようなことを体系的に整理して、もうすでに動いているものもあります。例えば今年から始めているのは、お年寄りがタブレットで使えるオンデマンドの交通システムを作り上げること。
(他に)具体的に申し上げますと、ひとつには山岳救助のロボットコンテストが5年目になりました。夜の捜索は二次遭難の危険性があるからできないのですが、それをドローンを使って発見し、そしてそこに物資を届けて救出する。これは賞金レースでやっておりまして、今年は残念ながら集まってもらうことができませんでしたので、消防署と連携をして、より実用的な想定で行ないました。いろんなところで山岳救助の遭難者に対する現地での捜索に加わっていただいたり、あるいはドローンを使った起業を生業とした企業が生まれてきているというようなことでございます。
もうひとつ地方にとって大きな課題になっているのが交通の問題です。東京から上士幌町まで来るのにどんな乗物が必要なのか? 地方でもっとも深刻な問題だということで、町にあるさまざまな乗り物を全て利用して、お年寄りから子供、あるいは旅行者も安心して移動できるシステムを作り上げようと。2020年やろうとしていたのは、郵便局の配送車は定期的に取集に行くわけですが、農村地帯であれば、そこのお年寄りを乗せることができないだろうか? こういう実証実験をやりますし、すでに自動運転バスは3年間の実証実験をやって、公道での取り組みもしました。田舎で取り組みながら、こういったところの整備が大きな課題だと思いながら充実させています。
移住定住の方も一定の成果が出てきたので、企業や企業人に対して、シェアオフィスを使っていただきたいということで新設しました。でもコロナ禍でストップして大変ですが、それでもとりあえず年間契約は9社で動いております。そのためにオンラインの会議なんかすることもできるということでございます。つい先日、オンラインで地元の農業生産者や牛肉を加工しているところの生産物と都会の方々を何らかの形で応援をしたいということでマッチングを行ないました。50人くらいが参加していただいて、第1次のマッチングから第2次のマッチングに10人くらい手を挙げて、さらに具体的に事業内容を詰めていくことになってきております。
これは実際に東京ではできなかったことが、逆にオンラインでできているということで非常に楽しみだなと思っています。語り尽くせないことでありますけれども、これまでは毎年「かみしほろ塾」というのを開催して全国の方に来ていただいて、著名な方に登壇していただいてましたけど、今年はできませんので11月15日にオンラインセミナーとして「かみしほろ塾」を開催しました。
池本:ありがとうございました。町長の話は視聴している人たちも結構すごいなって感じたと思います。だから、まず私から質問させていただきますが、なんでこんなにたくさんのことをやっているんですか?
竹中:ようやく目が出てきたという感じだろうと思います。先ほどお話しましたように、地方が人口減少になって、そして経済の活力が落ちて行くというのは前から言われていることですよね。それをどう最小限にするかといったときに、やっぱり自分達の第1次産業から商品開発をして、それを都会の方に評価していただく。それを繋ぐために、どうしても必要なのがICTだということです。距離感は縮めることができませんが、時間軸は縮めることができる。これをずっとやってきて、突然ヒットしたのが「ふるさと納税」だったんですね。最初の頃は、全国で3番目になりました。今でも一定の評価をいただいていますけど、まちづくりをする上で地方においては非常に大事なツールだと思います。
池本:「ふるさと納税」で納税してくれている方が、町に関心を持ってくれて、また別で個人的にもみたいな話が出てきたりしているんですか?
竹中:「ふるさと納税」という物だけで繋がるのではなくて、最終的にはフェイス対フェイスの関係が必要だろうということで、東京で感謝祭を行なっています。最大2000人くらい来ていただいて実施しました。そういう関係で、上士幌町の生産者を知ってもらう。あるいは町の雰囲気を知ってもらったりして、やはりリピーターになってもらう。
池本:「ふるさと納税」のキッカケから関係人口作りみたいなものが、すでに2000人レベルで東京の人が集まっている。
竹中:そうですね。通常のメール配信では1万人以上とメールをやっています。
池本:素晴らしい。せっかくなので、まちづくり×ICT絡みで井上さんと佐別當さんからもご質問やディスカッションできたらと思いますが、いかがですか。
佐別當:そうですね、さっき人口が増えているというお話でしたが、関係人口とか多拠点居住をするにしても、地域の人たちが面白いかとか、地域の人たちが外と繋がる気持ちを持ってくれてオープンかどうかっていうのもすごく大事だなと思いまして。具体的に移住定住されている方々とか、例えば地域でお店を開いたり起業したりとかいっぱいいらっしゃると思うんですけど、どういう方々が集まってきているのかもう少し具体的にお願いします。
竹中:最近は意外と若い人が多いと思いますね。
池本:ひとり暮らしですか、ファミリーですか?
竹中:家族ですね。いわゆる移住定住の最初の取り組みは、リタイアした人がターゲットだったと思うんですよね。今は変わってきていると思います。やっぱり自分の生き方を自分でしっかり見つけて、それに合ったところで生活をするというスタイルだったんです。
池本:UターンじゃなくてIターンですか?
竹中:最近はUターンが増えてきました。なぜかっていうと、移住者と住民の距離感というのは、そんなにくっつきもしないし離れもしない自然体なんですね。よく移住定住の取り組みと行政がワンストップ窓口でやっていますけど、行政も関係はしますけど、NPOがその役割を担っているんです。お世話するのがNPOで、NPOが仕掛けをして移住者の会を作って、移住者同志が集まりを持っているんです。新しい方々には、僕ら役場はいい話しかしませんけど、移住者同士であれば良いところ悪いところもいろんな話をします。それで非常に安心して暮らしているんです。
井上:非常に先進的だなと思います。同じような取り組みができる自治体を他にも広げていくとしたときに、そもそもアイデアはやってどうやって誰が出してるんですか? あと結構テクノロジーに詳しくないと社会実装できないと思うんですね。それは誰が指揮してるんですか? 地域企業みたいなものがあるんですか? 実行とお金について、アイデア、テクノロジー、実行レベル、お金というのが、ここまでちゃんと噛み合って実現できる自治体はそんなに多くないと思うんですよね。
竹中:先ほど言ったように、都会とどう向き合うかっていうのは非常に大事な戦略です。例えば情報提供の仕方で、行政の場合は意外と広報誌で情報提供などしますが、今はもうそんな時代ではない。多分、若い人が広報誌など見ないだろう。そのようなことも含めて、やがてそういう時代になるという前提のもとで、例えば行政がブログを開設したのは上士幌町が北海道で初めてで、全国でも2番目というようなことだとか、役場の職員の意識もウチだけだということでなくて、横並びという意識はみんなにありますよね。
当初は(私が)走ったところはありますけど、やがて自分たちが率先して取り組むようになってきているということは大きな変化だと思います。横展開の話もありますけど、どこかが知らないと横展開はできていかないです。みんなで一歩っていうのは、なかなかそうはいかない。まず走ってですね、それに刺激されて他の方が底上げされていく。そのような形で動いていると、すぐに新たな課題が出てくるわけです。
課題が出てきてそれを実行するときには、それは自治体の課題でもあるし、国の課題でもあることが多いわけです。そこにいろいろな制度を使うことができるので、ふんだんにいろいろと使わせていただいています。地方創生では、ソフトの関係とハードの関係でいろんなことがあります。それについてはモデル的な事業として採択されるというケースが多いです。
池本:思いつきは町長がやっぱり多いですか?
竹中:そろそろ若い人に変わってきました。
池本:それは自治体職員ですか?
竹中:意外と意欲的な職員が多いと思います。今のICT関係は若い人がどんどんやっています。
池本:さっき井上さんから出たテクノロジー面で誰がフォローしているかみたいな話はどうですか?
竹中:やっぱり行政自治体では人材不足ですよ。もう避けられない。それも国の方でデジタル人材の派遣制度というのがあって、それに手を挙げました。手を挙げたのが全国で少なくて北海道からは上士幌町だけだったんです。NTTさんから常駐で人材を派遣していただいている。それから「地域おこし協力隊」だとかですね。そういういろんな人の力を借りて行かないと。足りないから職員をどんどん増やすほどの財政力はないですからね。
井上:いろんな人がいろんな制度を使い倒すと、人もお金も知恵も技術も入ってくるということですね。
竹中:そういうことだと思います。
井上:皆さんがもっと早く気づいて、どんどん活用した方がいいということですね。
池本:でも国の補助制度も複雑怪奇なぐらい、いっぱいあるじゃないですか。あの中からどうやって手繰り寄せるのか? 使えるものは、やっていくうちに見えてきますか?
竹中:うちにどういう課題があるか、それに合わせて探していくっていうことがありますよね。先に国の制度があるのではなくて、自分たちの課題が何かっていうことがあって、それに合わせる。情報も流れてきますから。
池本:ICTの基盤としては、やっぱりインターネットが通ってないと厳しいです。4Gと5Gみたいな話もありますけど、上士幌町の整備状況はどうなっていますか?
竹中:コロナの関係で、一気に補正予算で北海道は(インターネットが)ほとんど通じるようになりました。上士幌町としては去年からいち早く整備をして、農村地帯も全て光回線が入ってきたところです。後は光回線から5Gも総合的にですね。資源として活用して、それを作業進行などに繋ぎたいと考えているのは、上士幌町にはビッグデータがあるんですね。例えば牛の数は何万頭といるんですよ。何万頭というデータというのは、新たなビジネスモデルに繋がってくるような素材です。
そういうものに関心のあるところとは、ぜひ一緒にやれたらですね。牛を10頭や20頭でデータを取るようなことは大変な話ですけど、1000頭単位でいますから、瞬時に答えや識別ができたら非常に人手もかからなくて済むし、コスト削減にもつながったというようなことで経済にも繋がっていくという感じだと思います。そういう可能性というのは、農業にしてもいろんなところにあるだろうなと思って、そういったところの次の展開が上士幌町でできればいいなと思っていますよね。
後編へ続く
取材・文/久村竜二