■連載/ゴン川野のPC Lab
DAPかスマホ+USB-C/DACか?
ヘッドホン&イヤホン編に引き続いて、DAP&アンプ編をお届けしよう。DAPの最新トレンドはAstell&Kern「A&ultima SP3000」が採用したDAC4基を搭載してLRだけでなく、バランス出力とアンバランス出力を完全に分離するデュアルオーディオ回路である。使われたDACは旭化成エレクトロニクスのAK4499EXという新フラッグシップ製品でS/N比135dBを誇る。デジタル信号処理用にはAK4191EQを2基搭載する。バランス接続に関して元祖φ2.5mmだったのだが、φ4.4mmも搭載とユーザーニーズに応えている。それ以外でハイエンドモデルに使われるのは旭化成エレクトロニクスのAK4499EQ、またはESS ES9038PROが候補になる。さらにAK4497EQ、AK4495SEQ、もしくは分離型のAK4191+AK4498、ESSであればES9038Q2M、ES9028PRO、ES9068ASなどが選択肢になるだろう。
DAPはAmazon Music HDやApple Musicなどのハイレゾ音楽ストリーミングに対応するため、Android OSを採用して、高性能なSoCを搭載するモデルが増え、高性能、高価格化が進んでいる。中級モデルが影を潜めてきた理由は、スマホのBluetoothコーデックが高音質化され、完全ワイヤレスイヤホンでストリーミングを楽しむ人が増えていること、そして、スマホの接続端子がUSB-Cに統一されつつあるため、超小型USB-C/DAC+スマホでハイレゾ再生というスタイルが注目されていることが理由と思われる。USB-C/DACの新製品は各社から発売され、2.5mm、4.4mmバランス対応モデルも増えハイコスパな中華製も参入してきている。この先どうなるのか、来春のヘッドフォン祭が早くも楽しみになってきた。
ESS ES9038PROを搭載したFiiO「M15S」が登場
個人的な話だが、私は仕事用にハイレゾ音楽ストリーミング対応、4.4mmバランス接続対応、そしてLDACとaptX HD対応で、なるべく大容量充電池を搭載したモデルを探しFiiO「M15」を購入。最終的には試聴して決めたのだが、DACがAK4499EQ×2という点も気に入っている。ところが今回、エミライブースに「M15S」が参考出品されるという。DACはESS ES9038PROに変更され、SoCはSnapdragon 660となり、Bluetoothは新たにLHDCにも対応した。左側だけにあった物理ボタンは右側に増え、ボリュームダイヤルは左端から右端に移動され、サイズは少し大きくなった。まあ、ESSのモニター調で解像度が高い音はあまり好みではないので問題なかろうと試聴すると、これが意外にもM15に寄せた柔らかい音を出してくる。しかし、速攻でM15Sに買い換えを決意するほどの違いはなかった。これは製品が発売されたらじっくり試聴してみたい。発売は今年の冬を予定。
左がM15でボリュームが左端にある、右はM15Sでやや大きくなりボリュームは右端にある
M15Sは右サイドにも物理ボタンが追加され操作性が向上している
FiiOの用途別ヘッドホンアンプが勢揃い!
FiiOはDAPで培ったノウハウを活かして、ヘッドホンアンプなど複数の参考出展をおこなった。フラッグシップモデルとして参考出展されたのが「Q7」である。「M17」のDACとアンプ機能だけを取り出したDAC搭載ヘッドホンアンプだが、3.5mmと4.4mmバランスラインアウトも装備している。さらにBluetoothにも対応、バッテリー容量は9200mAh。
世界初公開の「FiiO R7」はDAP「M11 Plus」にヘッドフォンアンプを加え、内部をバランス構成にしたデスクトップ型のオールインワンモデル。ややスッキリした音で低音の量感はタップリあった。デジタル入出力、アナログのバランス入出力を備え、LAN端子、SDカードスロットまで搭載して、後はアクティブスピーカーさえ加えれば無敵のミニマムオーディオシステムが完成する。AK4493EQ×2を搭載して4.4mmバランス接続対応のヘッドホンアンプ「FiiO K7」はUSB/DAC搭載で、デジタルプリアンプとしても使える。鮮明な音で解像度も高く「FiiO K9 Pro ESS」の弟モデルとして冬に登場予定。ポーランドのFerrum Audioからはヘッドホンアンプの「OOR」とUSB/DACの「ERCO」が9月に発売された。低域に馬力があり、音色はウォームで耳に優しい、リスニング指向の音がした。
ずしりと重く貫禄のあるボディで目立っていた「Q7」。別売のスタンドは空冷ファン付きだ
出力は2.5mm、3.5mm、4.4mm、6.3mmとフル装備状態
「FiiO K7」はコンパクトにまとめられたデジタルプリにもなるバランス対応ヘッドホンアンプ
新たな発想から生まれた「FiiO R7」のデザインは何故かレトロに見えた
上がFerrum Audioのバランス対応ヘッドホンアンプ、下はDCパワーサプライの「HYPOS」
こちらは上に乗っているのがDACプリアンプとしても使える「ERCO」
AK4499EXを4基搭載した、Astell&Kern「A&ultima SP3000」
10月15日発売のAstell&Kern次期フラッグシップモデル「A&ultima SP3000」はシルバーとブラックのカラーで実勢価格約65万9980円。手に取ってみると、重い! 493gもあるのだから重いに決まっているのだが、サイズから想像する重量感を上回っている。そして質感が緻密で硬い印象だ。それがアルミ合金とステンレス合金の質感の違いだ。アルミは削り出しでも柔らかい印象で、表面仕上げもキズが目立たないサンドブラスかヘアラインのことが多いが、硬度の高いステンレスはミラーフィニッシュが選択できるのだ。SP3000はエッジが丸められ持った時に手に優しく、どこに触れてもなめらかである。この輝きはやっぱりシルバーの方が楽しめる。
その音は非常に解像度が高いにもかかわらず、分析的にならない絶妙なチューニングがなされている。このさじ加減がAstell&Kernのアイディンティティであり、どこのDACを使おうと、回路構成が変わろうとフラッグシップモデルに引き継がれている。今回もその期待を裏切らず、抜群にS/Nのいい空間から、フッと音が立ち上がり、上質な響きのボーカルを聴かせてくれた。MichaelJacksonは歯切れ良く、パワフルでハイスピードに、試聴時間はすぐに過ぎ去り、現実に引き戻された。これは新世代のリファレンスとして機会があれば聴いて欲しいモデルだ。
鏡面仕上げのステンレス鋼904Lが美しい。表面は2種類のコーティングで保護されている
背面には多角形にカットされたセラミックパネルがピッタリ貼り込まれている
R2R DACをデュアルで搭載したHiby Music「RS8」
Hiby(ハイビ)と言えば、「RS6」などに使われるDarwinアーキテクチャーが特徴だ。FPGAを使い、PCMはディスクリート基板を使ったR2R方式のDACで、DSDは専用DACを使いD/A変換される。オーバーサンプリングなしのNOS再生にも対応するためマニアも注目のDAPである。他のメーカーとは一線を画す音を聴かせてくれる。世界初展示されたRS8は輸入元の飯田ピアノにイベント当日の朝に届き、新幹線でハンドキャリーされたという。フラッグシップモデルS8をさらに高音質化したもので、ボディはチタン合金、R2R DACをデュアルで搭載しているようだ。その音は一言でいえば艶っぽい。情報量は多いのだがそれを殊更、強調せずなめらかに聴かせてくれる。アコーステックな楽器や女性ボーカルが魅力的にブラッシュアップされる。音場感も細かく再現される。低域から高域まで細かい音が再現され解像度が高い点はSP3000に通じるとこもある。これはもっとじっくり聴いてみたい。
チタンボディはマット調の仕上げで、渋い印象、派手過ぎて悪目立ちする心配なし
光アイソレート対応で高音質を実現するiFi audio「NEO Stream」
TOP WINGのブースにサプライズ展示されたのがNEO Streamと名付けられたストリーマーである。ストリーマーとは、平たく言えばネットワークプレーヤーなのだが、LANやワイヤレスで接続するだけでSSDやNASに保存したハイレゾ音源などを高音質化できる。そのための装備が光SC入力対応と光メディアコンバーター「OptiBox」の付属である。もちろん光ファイバーケーブルも付いている。これを利用することで普通の有線LANに乗ったノイズをカットする光アイソレート接続ができるのだ。光ファイバーを使った伝送はハイエンド機器で採用されつつある最先端のトレンドであり、NEO Streamは早くもこれに対応した。さらにM12入力端子、HDMI端子によるI2S出力も搭載している。アナログ出力は4.4mmのバランスとRCAのアンバランスがある。フロントパネルには高精細なTFT液晶が搭載され、アルバムアートも表示できる。ストリーミングサービスで対応しているのはTIDALとSpotifyで純正アプリから操作できる。まだまだ、ここには書き切れないほど多機能でありながら、19万8000円とハイコスパでさすがiFi audioと思わせてくれるハイスペック。イヤホンで試聴したが、光アイソレートの効果は確かに感じられた。
タテ置き、ヨコ置きに対応した「NEO Stream」は最先端機能を満載する
背面にも入出力端子がズラリと並ぶ、SFPモジュール不要で光ファイバーを接続できる
「OptiBox」と光ファイバーケーブルが付属、有線LANを光接続に変換できる
ヘッドフォン祭の締めに聴くOJI Special「BDI-DC44B2 -G Tuned 3 Limited」
OJI Specialは日本のハイエンドヘッドホンアンプメーカー山陽化成のブランドである。ほぼ受注生産で製品台数が少ないため目にする機会は少ないと思うが、フジヤエービックで試聴できるかもしれない。私は取材の終わりに、OJI Specialのヘッドホンアンプを聴くことにしている。なぜなら、この音を聴いてしまうと他の製品に対する評価のハードルがグッと上がってしまうからだ。もちろん価格も100万円超えの製品が多いのでコスパを考える必要もあるのだが、最後に心地よい音で癒されたいという気持ちもある。
今回のヘッドフォン祭向けのLimitedモデルは、BDI-DC44シリーズをベースにしている。左右とハイ、ローの4つの独立したアンプに+-2電源を搭載、4個のトロイダルトランスと8回路の電源をスリムなボディに搭載したのが44B2になる。Tuned3 Limitedはローインピーダンスや高感度ヘッドホンをドライブするのに最適なLOWモードを搭載した。その効果は抜群で、全く色気のないレコーディングモニターSONY「MDR-CD900ST」のドライで輪郭のカッチリした音が、LOWモードにすると高解像度を保ったままで、OJIらしいなめらかで柔らかい音に変化、別のヘッドホンに差し替えたのかと思うほどの違いがあった。
さらに限定オプションとして、アンプのバランスの中点をマイクロボルト単位まで調整した特別選別品が3台限定で登場した。OJI Specialはトルクマネージメントや高精度インシュレーターなどスペックに現れないが音質を左右するオプションがあり、さらなる音質追求にも対応している。いつかは手に入れたいモデルとして
3点支持の筐体はオリジナルデザインでタカチ電機工業によって生産されている
背面にあるトグルスイッチでLOW/HIGHの切り替えをおこなう
写真・文/ゴン川野