土日は寝るだけの会社員人生だったが……
都内の広告代理店に勤務する東松寛文さん。新卒で入社した頃は、朝8時には出社して終電帰りが当たり前。
土日は休みだが、寝だめで1日の大半が終わり、夜は合コンしてニ日酔いのまま月曜を迎えるのが日常であった。
そんな日々が転機を迎えるきっかけが、たまたま見たNBAの試合のチケット情報。ひいきのチームが出場するその試合のプレミアチケットが意外な破格値で、思わずポチッたものの、試合会場はロサンゼルス。
「社畜寸前」で会社に奉職することしか考えていなかった東松さんにとって、そこは宇宙の果てのように遠い場所であった。
ロス行きを諦めかけた東松さんだが、学生時代の先輩が、「上司の顔色伺わないと生きていけない職場なら転職すっかな」という言葉に心を動かされて決断。上司から有給休暇を取りつけて3泊5日の観戦旅行に出かけた。
この経験で旅行熱に開眼した東松さんは、週末の休みを活用して海外弾丸旅行を繰り返す。
以来、訪れた国は70を超え、自らつけたニックネームが「リーマントラベラー」。同時に「休み方研究家」としても活動し、先般『週末だけで70ヵ国159都市を旅したリーマントラベラーが教える 自分の時間の作り方』(学研プラス)という書籍を上梓している。
「働き方改革が進んだ」と言われても、昭和的な働き方がしみついた職場はまだ多い。
そうしたところに勤務するビジネスパーソンから見れば、東松さんはまさに希望の星。今の会社を辞めずに、ワークライフバランスに成功するコツは一体なんであろうか?そのあたりを本人にうかがった。
■週末海外旅は金曜夜から始まる
そもそも、土日だけで海外旅行というのがびっくりですが、なにか1つモデルコースといいますか、どんな旅程をこなしているのか教えていただけますか? また、超短期の旅を満喫するコツもあれば。
東松さん:土日での週末海外といっても、僕の場合は金曜の仕事が終わった瞬間から週末を開始します。
金曜の仕事終わりにそのまま空港へ向かい、その日のうちに日本を出国。土曜の朝から日曜夜まで海外旅行を楽しんで、月曜の朝帰国し、そのまま全力出社。そうすれば、短い土日休みでも十分海外旅行を楽しむことができます。
例えば、タイ。金曜夜に羽田空港を出発すれば、土曜早朝にはバンコクに到着します。到着したら、屋台で朝食を食べてから観光スタート。
寺院を巡ったり、市場やデパートでショッピングをしたり、地上314mにあるガラスの床の展望台で有名なマハナコン・スカイウォークで記念写真を撮ったり。
最近はオシャレなカフェなんかも人気ですので、疲れたらカフェかタイマッサージで休憩しましょう。
夜はドレスアップして、ルーフトップバーなんていかがでしょうか。元気な方はそのままナイトクラブへ行くも良いですね。移動は配車タクシーアプリGrabを利用して、極力体力は温存するのがオススメです。
短い時間ではありますが、予定を詰め込み過ぎないこともポイントです。旅をしていると、現地で新しい発見をしたり、新たな出会いがあったりすることもありますからね。
下調べはしつつ、現地では柔軟に予定を変更できるぐらいの行程を組んでおくことが、旅を最大限楽しむコツです。そんな風に2日間バンコクを思いっきり楽しんだら、日曜の夜の飛行機で帰国。月曜は何食わぬ顔で出社することが可能です。
マハナコン・スカイウォークでの東松さん
東松さんが、有休を使わずに土日だけで行った国は、タイの他に韓国や中国といったアジア圏だけでなく、ロシアやアラブ首長国連邦など10を超える。
どこの国も「有休を取らなくても十分すぎるぐらい楽しめました」「サラリーマンは自由に海外旅行できないというのは、僕の勝手な思い込みだったのです」とも語る。
■“自分への言い訳”を準備して有休申請にのぞむ
厚生労働省による最近の調査では、有給休暇の平均取得率は56.6%。以前より増えたとはいえ、取得率はまだまだといえるのが現状です。
これは、単純に忙しいからというよりも、周囲の状況や社風から、取るのを遠慮しているというパターンは少なくないようです。そこを突破して、効果的に有休を取りに行く方法はあるでしょうか?
東松さん:僕も、今でも有休を毎年全て消化できているわけではありません(笑)。「旅行好きキャラ」が職場で浸透しても、やはり周りが働いている中で1人だけ「休みます!」と宣言するのは勇気が必要です。
そのために、「休んでもいい」と思える“自分への言い訳”を準備してから、上司に有休を申請しています。
僕の場合は、有休を使用するときは旅に出るときなので、コロナ前の最後の旅行で2020年2月にブラジル・リオのカーニバルへ行ったときは、「死ぬまでに一度は行きたいお祭りだったリオのカーニバルが、今年は日本の3連休と重なって開催するので、今年であれば2日追加で休めば参加することが可能なんです!」と上司に有休申請という名のプレゼンをして、見事に勝ち取りました。
思い返すと、上司は普通に部下に有休取得を了承しただけだと思いますが、僕は達成感に包まれていました。
そんな風に、有休を申請するにあたっての“自分への言い訳”を準備しておいてから上司に掛け合えば、きっとその思いで有休を獲得することができると思います。
一番気軽に準備できる自分への言い訳は、好きなアーティストのライブであればチケット、旅行であれば航空券やホテルを先に押さえてしまうことです。
■先に週末の予定を決めてしまう
海外旅行に限らず、週末の休みを有効活用するには、平日に過重な疲労をためず、持ち越させないことが重要だと思います。
でないと土日は、日頃の疲れ解消のためゴロゴロしてばかりとなりかねません。平日の無用の残業や時間の浪費を減らす秘訣を教えてください。
東松さん:先に週末の予定を決めてしまいましょう。ワクワクすることであればあるほど、効果てきめんです。
例えば、ずっと行きたかったアーティストのライブのチケットが運良く手に入ったとしましょう。それが今週末あり、仕事を持ち越すことは絶対にできない……。
そう考えたら、絶対に平日のうちに仕事を終わらせようとすると思います。そうやって、自分で自分の仕事のゴールを設定して、働くことが仕事の効率を最も効率よく高める方法です。
ポイントは、「自分で決める」こと。誰かに与えられた仕事の締切だとしても、自分で前倒して決め直すことで、その物事に主体性が生まれ、誰かの仕事と思って気が進まなかった仕事も、自分の仕事と思えるようになります。
何か特別なことをする必要はありません。こうやって、今やっている仕事も、見方や捉え方を変えるだけで、誰もが明日から効率よく仕事をできるようになると思います。
一見体育会系に見える東松さんだが、実はかなり論理的に考え、実行するタイプのようだ。かといって、暑苦しいほどの理詰めでなく、アドバイスの一つ一つがポジティブで「これなら自分もできそうと」思えるものばかり。
久しぶりに旅行熱が全国的に高まっている今、東松さんの著書を参考に、旅行プランを立ててみてはいかがだろうか?
東松寛文さん プロフィール
1987年岐阜県生まれ。神戸大学経営学部卒。平日は広告代理店で働くかたわら、週末で世界中を旅する”リーマントラベラー”。また、週末で人生を変えた休み方のスペシャリストとして“ 休み方研究家” としても活動。
社会人3年目に旅に目覚め、10年間で70か国159都市に渡航。2016年、3か月で5大陸18か国を制覇し、世界一周を達成。「地球の歩き方」から旅のプロに選ばれる。以降、『ZIP!』『zero 選挙』(日本テレビ)、『ガイアの夜明け』(テレビ東京)をはじめメディア出演・執筆多数。全国各地で講演も実施。朝日新聞社にて『リーマントラベルサロン』を主宰する。
著書に『サラリーマン2.0 週末だけで世界一周』(河出書房新社)、『人生の中心が仕事から自分に変わる!休み方改革』(徳間書店)。最新の著書が『週末だけで70ヵ国159都市を旅したリーマントラベラーが教える 自分の時間の作り方』(学研プラス)。
2022年よりオーストラリア『ケアンズ&グレートバリアリーフ観光大使』、岐阜県羽島市『羽島市アンバサダー』も務める。
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文/鈴木拓也(フリーライター)