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仕事に集中できて省エネにもなる最先端のオフィス照明「タスク・アンビエント」とは?

2022.10.14

働き方改革が進む中、オフィスでの仕事のスタイルが大きく変化しているのを、みなさん実感されているかと思います。

令和にふさわしいオフィス空間を実現するには、照明がとても大切になります。仕事へ集中できれば、働く人はハッピー。そして、光熱費を下げられたら会社もハッピー。仕事に集中できて省エネにもなる……そんな都合の良い照明があるのでしょうか? 「タスク・アンビエント照明」が、働く人と会社のニーズをWin Winにするかもしれません。

タスク・アンビエント照明ってどういう意味?

オフィスに灯る照明をじっくりと眺めたことがある……そんな方は珍しいかと思います。「会社の照明なんて、点いていて当然」ぐらいの感覚でしょう。

でも、オフィスの照明って実は、働く人のためにキチンと設計されているんです。

机周りが明るくなれば、手元の作業がしやすくなります。そして、室内は適度に明るさが必要です。そこで、オフィス照明では、JISが推奨する〝机上面照度750ルクス〟以上に保つ設計が施されることが多いのです。

しかし、机上面照度は文字通り、机の上の明るさのこと。作業だけを考えれば、机周りだけが明るければいいはずですが、ほとんどのオフィスは天井から部屋全体を照らす「全般照明」となっています。もしかしたら明るくする必要の無い部分まで明るくなっているかもしれません。

そこで、考え出された照明設計が、タスク・アンビエント照明なのです。

タスク照明とは業務に必要な光のことで、主に机の上の明かりです。一方、アンビエント照明とは、空間全体を照らす光です。〝全般照明〟が天井照明で部屋全体を照らすのに対して、タスク照明とアンビエント照明に分けて照明設計するのが、〝タスク・アンビエント照明〟なのです。

従来照明方式(全般照明)とタスク・アンビエント照明

先ほどタスク・アンビエント照明が最先端の照明と書きましたが、実は、タスク・アンビエント照明の考え方は以前からありました。しかし、オフィスビルではあまり普及しませんでした。その理由は大きく3つあります。

1.蛍光灯からLED照明に変更するだけで、3割程度の省エネができて「これで十分」という考えができてしまった。
2.照明器具のバリエーションが少なかった
3.照度を落としたものが多く「導入したら暗くなるのではないか」と思われてしまった。

つまり、全般照明をLEDに変更するだけである程度の省エネが実現されるため、タスク・アンビエント照明まで先鋭化する必要がない……多くの会社・ビルオーナーがそう考えるに至ったのです。

ZEB(ゼブ)と働き方改革でタスク・アンビエント照明が脚光を浴びるように

LED化で十分……そう考えていた多くの会社・ビルオーナー。しかし、令和はさらに一歩先の未来へ進もうとしています。

環境意識が高まる中、2030年までに新築建築物の平均で〝ZEB〟を実現することを目指す、そんな政策目標が、2014年4月に閣議決定されていることをご存じでしょうか?

ZEB(ゼブ)……何のことでしょうか? シマウマ? 文房具??

ZEBとは、Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)を短くした言葉で、様々なビルを省エネしよう! という目標です。省エネと創エネ(太陽光発電など)で、一年間に使うエネルギー消費量をプラスマイナスでゼロにすることを目指します。

巨大ビルだけではありません。中小のビルもZEBの対象となります。そこでは、空調・換気・照明・給湯・昇降機(エレベーター)といった5つの設備が省エネ対象設備になります。LED化で省エネにはなりますが、ZEB時代のビルは、それだけでは足りません。机上照明750ルクスのままでは、省エネ不足になることも今後、多くのビルで予測されます。

一方、タスク・アンビエント照明なら、机上と空間を分けて照明できるので、全体の照度を下げて約3割〜5割の省エネを実現しつつ、快適なオフィス空間ができあがるというわけです。

さらに最近みなさん、机の上で作業する仕事って減ってませんか? 多くの作業はパソコンやタブレット、スマートフォンで済ませているのではないでしょうか? つまり、机の上が必ずしも750ルクスでなければいけない……そんな時代ではなくなってきているのです。

そして、LED照明自体のバリエーションも増えました。そして、コンピュータの進化で3Dデータ上で照明照度を細かくシミュレーションすることも容易になってきました。

そんな背景があって、タスク・アンビエント照明が最先端の照明設計として注目されるようになってきたのです。

賃貸オフィスビルでタスク・アンビエント照明に挑戦した乃村工藝社

それではここで、タスク・アンビエント照明を実現したオフィスを見学してきたのでご紹介します。それは、東京都・港区台場に本社を構える乃村工藝社です。

同社は明治25年(1892年)3月15日に創業し、130年もの歴史を持つ会社です。商業施設、ホテル、オフィス、博物館・美術館、ショールームなどの展示、博覧会・イベントのプロモーションに実績を持つ、空間総合プロデュース企業です。

歴史ある企業とあって、グループ会社が各地に存在。企業内でのコミュニケーションが取りづらい環境でした。そこで、2018年にグループ拠点集約プロジェクトを開始。東京で分散していた事業拠点をまとめることとなりました。

そんな中、コロナ禍により働き方そのものへの見直しが迫られ、「未来の働き方」を自分たちで創り、「リアルなオフィス空間の価値を高める」取り組みに、グループ拠点集約プロジェクトは進化していったのです。

働く人ひとり1席の固定席をやめ、65%の席数のチームアドレスへと変更。東京の本社には300人のデザイナーが所属しますが、毎日出社しないため、執務空間を1フロアに収めることができました。そして、できた余裕から、本社の1フロアを「遊ぶ」と「働く」をごちゃまぜにして、仲間のことをもっと知るスペースへと生まれ変わらせたのです。

オフィスを案内してくれた、株式会社乃村工藝社 クリエイティブ本部 デザイン4部 部長/デザインディレクター 山口 茜さん

産地のわかる木だけを使い、天井から大きな〝スギ・ヒノキ玉〟が下がるミーティング・スペース

人生ゲームが描かれたユニークなデスク

さらに、賃貸ビルでもできる、こだわり照明の開発にも取り組みました。

通常、賃貸ビルは転居の際に原状復帰する必要があります。そのため、ユーザーは根本的な設計変更は困難で、照明へこだわるには限界があります。

しかし、タスク・アンビエント照明なら、執務空間全体と机上の照度を確保しつつ、自分たちが思うこだわりの照明を実現できることがわかったのです。

そのパートナーに選ばれたのが、パナソニックです。

パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社 エンジニアリングセンター 中央エンジニアリング部 岩井 彌部長

乃村工藝社新オフィスでは、9Fの執務フロアへすでに設置してあったシステム天井の照明器具をOFF。アッパー照明で天井面を照らし空間全体の明るさを確保しつつ、机上面にはライン照明を行う、天井吊り下げ方式のペンダント照明によるタスク・アンビエント照明としました。

新たに設置したペンダント照明は52台。それぞれにパナソニックの「C-Slim S15」と呼ばれる長さ1253mmの細長いLEDライン照明を、天井方向に2台、机方向に2台の合計4台設置。フロア全体で208台の「C-Slim S15」が輝きます。

天井方向

机方向

これにより、執務フロア全体の平均照度は372ルクス、机上面照度は605ルクスとなりました。

実際に部屋を眺めた印象としては、特に暗いとは思いませんでした。むしろ、光のコントラストにより、落ち着いた感じでした。そして、机の上は明るいのですが、通路部分がやや暗くなっているためか、自分の作業スペースが包み込まれたような印象。周囲と隔離された安心空間になっていると感じました。

ペンダント照明への電源は、各テーブル足元のOA機器用の電源コンセントから確保しています。天井裏の配線などをいじっていないため、机を移動したい場合は天井から照明を外して、そのまま移動して吊り下げ直すだけだそうです。

タスク・アンビエント照明が採用された乃村工藝社の執務フロアの照明設計を担当したパナソニックの先崎さんによると、「もしかしたら、部屋が暗く感じられてしまうのではと少々不安でした。しかし、『空間の明るさ感』を表現するFeu(フー)を活用。また、シミュレーションを何度も行うことで、一般的なオフィスと同等のfeu13という数値がしっかり確認できたため、安心して提案できました」といいます。

このシミュレーション技術はさらに進化し、現在ではパナソニックが自社で開発したBIM(Building Information Modelling)用照明シミュレーションツール「Lightning Flow」が、照明設計の現場で大活躍しています。

パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社 エンジニアリングセンター 照明デザイン部 内装環境デザイン課 主務 先崎 綾華さん

タスク・アンビエント照明がはやりそうな予感

乃村工藝社新オフィスでは、タスク・アンビエント照明を実施したおかげで、消費電力を53.8%削減できたそうです。

1年間で1万6535kWhの削減とのこと。蛍光灯と比較してランニングコストは62.9%削減。一般的なLED化と比較すると、31.5%の削減につながりました。

従来に比較すると、部屋全体の照度が落ちた乃村工藝社の本社執務フロアですが、スタッフの作業効率が下がったという報告はないそうです。むしろ落ち着いた空間で作業に没頭できるという意見も多いとのこと。

タスク・アンビエント照明は省エネ対策と働き方改革に効果的なことがわかってきました。オフィスビルの近代化、ZEB化の動きは今後も続きます。タスク・アンビエント照明がこれから、もっともっと注目されるのは間違いなさそうです。

取材・文/中馬幹弘

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