会社の中には、従業員などの福利厚生の一環として「社宅制度」を設けているケースがあります。会社が一括で借り上げた物件を、従業員に対して安く貸す場合などが典型例です。
社宅制度は、一般の事業会社だけでなく、個人事業の延長である「一人会社」でも導入することができます。特に一人会社の場合、社宅制度を通じて節税効果を得られる可能性がある点が大きなメリットです。
今回は、一人会社における社宅制度を通じた節税についてまとめました。
1. 会社における「社宅制度」とは
「社宅制度」とは、会社が所有または賃借している物件を、役員や従業員に住居として提供する制度です。
社宅制度を利用すると、役員・従業員は会社から安く物件を借りられることが多く、可処分所得を増やせるメリットがあります。
また、後で紹介するように、社宅制度によって節税効果を得られる可能性がある点もメリットの一つです。
2. 一人会社でも社宅制度を利用可能
社宅制度は、会社の規模を問わず導入できます。超大企業から、株主が1人しかいない「一人会社」まで、あらゆる会社において導入可能です。
特に、個人事業を法人成りする形で設立された「一人会社」では、後述する節税メリットを享受する目的から、社宅制度を導入しているケースがよく見られます。
3. 一人会社の社宅制度による節税効果
社宅制度を導入すると、会社側では法人税等の負担が減る一方で、役員・従業員の側では給与としての課税を回避できる場合があります。
この仕組みを利用すると、特に一人会社では、個人・会社トータルでの税金や社会保険料の負担を軽減できるケースが多いです。
3-1. 社宅制度による節税の仕組み
社宅制度を導入した会社は、物件の所有・賃借や維持にかかるコストを経費計上できます。つまり、社宅にかけたコストの分、事業年度ごとに課される法人税等の額を抑えられます。
その一方で、社宅制度を利用している役員・従業員には、経済的メリット(物件を安く借りられること)が発生します。経済的メリットを享受した場合、それが所得とみなされて課税されるのが原則です。
しかし社宅制度の場合、一定の条件を満たせば、社宅の賃借によって発生する経済的メリットにつき、給与としての課税が行われません。
つまり社宅制度を利用すると、会社側での法人税等の負担を減らす一方で、役員・従業員の側では税金や社会保険料の負担が増えないようにできる場合があるのです。
3-2. 一人会社における社宅制度の節税例
上記のメリットは、特に個人事業を法人成りした一人会社において顕著に表れます。
仮に個人事業主が、(社宅制度を利用せず)自分で自宅を賃借したとします。
自宅兼事務所の場合、あるいは自宅で仕事をすることがある場合には、賃料の一部を家事按分によって経費化できます。家事按分とは、使用面積や使用時間などに応じて生活費と事業費を区別し、事業費のみを個人事業の経費とする考え方です。
具体的な家事按分割合はケースバイケースですが、10%から50%程度に設定されるケースが多いと思われます。
これに対して、個人事業を法人成りしたうえで、社宅制度を導入して、会社名義で自宅を賃借した場合を考えます。
会社は、自宅(社宅)の賃借に要した費用(賃料など)の全額を損金(経費)に算入できます。
その一方で、会社から自宅を転借する事業主(役員)は、会社に対して一定の賃料を支払う必要があります。しかし、事業主が支払うべき賃料の額は、会社が負担する経費の10%程度にとどまるケースも多いです。
事業主から支払いを受けた賃料は、会社の収益となります。それでも、賃料が会社の負担する経費の10%程度であれば、実質的に賃料などの90%を経費化できることになります。
もちろん、個人と法人では税の種類や税率、社会保険料の負担などが異なるため、常に「法人成り+社宅制度」の方が得というわけではありません。
しかし、個人で事業を営んでいる方は、法人成りして社宅制度を導入することにより、トータルでの税負担を軽減できる場合があることを知っておくとよいでしょう。
4. 一人会社で社宅制度による節税が認められるための要件
一人会社における社宅制度の重要なポイントは、利用する役員が享受する経済的メリット(物件を安く借りられること)につき、給与として課税されないようにすることです。
そのためには、会社が役員から、1か月当たり以下の金額と同じか、それ以上の賃料を受け取る必要があります。
(1)小規模な住宅※の場合
→(a)から(c)までの合計額
(a)(その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2パーセント
(b)12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/(3.3平方メートル))
(c)(その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22パーセント
(2)小規模な住宅※でない場合
①自社所有の住宅の場合
→(a)と(b)の合計額の12分の1
(a)(その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×12パーセント※
※法定耐用年数が30年を超える建物の場合は、10パーセント
(b)(その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×6パーセント
②他人から借りた住宅の場合
→会社が賃貸人に支払う賃料の50%の金額と、上記①で算出した金額のいずれか多い金額
※小規模な住宅:法定耐用年数が30年以下の建物の場合は床面積132平方メートル以下、30年を超える建物の場合は床面積99平方メートル以下の住宅。
区分所有の建物は、共用部分の床面積を按分し、専用部分の床面積に加えた数値で判定する。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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