上司や同僚、顧客など、あらゆる人から好かれ、愛されることはビジネスに有利になるし、自身も意欲が向上するので仕事にも良い影響が及ぶ。けれど、現実は違う。周囲からはあまり頼りにされていないように見えるし、冷たい人間と思われている節もある…。そんな風に感じているビジネスパーソンもいるのではないだろうか。
今回は、社内で好かれ、愛され、頼りになる存在に転身するための極意を有識者に聞いた。
社内で好かれ、重宝されるための真髄とは?
社内で上司や同僚から好かれ、愛され、頼りにされ、「うちの会社や部署に必要な人材だ」と重宝されるための真髄とは? 今回、話を聞いたのは、マナーの専門家として知られる西出ひろ子氏だ。西出氏は、まず真髄として、次のように回答する。
【取材協力】
西出ひろ子氏
ビジネスデザイナー。ヒロコマナーグループ3社の法人代表として、また心を重視するマナーの専門家として活躍中。28万部の「お仕事のマナーとコツ」(学研プラス)など日本でビジネスマナー本をもっとも出版しているマナー界の第一人者として、テレビなどのメディア出演は800本以上。企業のコンサルティングや講演などでは他に類をみない目からウロコの内容と結果と成果を出す人財育成を行うとして定評がある。著書は国内外で100冊以上。著者累計100万部を超えるベストセラー作家でもある。
ヒロコマナーグループ http://www.hirokomanner-group.com
「それは、ズバリ『マナー』です。マナーとは、相手の立場に立てるよう、自分の気持ちに余裕を持ち、相手が喜ぶことを行うことで、お互いにプラスをもたらすものです。自分が愛され好かれたいと思うなら、まずは相手が期待していることや欲することなどを、言われる前に自分から先に『先手』で行うことです。まずは自分から相手に『ギブする』ことを意識してみましょう」
実践するための方法6選
では、実際に実践し、先手を打つには、どのような方法があるのだろうか。具体的に挙げてもらった。
1.仕事をため込まない
「相手の立場に立つことは、自分に余裕がないとなかなかできることではありませんね。そのために、まずは、自分の仕事をため込むことなく、迅速に仕事を処理していくことが必要です。そうすることで、時間と気持ちに余裕ができるため、他の人を手伝うことができる余裕ができます」
2.感謝の気持ちを表現する
「完璧な人はいませんし、仕事は自分だけで成り立つものでもありません。職場で起きることは当たり前として捉えることなく、常に感謝の気持ちを忘れずに、その気持ちを『ありがとうございます』という言葉で表現していきましょう」
3.先読みして行動する
「仕事といえども『これやってもらいたいなー』と思うことをなかなか言えない人もいます。相手の状況などから察して相手が依頼してくる前に『私、この資料作成を行ってもいいですか?』と率先して手を挙げるなど、先読みして行動すると相手は喜びます」
4.クッション言葉をトッピングする
「相手にコピーをとってきてもらいたいとき。『これ、コピー2部とってきて』という言い方はよく耳にします。しかし、このセリフを言われても、職場で好かれる人にはなれません。好かれる人になるには、クッション言葉が必須です。『忙しいところ、申し訳ないんだけど、この書類、2部コピーをお願いできますか?』と相手を気遣うクッションとなる言葉をトッピングしましょう」
5.知っている情報を共有する
「知っている情報を共有することも有効です。例えば、上司のお気に入りのお店が、いつまで改装のため閉店しているなど、仕事に直結しないことでも、情報として伝えてあげると喜ばれます。上司からは『教えてくれてありがとう!来週そのお店にお客様を連れて行こうと思っていたんだよ!』と感謝もされるかもしれません」
6.同僚のスケジュールを知る
「職場の人たちでスケジュールを共有していると、自分に余裕があれば相手の立場に立って、何をすれば相手が楽になるのか、喜ぶのかを考えることができます。例えば、上司がA社へ新商品の説明をするために訪問することがわかっていれば、新商品のチラシやサンプルなどをすぐに持っていけるように準備をしておくなどの気配りです」
社内から嫌われているかも!そんな人への処方箋
現在、社内で「冷たい人だ」と思われていたり、周囲からあまり頼りにされていなかったりする場合、いきなり愛される社員になるのはハードルが高いと思われる。そんな人は、まず何から始めればいいだろうか。
「大事なことは、コミュニケーションを取ることです。話しかけることが苦手な人もいるとは思いますが、職場で愛される、重宝されたいのであれば、まずは、『自分から声かけ』をしてみるところから始めてみましょう」
西出氏は次の3つの具体的な方法を挙げる。
1.自分から挨拶をする
「テレワークなども増え、年々、社内の人たちとのコミュニケーションが希薄になっていることがよく課題といわれます。そんなときこそ『おはようございます』『お疲れ様です』の一言で自分の存在を認めてもらえていると相手は喜びます。自分から挨拶をしてくる部下後輩は『感じがいい』と思われ、一方、上司先輩は『素敵』と憧れの存在になります」
2.言われる前に報告・連絡をする
「報告をすることで、相手は安心します。好かれる人は、相手に安心感を与えます。信頼は安心感を経て構築されていきます。コミュニケーションをとることが苦手な人でも、仕事に報告は欠かすことができません。相手から言われる前に、自分から報告をしようと心がけるだけで、相手との関係性はグッと好転します。また、事前の連絡も大切です。例えば、有給や急遽お休みをするときなどです。事前にわかっている場合には、上長だけでなく、いつ休むのかを常に一緒に仕事をしている仲間にも事前に伝えるようにしましょう」
3.相談をする
「相談は、相手に心を開いている証拠。相談をされた相手は、自分が頼られていると思い、あなたに心を開いてくれます。日頃、見せない一面を見せることで、相手は、あなたのことを誤解していたことに気づいてくれます。また、あなたの悩みごとなどを相談することで、あなたが日頃どんな状況にあったのかを相手も知ることができ、互いに理解し合うことができ、良い関係が築けるきっかけになります。口頭で言うのが恥ずかしい人は、メールでもOK。コミュニケーションを取らないよりは、メールでも伝えるほうが相手の心に響きます。あなたが変われば、周囲に変化が表れるでしょう」
社内で好かれるようになった人の事例
実際に会社員が好かれ、愛されるようになった事例を2つ、西出氏に挙げてもらった。
1.「~してもらえますか?」に変えた
「口下手で、人とのコミュニケーションが苦手だった30代後半の男性は、社内でリーダーになったことをきっかけに『社内で好かれる人にならなければ、周囲がついてこない』と気づきました。そこで行ったのが、『名前+クッション言葉+?』のマナーコミュニケーションの会話術です。
部下や後輩に何かを依頼するときには、必ず、まず、相手の名前を呼びます。次に、クッション言葉をつけて、『~してください』と一方的な言い方をせずに『~してもらえますか?』とうかがう言い方にしたところ、一週間も経たないうちに、部下や後輩たちが笑顔になって、その男性にも『○○さん』と言って、相談や報告が活発に行われるようになり、社内の『憧れの上司先輩NO.1』に輝きました。その男性はその後、役員にまで昇進しました」
2.自分から率先してコミュニケーションを取るようにした
「気持ちはあるのに、恥ずかしかったり、話しかけたら迷惑なのではと思い、言いたいことを言えないでいた20代半ばの女性Aさん。周囲はそんな彼女に『コミュニケーションを取らない人』というマイナスな印象を持っていました。
そのことに気付いた彼女は、まずは自分から挨拶をするようにしました。手が空いたときには、『○○さん、何か私にできることがあれば行います』と働きかけるようにしました。すると、気がついたら『Aさんがいてくれて助かるよ』『Aさん、いつもありがとう』と言われるようになりました。
自分から率先してコミュニケーションをとることは、失礼なことと勝手に思い込んでいたAさん。相手の立場に立って、相手にとって良かれと思うことを聞いたり、提案することは、決してマイナスなことではないということを体感し、愛され女子にバージョンアップしています」
いずれもちょっとした意識の変化で、行動に変化が現れたことで自分自身が愛される存在になった事例だ。ポイントは、自ら率先して「先手」を打って相手の気持ちを読み、働きかけることにあるようだ。社内でなんだか好かれていない…と感じている人は、人知れず転換をはじめてみてはいかがだろうか。
取材・文/石原亜香利
仕事も人間関係もうまくいく「感じがいい人」のコミュニケーションテクニック
コロナ禍は社会や経済に大きな変化をもたらし、個人レベルでも、意識や行動の変容が求められることになった。ニューノーマルとなったテレワーク、在宅勤務、オンラインミーティングなど、非対面型ビジネスシーンや短時間のコミュニケーションで「感じのいい印象」を残すことは、今後より求められるビジネススキルのひとつに。では周りの人から「感じがいい」と思われる人は何が違うのか。『よけいなひと言を好かれるセリフにかえる言いかえ図鑑』(サンマーク出版)の著者で、公認心理師、産業カウンセラーの大野萌子さんに「感じのいい人」に共通する言動、行動と心の持ちかたについてお話を伺った。
大野萌子(おおの・もえこ)さん
公認心理師。産業カウンセラー。2級キャリアコンサルティング技能士。一般社団法人日本メンタルアップ支援機構(メンタルアップマネージャ(R)資格認定機関)代表理事。著書の『よけいなひと言を好かれるセリフに変える言いかえ図鑑』はシリーズ累計50万部を突破。
オンラインのコミュニケーションでは、動きのある表情や動作を意識
−−コロナ禍で行動が制限されたことで、人とのコミュニケーションの大切さがよりクローズアップされるようになってきました。ビジネスシーンでもオンライン会議やメールなど、非対面で仕事が進むケースも増えていて、対応に悩んでいる方も多いと思います。
大野 オンラインでのコミュニケーションは、思った以上に難しく、お悩みの声もよく聞かれます。そもそも人は会話の中のちょっとした表情の違いや仕草、その場の雰囲気などから気持ちまでを読み取るもの。それがオンライン上の文字のやりとりや画面越しの会話になると受け取る情報が極端に限られるので、いつもとは違う注意が必要になるんですね。
−−その中で「感じがいい」印象を残すためにはどうしたらよいでしょう。
大野 例えばWEB会議であれば、画面上に映る映像と音声の情報が全てですから、背景、マイク、ライトなど、相手にとってストレスのない環境整備も気配りの一つです。また、大げさすぎるくらいの身ぶり手ぶりで、聞いていること、興味があることをアピールすること。画面を通すとどうしても無表情に見えがちで、人は怒っている顔よりも感情のない無表情に恐怖や圧力を感じますから、にこやか、かつ、表情豊かに話すことを意識することです。動きのある表情や動作は、ポジティブ=感じいい印象を相手に与えられます。
−−メールはどうでしょう。
大野 メールで対面時のようなニュアンスを伝えることは、ほぼ不可能。文字面の印象を相手がそのまま受け取ると言うことですから、いつもより丁寧な言葉づかいを意識することです。また曖昧な表現は避けて、より具体的に伝えることも大切です。
−−相手はそんなつもりはないと思いますが、つっけんどんなメールにイラッとすることがあります(笑)。期限や指示が曖昧なメールというのもモヤモヤしますね。確認のために、何往復もすることになったりして、無駄だなぁと感じることも。相手がすぐレスポンスしてくれるとも限らないし。
大野 そういう時は、電話しちゃうことです。電話は相手の時間を邪魔するように思うかもしれませんが、文字でうまく伝わらないことも直接話したほうが早く解決できることも多いんです。
自分で自分を認めることが「感じいい人」になる第一歩
−−確かに。言葉の言いかえもそうですが、行動面でも、臨機応変に対応できる人は好印象ですよね。ビジネスシーンはもちろん、日常生活の様々な場面で、そうした「感じいい」人に出会うたび、そうなりたいと思うのですが、どうすれば周りから感じよく思ってもらえるのでしょうか。
大野 まずは自分のことをしっかりと見つめ、自分の気持ちや考えを自覚することです。自分のことは自分が一番よくわかっていると思うかもしれませんが、なかなか難しいのが現実です。
−−わかっているようでわかっていない。
大野 そうなんです。私たちは社会生活の中で、「空気が読めないやつと思われたくない」「自分が我慢すれば丸く収まる」などという思いから、自分の本当の気持ちを抑え込みがちです。そうするうちに自分の本心がわからなくなる。自分の中ではっきり認識できないことは、伝え方が曖昧になり、さらに相手に結論を委ねるような言動になりがちです。「以心伝心」という言葉がありますが、残念ながらこれは幻想です。言葉は具体的に伝えなければ相手に伝わりません。
−−先ほどのメールの件もそうですね。ほかにも思い当たるところが多くあります……。
大野 コミュニケーションは、相手にどう思われるかより、自分の意思が、相手にきちんと伝わることのほうが重要。また、わかったつもりにならず、相手にも都度確認することも大切です。ですから、「感じのいい人」と思われるためには、まず自分のことを大切にできる「自分にとっての感じのいい自分」になることです。自分を大切にできる人は、周りの人も大切にできるからです。
−−まずは自分を認めることが大切なんですね。そうすれば周りを見る余裕ができて、思いやりをもった行動や言動ができる……。小社から9月30日に発売する、大野さんの最新刊『「感じがいい人』の行動図鑑』では、そんな「感じがいい人」が意識的、無意識的に身につけているコミュニケーションの事例を紹介しています。
大野 職場で、取引先で、オンラインで、など、ビジネスシーンを中心に65のポイントをまとめました。本書の中からこれならできると思うものを実践し、日々ないがしろにしがちな自分自身の気持ちに目を向けていただければと思います。
大野萌子さんの最新刊発売中!
『仕事も、人間関係も、驚くほどうまくいく!
「感じがいい人」の行動図鑑』
CONTENT
感じがいい人がさりげなくやっている!
・心をつかむ「聞く7割・話す3割」テク
・返事や相づちの引き出しが豊富
・「なるはや」「お手すきの時に」など曖昧ワードを使わない
・言いづらいことはクッション言葉で
など65のコミュニケーション術を実例とともに紹介!
著/大野萌子
発行/小学館
定価/1430円(税込)
https://www.shogakukan.co.jp/books/09311523
取材・文/DIME編集部