2021年10月、パナソニックから国内市場で初めてダストボックスをスティック本体からセパレートをさせ、充電台に内蔵した「MC-NS10K」が発売された。リビングに設置しても違和感がない洗練されたデザインを採用し、思い立った時にサッと掃除ができる手軽さも同商品の特徴だ。
発売から想定の1.5〜2倍以上を売り上げ、一時は店頭から姿を消すほどの大ヒット商品の開発を担当した、パナソニック株式会社ランドリークリーナー事業部 国内マーケティング部 川合悠加さんに開発に至った経緯や開発秘話、今後の展望についてお話を伺った。
*本稿はインタビューから一部の内容を要約、抜粋したものです。全内容はVoicyから聴くことができます。
Voicy連動企画 DIMEヒット商品総研 vol.4「セパレート型コードレススティック掃除機 MC-NS10K」
ユーザーの掃除スタイルの変化が誕生のきっかけ
パナソニック株式会社ランドリークリーナー事業部 国内マーケティング部 川合悠加さん
スティック型掃除機は従来、スティック本体のダストボックスにゴミが溜まり、定期的にそれを交換する必要があった。「MC-NS10K」は、充電台(以下、クリーンドック)に掃除機を戻すと自動でスティック側に一時的に溜まったゴミを収集してくれる。ドッククリーナー側のゴミ捨て頻度は、1か月から1か月半ほど。紙パックの交換時も、ゴミが舞うこともなく簡単に捨てられる。
「今までのサイクロン式のスティック掃除機をお使いの方だと、『ゴミを捨てる際に埃や塵が舞うのが嫌だ』という方が多くいらっしゃいました。この商品は、ドッククリーナーの紙パックを捨てるだけなので、清潔という意味でも評価していただいています。スリムな形状で掃除機の出し入れの仕方にもポイントがあります。スティックをドックからそのまま引いていただくと、すぐに掃除が開始でき、収納と充電する時もこのスティック掃除機をそのまま前に滑らせて充電台にセットするだけです。掃除のまりから終わりまで楽にできる掃除機という点で、今までの掃除スタイルを変えられる商品じゃないかなと思っています」。
この商品の開発背景には、掃除回数や時間などユーザーの「掃除スタイルの変化」があったと、川合さんは話す。
「背景としては、お客様の掃除スタイルが変化している点があります。自社でも継続的にお客様の掃除行動の調査をしていますが、一度に家中しっかりお掃除をされるというよりも、ゴミに気付いた時にサッと掃除をされる方が増えているというのが分かったんです。最近だとコロナの影響から在宅時間も増え、ゴミがより目に付くようになったことにも着目しました」
掃除の時間が想像以上に短いことから、本体の稼働時間は最長15分程度に設定。さらに、調査を行ない、ユーザーの声からスティック掃除機に関する不満やストレスを拾い上げていったという。
「今使っているスティック掃除機で何か不便なこと、もっとこうだったらいいなと思っていることはないかを調査しました。掃除中は、吸引力や重さ、操作性など掃除機をかけている間だけのことにどうしても目が行きがちですが、掃除をもっと広く捉えた時に、意外なところのストレスが大きいことがわかりました。それが掃除の前後、特にストレスが大きいのがゴミ捨て時だとわかったんです。あとは掃除機のメンテナンスの部分もすごくストレスが大きいというのもあり、そこをもっと良いものにできないかと、このセパレートのかたちに行き着きました」
デザイン部門からのアイデアで商品開発がスタート
同製品の特徴の一つに、部屋に馴染む、洗練されたデザインが挙げられる。実は「MC-NS10K」はデザイン部門の社員のアイデアがきっかけで開発がスタートしたという。
「この商品は、デザイン部門の社員のアイデアがきっかけで生まれたものでした。通常の商品企画と並行して、デザイン部門で未来のライフスタイルを先行提案する機会があり、そのアイデアの一つにあったものだったんです。デザイン部門で『どうやったらより使いやすい掃除機になるか』『掃除が面倒だなといった思いにまでアプローチできる掃除機ってどういう姿になるんだろう?』と日々考えている中で、ホウキみたいに細い棒状で、気軽に使えるような掃除機があったらいいなと行きつきました」
ホウキのような形状の掃除機の発想に至ったものの、ダストボックスやモーターを構造的にどのように配置するのか、メンバーはその壁にぶつかった。
「希望が見えたのが、ある社員の一人が自宅で猫を飼っていまして、その方が『ゴミを捨てる時に、猫の毛とかが舞い散るのがすごく嫌だ』と言っていて、じゃあ『ダストボックスを充電台の方に持っていけたら、自分でゴミ捨てをする必要がなくなるし、いいんじゃないの?』というアイデアがポッと出てきていたんです。それがきっかけでダストボックスを本体から分離して、スティック掃除機の方は1本の棒のようなかたちにする試作機を作り、それが今の「MC-NS10K」の原型になりました」
社内では、『発想は面白いけど実現できるのか』といった声が上がる中、ユーザーの掃除における課題を解決したいとの強い思いから試行錯誤を重ね、商品開発のプロセスを進めていく。
「社内でもいろいろな声が上がったんですが、やはり『世の中に良い商品を届けたい』と思いは皆同じく持っているので、企画部門や技術部門も加わって、何度も試作を重ねました。モノを作るのと並行して商品コンセプトの根幹、お客様の掃除スタイルの変化や、今のお困りごとも踏まえて『掃除の一連の流れをストレスフリーにする』ということを、大きな軸として設定をしたんです」
さらに、マーケティング担当の川合さんにとって、まったく新しい商品となった「MC-NS10K」を、今までのスティック掃除機との違いをより魅力的に伝えていく過程で頭を悩ませたという。
「これまで世の中になかった構造をどうやってお客様に理解していただくか、技術的な面を含めセパレートがどういう構造になっているか、それによってお客様にどういうメリットがあるかを伝えるのが一番重要な部分でした。掃除をそれぞれの工程に分けて、それぞれが今までのスティック掃除機とどう変わったか、どう違うか、どんな点が楽になったかを丁寧に伝えることを意識したんです。動画やカタログ、店頭で使用するツールを検討するところで、各所と連携をしながら頭を悩ませて進めたところでしたね」
クリーンドックへのゴミの移送は「釣り」からヒントを得る
開発においてもっとも苦労した部分は、スリム形状を維持するための部品の小型化、配置だったと川合さんは振り返る。
「スティック本体側は、スリムな一本の棒のような形に仕上げるのに一番苦労をしました。モーターをはじめとするすべての部品を小型化する必要があるんですが、ただ小さくするとパワーなどの性能がどうしても下がってしまうんです。性能をしっかりと維持しながら極限まで部品を小型化して、それぞれの部品の配置も無駄なスペースがないように何度も組み直し、最終的にこのスリムなかたちに収めるのにとても苦労しました」
全体的に小型化・軽量化が求められる中で、従来の掃除機にも採用していた技術にも改良が必要だったという。
「ヘッド部分も、本体に合わせて小型化・軽量化しています。これは前のモデルからも搭載をしていたんですが、髪の毛やペットの毛もほとんど絡まない『からまないブラシ』を搭載していますが、それを小型化するとゴミ取り性能も変わるため、その検証も一からしっかり行なって、コンパクトな形状を実現しながらも、ゴミをしっかり吸う吸引力の両立に力を入れました」
さらに従来の掃除機では、ダストボックスの上の方にギザギザした形状のプリーツフィルターを採用しているケースも多いが、「MC-NS10K」では「コップを逆さにしたような形状のフィルター」を採用したという。
さらに、ゴミをクリーンドックに移す際にも、本体にゴミを残さないための工夫があると川合さんは続ける。
「プリーツフィルターのギザギザの形状は、表面積を大きくして吸引力を高めているんですが、今回の商品でスティック側にそのフィルターを使ってしまうと、ギザギザの間にゴミが溜まり詰まりやすく、紙パックに移送しきれない問題がありました。フィルターの表面積を確保しながら、ゴミをしっかりとクリーンドッグが吸いやすいような形状にするためにさまざまな検討をして、最終的にはスティック本体側に『コップを逆さまにしたようなフィルター』を採用したんです。これが、ゴミを残さないために施した工夫の一つです。
当初は『クリーンドッグ側で強い力で引っ張ればスティック側からゴミを収集できるんじゃないか?』という発想でした。ただ、どれだけ強い力で吸引し続けても残ってしまうゴミがあったんです。そこで思いついたのが、一度クリーンドッグ側の吸引力を少し下げて、引っかかったゴミを緩めるようなイメージで『緩急をつける』という方法です。最初に強い力でしっかりと大体のゴミを吸引し、一度吸引力を下げて引っかかったゴミを緩める。そして最後に緩めたゴミをもう一回強い力で吸い込みます。この絶妙なバランスを、これも色んなパターンを作って検証しました」。
この緩急をつけて本体のゴミを吸い出す発想は、「釣りの根がかり」からヒントを得たという。
「釣りをされる方だとイメージつくかもしれないんですが、釣り針がどこかに引っかかってしまう根がかりが起こった時、ただ強い力で引っ張るのではなく、ちょっとゆすってあげて引っかかりを取りますよね。そこから発想して、この解決策に行き着いたと開発者から聞いています」。
発売から2か月で計画の1.5〜2倍を販売
数々の改良を重ね、ようやく商品化した「MC-NS10K」は、想定を大きく上回る販売台数を達成した。
「本当にまったく新しい商品だったので、発売前は社内でも期待の声と不安の声がありました。蓋を開けてみると、本当にたくさんのお客様に『掃除の始まりから終わりまで楽にする』というコンセプトをしっかりと受け入れていただいて、数字的なところで言うと、発売から2ヶ月で計画をしていた大体1.5倍から2倍ぐらいの販売台数を獲得できたんです。それもあって、去年の年末からしばらく店頭では品薄状態になってしまって、ご迷惑をおかけしたんですけれども、現在は品薄も解消しておりますので、すぐに手に取っていただけます」
ヒット商品となった「MC-NS10K」のユーザーからは、次のような評価の声が上がっているという。
「『ゴミを見つけたら後回しにせずにすぐに掃除するようになった』『掃除機をかける頻度が増えた』『自分だけじゃなくて、家族も掃除してくれるようになった』といったお声をいただいています。セパレート掃除機を使用することで、掃除に対する行動が変わった方がたくさんいらっしゃるのは、私たちとしてもとても嬉しく思っています」
最後に、この商品開発に携わったこと得られたものについて、川合さんは次のように話す。
「先々の予想がつきづらい中で、新しいものに対し、不安の声や反対意見が出やすいのは、自分自身も身を持って体感しました。『どうしてもそことそこは両立できないよ』『言っていることは分かるけどできない』とか、ぶつかることもあったんです。でも、これだけのヒット商品になったのは、ちゃんとぶつかり合いながらそれでもそれぞれの立場で意見を出し合って、本当にみんなで諦めずにやった結果かなと思っています。この商品の開発を通して沢山のことを学び、変化を恐れずにお客様に驚きや感動を与えられる商品を今後も作っていきたいなという思いが一層強まりました」
セパレート型コードレススティック掃除機 MC-NS10K 公式サイト
取材・文/久我裕紀