前回、発信するコンテンツをあえて特化されることで、競争の激しいVTuber業界での生き残りと確固たる立ち位置の確保に成功したVTuberの由宇霧さんから、彼女の「生き残り戦略」についてお話を伺った。
今回は、前回に引き続きVTuberの由宇霧(ゆうぎり)さんにインタビューを行い、「企業に所属して活動すること」と「個人で活動すること」の違いや、活動を継続する上で必要なマインドの他、活動4年を迎えた今だから話せることなどを掘り下げていく。
由宇霧さん
現役バーチャル花魁、作家、元風俗嬢
2018年8月に事務所所属の企業勢Vtuber「バーチャル花魁由宇霧(ゆうぎり)」としてデビュー。
その後、事務所の解散に伴い、個人勢Vtuberとして活動を開始。自身の失敗談と共に性知識を伝える「しくじり性教育」をテーマに正しい性知識を広める活動を行なっている。
2022年8月現在YouTubeチャンネル登録者数は23万人を誇り、現役医師とのコラボや著書の出版も行うなど活動の幅はYouTubeだけに止まらない。
Twitter
YouTube(しくじり性教育チャンネルの由宇霧)
著書
2020年3月31日 笠倉出版社
「花魁Vtuber由宇霧 みんなで学ぶ性教育」
2022年5月13日 渋谷六花社
「花魁Vtuber由宇霧が教えるセックスで気持ちよくなる御作法」
企業所属か、フリーでの活動か。やりたいことを続けるための選択とは?
——由宇霧さんの場合は、事務所の解散によって「企業所属のVTuber」から個人でフリーに活動する「個人勢VTuber」になったわけですよね? これって、一般社会でいうならば「会社が倒産したのでサラリーマンからフリーランスなった」に近い気もするんですけども、結構大変だったんじゃないですか??
由宇霧:そうそう! でも、自分1人の今の方が案外楽だったりするんですよ!
——そうなんですね!? でも、企業がバックについている方が色々と楽な気もすますが、具体的に「個人勢VTuber」の良いところってなにがありますか?
由宇霧:やっぱり、活動の全てを自由に選択できる点が「個人勢VTuber」の1番の良いところかな。もちろん選択には責任も伴うけど、「個人勢VTuber」になって収益よりもやりたいことができているかどうかが、自分の活動のモチベーションになっていることに気づけたし、活動の幅も広がった気がします。
——「企業勢VTuber」から「個人勢VTuber」になってからも、自身の活動の幅が広がっているのは本当にすごいことだと思います。普通は迷走してしまうので…。
由宇霧:自分らしい活動を続けることに集中したおかげかな。今は応援してくれる視聴者による支援もあって、自分らしさを突き詰める活動にたくさん投資できるようになったので、活動の満足度は本当に高いです。動画に広告がつかないこととかあまり気にならなくなりました(笑)
——なんとなく今までお話ししていて、由宇霧さんは良い意味でお金に対する執着がないように見えますね。
由宇霧:うーーん。本当にぶっちゃけるけど、世の中、お金を稼ぐことが良いことと思いがち。でも、VTuberになってその考えを自分に当てはめた時に、それで良いのか感じることも多くなったんですよ。
——活動を続ける中で、お金を稼ぐことに対する意識が変わったんですね。たしかに、お金に囚われてしまうと精神も疲弊してしまいますよね。
由宇霧:お金が増えると責任も増えていくし、お金があることで何かに囚われてしまうこともある気がして…正直、今思えば収益の増えた去年(2021年度)が一番辛かったかもしれない。でも、今は囚われていた自分に気づくことができて、めちゃくちゃ楽になった。賢者タイムなのかも(笑)
——その考えは僕も見習わないといけないかもしれないです。
由宇霧:そのうち、同じ道を通るから大丈夫(笑)。一回がむしゃらにお金にコミットした結果、無理して沢山のお金を稼ぐより使うお金を減らすほうが楽なのではないかと思うようになりましたね。それを実践するために今は、とても小商い的なビジネスモデルを採用して、本当に自分のやりたいことをのびのび続けています。
——また個人的に色々と相談させてください(笑)
最前線で戦い続けた中で見つけた「本当に大切なもの」
——それじゃ今度は、由宇霧さんが特に力を入れて取り組んでいることについて伺いたいのですが、何かありますか?
由宇霧:今は「特化Vの会」というコミュニティの立ち上げに力を注いでいます。
——最近話題になっていましたよね。なんでコミュニティを立ち上げようと?
由宇霧:きっかけは、わっち自身が活動当初に感じていた孤独感やVTuberといえば「ゲーム、歌、雑談」といったステレオタイプ的な世間の認識を、仲間と一緒に打ち破りたいと思って、他のVtubeさんに話したことがきっかけでした。
——うわぁぁぁー、ステレオタイプを打ち破りたいっていうのはめちゃくちゃわかります! でも、どうして打ち破るのにコミュニティが必要になるのですか?
由宇霧:新規視聴者の視界に入るためと、特化VTuberが活動継続できる環境を作るためですね。これまでわっちが活動を続けていく中で、VTuberのメインストリームから外れた活動を行う人たちが自信を持って「VTuber」と名乗ることのできるコミュニティの存在って改めて重要だなと感じて、いろいろな情報の共有だったり、普通ならば交わることのない活動者同士の交流によって生み出される新しいバリューが創造されたらいいな……って。今はそれを目指しています!
——たしか、ニコニコ動画で「特化勢VTuberニコ動一斉動画投稿祭(7月1日から7月31日まで)」を実施して、早速ニコニコ生放送の公式放送に取り上げられていたりしていましたよね?
由宇霧:そうそうっ、本当にすごく盛り上がりました!まだ道半ばという感じですけども、徐々に認知も広がってきているので焦らず、活動は続けていきたいと思っています!
——本当に尊敬しています。著書の出版だけじゃなくて、コミュニティ作りまで…これからさらに活動の幅が広がりそうですね。
由宇霧:不可能はないと思うので、どんどん挑戦していきたいと思っていますっ!
——それでは、ここで改めて自身の4年間の活動を振り返ってもらって、これからネットで何かしらの活動をしようと考えている人にアドバイスをお願いします。
由宇霧:はいっ!すごく真面目な話をすると、情報やトレンドの消費スピードが速いインターネットですが短い時間で結果を出そうとしなくて良いと思います。色んなやり方を試して自分の課題に取り組んでおかないとチャンスが訪れても掴めません。だから数字のような表面だけを他人と比べる必要はありません。あと、良いことをしても良い結果を生むとは限らないってこと、いくら稼ぐ!を考えるのではなく、稼いだ分をいかに社会に使うかを考えて欲しい…こんな感じでいい?
——完璧です!やっぱり懐の豊かさだけじゃなくて、心の余裕も大切なんですね。たしかに、そこのバランスが崩れてしまって、成功しているはずなのに心を病んで引退していく人も少なからずいますよね。もったないと思うことも多いです。
由宇霧:VTuberに限っていえば、歴史はまだ始まったばかり。ここからいくらでも新しい価値を発明していくことはできると思うし、その上で自分たちのコミュニティや価値を新しく創造するくらいの明確な目標と強い意志が必要だと思います!
——なるほど。4年間も試行錯誤を繰り返して挑戦を続けてきた由宇霧さんならではの非常に強い説得力のある言葉だと思います。では最後に、由宇霧さんに今後の活動の展望や読者へのメッセージをお願いします
由宇霧:今後も日々変わるこの世界を楽しみながら生き続けたいです。いつの日か、由宇霧デザインのコンドームが全国のドラッグストアで販売されるような花魁になります!性のことで悩んだときは、ぜひ由宇霧ちゃんねるに遊びにきてくださいね!
——ここまで本当にありがとうございました!
由宇霧:ありがとうございました!
取材を終えた後の由宇霧さん
経験に裏付けされた的確なアドバイスは、今日も性の困り事を抱えた人の道標となっている
取材後記
今回話を聞いていると、由宇霧さんの躍進の秘訣は、「エロ」を前に出したコンテンツの強さや活動の独自性だけではなく、前向きに挑戦を続ける由宇霧さんの胆力と、周囲を巻き込むことができる素敵な人柄によるところも大きいのだろうという確信を得ることができた。
どこまでも明るく、たまのお茶目さで多くの人を魅了し続ける姿は、まさに混沌としたネット社会に降り立った花魁そのものであり、どんな困難にも怯まず挑戦し、新たな道を切り拓き続ける由宇霧さんの今後の活躍には、益々目が離せない。
文/犯罪学教室のかなえ先生
2020年9月にデビューした、元少年院教官のVTuber。登録者3.53万人(2022年9月時点)。親しみやすい関西弁と幅広い学術領域を横断した事件解説が持ち味。特に、多くの犯罪者と関わってきた本人の目線から語られる事件解説は、その背景にある人間の弱さや社会問題への理解度が深まると定評がある。
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