家事は「めんどくさい」と思いがちな作業のひとつ
先般、書籍『「めんどくさい」が消える脳の使い方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を上梓した、作業療法士の菅原洋平さん。本記事の前編では、本書をもとに仕事にまつわる「めんどくさい」の処方箋を紹介した。後編では、仕事以上にめんどくさくなりがちな、家事の「めんどくさい」克服法を取り上げよう。
■あえて「10分以上はやらない」
人によっては、めんどくさい家事の筆頭に上がるかもしれない「掃除」。菅原さんによれば、これをめんどくさくしなくなるためのルールは1つだけ―それは「10分間の掃除時間」だ。肝心なのは、「どれだけ掃除がはかどっても、10分以上はやらない」ことだという。
気合を入れ、時間をかけてとことんやることの何が問題なのだろうか?菅原さんは、次のように説明する。
“作業の量やスピードを重視するのは、交感神経系を前面に出した設定です。高いエネルギーが発揮されますが、消耗が激しく長続きしません。エネルギーがなくなると、めんどくさいが発生します。”
その逆に、「10分」とお尻の時間を決めるのは、腹側迷走神経系を前面に出した設定になるという。時間が来たら終了と決めたら、「エネルギーは最適化される」というメリットがあるそうだ。
そういえば、リモートワーカー初心者の問題として、夜遅くまで際限なく仕事をしてしまうというのがある。こうなる一因は、決めた分量の仕事の達成をもって終業と決めてしまうから。
その対策として、分量ではなく、「この時間になったら自動的に終業」と決めるのがいいと聞いたことがある。菅原さんの「10分間の掃除時間」ルールの考え方は、リモートワークの仕事にも応用できそうだ。
■片づけはカテゴリごとに「照準を絞る」
つづいて「片づけ」。いろいろなモノが散らかる部屋の片づけは、実にめんどくさいと感じることがある。
しかし、これもコツをつかむことで、楽になる。菅原さんによれば、脳には3つの注意機能があるという。
・ボトムアップ注意:目立つものに注意を向ける。反射的で素早く反応できる。
・トップダウン注意:自らの意図で注意を向ける。目的に持続的に注意できる。
・注意の構え:目的を達成するために予測する。注意の向け方を決める。
片づけの作業をするときも、こうした注意機能が発動する。例えば、ボトムアップ注意が働きすぎると、靴下を探し集めているつもりが、別の落ちているものや汚れに、目がいってしまう。
おまけに、「靴下をとらえたときにぐっと心拍数が高まるのでイラッとする」リスクもある。これが続くと消耗して、めんどくさくなる。
なので、片づけは「カテゴリごとに照準を絞って片付ける」のが基本。靴下なら靴下に照準を合わせ、その片づけが終わったら、別のアイテムに照準を合わせる。こうすることで、作業に無関係なものに注意を奪われず、エネルギーの消耗も抑えられる。
■修理道具をそばに置くだけ
家具の取っ手が外れたり、家電の部品が取れたりといった、専門業者を呼ぶまでもない軽微なトラブル。ちょっとの作業で直るものなのに、それがめんどうに感じてしまう…
解決法は簡単。「まずは修理道具をそばに置く」―これだけで、あなたは作業を始めたくなる。これは脳の習性を生かした、めんどくさいの解消法。菅原さんは、次のように説明をくわえる。
“私たちの手は、物を取ろうとするとき、まだ触ってもいないのに、その物を扱う手の形になっています。これはプレシェーピングという脳の予測機能です。もし壊れた取っ手とそれを直す道具が置いてあったらどうするでしょうか。あなたは無意識に道具を手にして取っ手を直すでしょう。”
このメカニズムには、脳の前頭葉が関わっている。前頭葉が損傷した人の中には、道具を見た瞬間に、手を伸ばして使用してしまう現象が起こることがあるという。
つまり、正常な前頭葉には、道具を見てもあえて使わないという選択肢を保持する機能がある。道具を見ても何もしないことには、脳のエネルギーが使われるので、むしろ道具を使ったほうがラクなこともある。だから、壊れたモノのそばに修理道具を置くと、めんどうがらずに修理を始めやすくなるわけ。
従来はめんどくさがりの克服法として、「モチベーションをアップする」といった、気合頼みの方法が多かったように思う。対して、菅原さんのメソッドは、脳の機能を活用、あるいは逆手に取ったもので、説得性があるし新鮮味もある。どの方法もシンプルなものなので、めんどくさがりを自認する方は、今日からでもトライしてみてはいかがだろうか。
菅原洋平さん プロフィール
作業療法士。ユークロニア株式会社代表。アクティブスリープ指導士養成講座主宰。1978年、青森県生まれ。国際医療福祉大学を卒業後、作業療法士の免許を取得。国立病院機構にて脳のリハビリテーションに従事したのち、現在は、ビジネスパーソンのメンタルケアを専門に行うベスリクリニックで、薬に頼らない睡眠外来を担当するかたわら、生体リズムや脳の仕組みを活用した企業研修を全国で行う。著書に、ベストセラーとなった『あなたの人生を変える睡眠の法則』(自由国民社)や『すぐやる! 行動力を高める科学的な方法』(文響社)など多数。
文/鈴木拓也(フリーライター)