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5分でわかるシダックスの内紛とオイシックスの株式取得が混乱している理由

2022.09.19

2022915日、外食企業大手コロワイドがシダックスのフード事業に関する提案を取り下げたと発表しました。これにより、オイシックス・ラ・大地によるシダックスの株式の取得が一歩前進したことになります。

オイシックスのシダックスに対するTOB(公開買付)、シダックス経営陣のTOBの反対表明、創業家とそれ以外の経営陣の対立。連日のようにシダックス関連のニュースが世間を賑わせていますが、今一つ「何が問題」で「何をもめている」のかがわかりづらい印象があります。

一体、何が起こっているのでしょうか?

交錯する利害関係者それぞれの思惑

起こっていること自体は複雑ではありません。

オイシックスがTOBでシダックスの株式27.02%1541円で取得しようとしました。TOBは成立するかに見えましたが、創業家以外のシダックスの役員が、このTOBは創業家とオイシックスが勝手に進めたものであり、買付価格も安すぎると反発したのです。

話をややこしくしているのは、オイシックスが市場から株式を買い集めるTOBという形態をとりながら、創業家云々という一見TOBとは関係ない人たちが出てくる点。

今回のTOBには複数の利害関係者が絡んでいます。その関係者を理解すると、全体像が把握できます。関係しているのは以下4つのグループです。

1.シダックス創業家
2.シダックス創業家(と利害関係者)以外の役員
3.投資ファンドのユニゾン・キャピタル
4.オイシックス

一番のカギを握っているのが、ユニゾン・キャピタルです。

ユニゾン・キャピタルは、かつてスシローに出資をして巨大企業に育て上げた実績を持つ名の知れた投資ファンド。2019年5月にシダックスに65億円を出資しました。ここが一連の問題の起点になっています。

※「シダックス株式会社ユニゾン・キャピタル株式会社資本業務提携共同記者発表会」より

この出資により、ユニゾン・キャピタルは普通株に転換できるB種優先株と、普通株に転換できないC種優先株を取得しました。オイシックスがTOBで取得しようとしているのは、このB種優先株(普通株に転換すると1,400万株超となって保有比率は27.02%)です。

実はオイシックスが欲しいのは、投資ファンドの保有分のみ。

株式を33.34%以上取得する場合はTOBによる取得が義務付けられていますが、27.02%の取得であれば公開買付をする必要はありません。相対取引(当事者間での取引)で丸く収めることができるのです。

なぜ、TOBで取得するのでしょうか?

少しでも持株を高く売却したい投資ファンド

オイシックスによると、ユニゾン・キャピタルがTOBを行うよう強く要請したとあります。ユニゾン・キャピタルは投資ファンドという性格上、持株をできるだけ高く売却して利益を得たいと考えています。TOBで別の買付候補者が手を上げ、株価が釣りあがることに期待したのではないかと考えられます。

更に話をややこしくしているのは、ユニゾン・キャピタルが保有する株式には創業家との間で株主間契約書が交わされていたこと。契約には、創業者が指定する者に対して売却するよう請求できる「売却請求権」が設定されていました。つまり、創業家が「〇〇に対して株式を売却してほしい」という意向を示した場合、ユニゾン・キャピタルはそれに従う他ないことになります。創業家が売却先として指定したのが、オイシックスでした。

株主間契約書は株主同士が締結するもので、経営上のリスクを排除する目的で交わされます。

シダックスは創業者・志太勤氏らの資産管理会社である志太ホールディングスが29.36%、志太勤氏が代表を務めるシダ・セーフティ・サービスが4.34%、社長の志太勤一氏が3.00%の株式を保有するなど、創業家の支配力が極めて強い会社。ユニゾン・キャピタルが見知らぬ会社に持株を勝手に売却し、第三者に創業家の支配力を脅かされることに警戒したものと考えられます。

12億円を5年で100億円に引き上げる野心的な目標を設定

シダックスの取締役には、志太勤一代表取締役会長兼社長、志太勤取締役最高顧問、柴山慎一取締役専務執行役員、川井真取締役、川﨑達生取締役、堀雅寿取締役の6名がいます。このうち、川﨑達生氏はユニゾン・キャピタルから送り込まれた役員。つまり、オイシックスTOBに関わる利害関係者です。

今回、このTOBに反対している役員は柴山慎一氏、川井真氏、堀雅寿氏の3名。反対の意見表明には監査役3名が異議ないとしています。監査役も異議なしとしていることから、反対の意見表明には合理性があることを示しています。

反対する理由として主に以下の3つを挙げています。

1.TOBが成立すると本来得られる利益を失う恐れがあること
2.TOBが成立すると創業家とオイシックスが大株主になって支配力が強くなりすぎること
3.他にも買収候補者がいること

オイシックスのTOBは、単純に株式を取得するものではありませんでした。シダックスの子会社シダックスフードサービス、シダックスコントラクトフードサービスなど、主力事業を支える子会社を、オイシックスが取得しようとしていたことが明らかになります。

つまり、オイシックスのユニゾン・キャピタルからの株式の取得は見かけ上のものに過ぎず、実質的にはシダックスのフード事業の子会社の取得を目的としたものだというのです。

しかし、オイシックス側は決定している事実はないとこれを否定しています。ただし、オイシックスが、シダックスのフード事業との協業を狙っているのは明らか。オイシックスは2022年3月末時点で700の保育園と提携し、ミールキットなどを提供しています。この事業への期待値は高く、12億円の売上高を5年で100億円にする目標を掲げています。

決算説明資料より

オイシックス単独で達成するのは難しい数字。シダックスは2020年10月に公立学童保育施設の運営受託数が1,000を超えました。子会社の株式の取得はともかくとして、シダックスが運営している施設と提携できれば、オイシックスのミールキットの提供先が瞬時に拡大できます。

創業家も提携先としてオイシックスが相応しいと考えているのでしょう。オイシックスの高島宏平代表は、Twitter上で「22年前、Oisix創業がネットバブル崩壊と重なり資金調達に大変苦労したのですが、その時にご出資して頂いたのがシダックスさんでした。おかげで今があると思ってます。」と発言しています。

創業家と高島氏の繋がりは古く、信頼関係が構築されているものと考えられます。

しかし、創業家以外のシダックス経営陣は、フード事業の子会社の売却が(仮にそれを行うのであれば)、慎重な検討が必要であると訴えています。

つまり、信頼関係をベースとして協業を進めようとする創業家の意向、合理性を勘案して他社の提案も踏まえ慎重に検討すべきとする創業家以外の経営者の意向が拮抗しているのです。

コロワイドは、シダックス子会社の買収提案を水面下で行っていました。その提案は、1563円で売却した場合の金額を大きく上回るものだったといいます。オイシックスの買付額541円の妥当性に疑問符がついたのはこの提案があったため。オイシックスはそれに対し、株主間契約であらかじめ株式の売却価格の算出方法が明確に定められており、それに従ったというスタンスを貫いています。

創業者以外の役員が、ユニゾン・キャピタルの持株売却を勝手に進めていると反発する背景には、このような事情があります。

オイシックスが株式を取得すると役員の解任や事業譲渡が自由にできる?

TOBに反対している経営陣が警戒しているのは、創業家に創業家の息がかかっていると言ってもいいほど親密な関係にあるオイシックスが加わることで、その支配力が増すことです。

TOBへの応募者がユニゾン・キャピタルだけだったとすると、オイシックスは27.02%を保有します。創業者、オイシックスを合わせると保有比率は60.51%。これだけ支配力が強まると、株主総会で普通決議を成立することが可能になります。

また、シダックスの定時株主総会における議決権の行使率は7割程度であることから、2/3の賛成が必要な特別決議を成立することも可能だと抗議しています。

すなわち、TOBが成立すると創業家は役員の選任や解任、事業譲渡の承認、定款の変更など重要事項の決定を、(半ば自由に)行えるようになりかねないのです。創業家以外のシダックス経営陣はそれを何とか阻止しようとしています。しかし、期待をかけていたコロワイドは提案を取り下げると正式に発表しています。

創業家以外の経営陣は、拠り所を一つ失いました。オイシックスはTOB成立に向けて大きく前進したことになります。

取材・文/不破 聡

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