ウクライナ情勢で核シェルターの販売数が増加。気になるシェルターの内部は? そして気になる居心地は?
前編に続き、今回は特別な許可を得て核シェルターの内部を取材させてもらいました。
核シェルターの中はどうなっているのか?
静岡県焼津市。マグロ漁船の水揚げ港として有名な港町の一角にあるのが、核シェルターの販売を行うワールドネットインターナショナルのショールーム。こちらで2つのタイプのシェルターを見せてくれるというのでやってきました。ショールームと言っても、普段は購入を決めたけど、どのタイプを買うか迷っている方にしか公開しないとのことですが、今回は社長のご厚意で特別に見せていただけることになりました。
まず入ってみたのは2人用の一般型タイプ。
高さは1.8m(内部の高さは1.7m)。4畳半の部屋でも入るサイズだが、部屋の半分以上をシェルターが占めてしまうため、6〜8畳の部屋に設置して、余ったスペースを収納スペースに活用するのがよさそうな感じだ。
室内にはバッテリーで動くエアコンやモニター、さらに電源を完備。季節に関係なく快適に過ごすことができる。また、スマホと充電器を持ち込めば時間の計測も可能だ。
シートの上にはイスラエル製のフィルターが取り付けられ、外気から化学兵器や生物兵器の毒素や放射性物質などをろ過した安全な空気が入る仕組みになっている。
広さはこんな感じ。フィルターが真ん中にあって少々邪魔な感じがするが、核ミサイルが落とされた後の世界と考えると、贅沢は言ってられない。
床の広さは、1人だと広々、2人だと少々狭いという感じ。マットが敷かれているので、起きた時に体の節々が痛いということはないだろう。
ただ、2人で過ごすとなるとこのスペースに14日分の食糧、水を保管しなければならないので少々手狭になるだろう。
トイレもないので簡易トイレの準備は必須。もし準備を怠ると、シェルター内の床に出さなければならず、扉を開けて外に排泄物を捨てることが出来ないので大変なことに……。
続いて入ったのは2人用の車椅子対応タイプ。
車椅子でも1分以内にスムーズに入れるよう、シェルターの入口の床は電動で上下するようになっている。避難は一刻を争うので、車椅子の方がシェルターにスムーズに入れるよう、普段から床は下の写真のように上にセットおいた方がいいだろう。
室内には一般型と同じくエアコン、モニター、電源を装備。付き添いの人用の小型の腰掛けもある。
広さはこんな感じ。床面積は一般型より広めなので、8畳ぐらいの部屋に設置するのがよさそうだ。床は車椅子の人が動きやすいよう、硬くなっているので。床で寝るのは一般型より難儀しそう。天井は一般型より若干低め。
中に入ってみた素直な感想は、正直どちらもきついです。この中で14日間過ごすとなると、考えただけで恐ろしい。簡易トイレには仕切りがあるとはいえニオイを完全に断ち切れることは出来ないしシャワーもないので、1人で過ごす方が気楽だとは思いましたが、核ミサイルが落ちて、外にいる人間がすべて死んでしまった世界を想像すると、誰かがいた方が精神的に落ち着けそうです。
快適に過ごすのは難しそうだが命を守る最後の砦に
再び、代表取締役の中嶋氏に話を聞いた。
――あのスペースで14日間過ごすのは大変ですね。
「核シェルターは命を守るための最後の手段。空襲から身を守る時の防空壕と同じで、命だけは守ろうというもの。快適に過ごすための場所ではないということです。これでも海外のシェルターと比べると過ごしやすいと思います」
――部屋も1人で使うのにはいいですが、2人だと少々手狭ですね。
「シェルターの広さは、いろいろカスタマイズできますので、広くすることも、ご予算に合わせて狭くすることも可能です。最大で20〜50名入れるものまで製造できます」
――ところで、なぜこちらの会社では核シェルターの製造を始めたのですか?
「うちの会社は高酸素ルームや低酸素ルームを作る会社ですが、東日本大震災を機に地震や水害に備えるためのシェルターを作る防災事業部門を立ち上げました。そこからイスラエルのメーカーさんと繋がりができて、核シェルターも作ろうということになりました」
――高酸素ルームや低酸素ルームの密閉する部屋を作る技術が生かされているのですね。
「そうです。ですから、核シェルターもオプションパーツの取り付けが必要になりますが、普段は高酸素ルームや低酸素ルームとして使うこともできます」
ウクライナの件で関心が高まっている核シェルター。だが、自宅に使っていない部屋がある、1000万円ほどの設置費用ぐらい余裕で出せる、という条件を考えると日本でアメリカやイギリスのレベルの普及率になることはないだろう。
ただ、都内のタワーマンションを購入するような層にとっては、買えなくもない価格なので、もしかしたら近い将来、住民専用のスポーツジムがあるタワーマンションのように、全世帯核シェルター付きのタワーマンションが登場するなんてことがあるかもしれない。
取材協力/ワールドネットインターナショナル(リスクマネジメント事業)
取材・文・撮影/渡辺雅史