店舗の駐車場は、来店する客のために設けられたものです。来店しないにもかかわらず、店舗の駐車場へ無断駐車する人が現れると、車で来た客が駐車できず、諦めて帰ってしまう事態になりかねません。
特に、近隣でイベントが開催された際などには、無断駐車によって店舗が深刻な被害を受けてしまうことも想定されます。
他人の駐車場に無断で車を停めることは「不法行為」であり、被害者は加害者に対して損害賠償を請求できます。
今回は、無断駐車に関する損害賠償請求の方法などをまとめました。
1. 無断駐車は「不法行為」
他人の駐車場に無断で車を停めることは、民法上の「不法行為」に該当します。
1-1. 不法行為は損害賠償請求の対象
不法行為とは、故意または過失により、他人に対して違法に損害を加える行為です(民法709条)。不法行為をした者は、被害者に生じた損害を賠償しなければなりません。
無断駐車は、権利者の承諾を得ていないにもかかわらず、故意に駐車場を不法占有する違法行為です。また、駐車場が不法占有されることにより、権利者にはその駐車場を使えなくなるという損害が発生します。
したがって、無断駐車は不法行為に該当し、加害者は被害者に対して損害賠償責任を負います。
1-2. 無断駐車の車両を勝手に移動することはできない
無断駐車は不法行為(違法行為)ですが、被害者が無断駐車の車両を勝手に移動することはできません。法律によって「自力救済」が禁止されており、無断駐車の車両を移動するには「強制執行」の手続きによる必要があるからです。
もし勝手に無断駐車の車両を移動してしまうと、犯罪や不法行為の責任を問われるおそれがあるので気を付けましょう。
無断駐車の車両を移動してはいけない理由などについては、以下の記事を併せてご参照ください。
参考:自分の駐車場に無断で他人の車が駐車していたら、どう対処したらいい?|@DIME
2. 無断駐車に関する損害賠償の金額は?
無断駐車について認められる損害賠償の金額は、被害者に生じた実際の損害額となります。
「罰金3万円を申し受けます」といった内容の看板・張り紙などを掲出している店舗もありますが、このような警告は法的な有効性に疑義があるのでご注意ください。
2-1. 使用料相当額・店舗の売上減少分などは損害賠償の対象
駐車場の使用料相当額は、無断駐車に関する損害賠償として認められやすいでしょう。
使用料相当額(目安)=周辺地域の使用料単価(日単位or時間単位)×無断駐車の期間
たとえば、周辺のコインパーキングでは1時間当たり400円程度の使用料が設定されている地域において、店舗の駐車場に丸3日間(72時間)無断駐車が行われたとします。
この場合、使用料相当額として2万8,800円(=400円×72時間)程度の損害賠償が認められる可能性が高いでしょう。
また、店舗の駐車場が埋まっていたために、一部の客が来店を差し控えた場合には、売上の減少分について損害賠償を請求することも可能です。
ただしこの場合は、無断駐車によって駐車場が埋まっていたことと、客が来店しなかったことの間で、因果関係を立証できるかどうかがポイントになるでしょう。
2-2. 「罰金3万円を申し受けます」…このような警告は有効?
「無断駐車を発見した場合は、罰金3万円を申し受けます」
このような警告が、駐車場の看板や張り紙に掲出されているのを見たことのある人も多いかと思います。
しかし、駐車場の管理者が一方的に罰金(違約金)を定めた警告については、無断駐車の加害者に対する法的拘束力が認められないケースが多いと考えられます。
駐車場の管理者と無断駐車の加害者の間には、契約関係(=取引の合意)がないからです。
無断駐車の損害賠償は、あくまでも被害者に生じた実損害の範囲で認められるものと理解しておきましょう。
3. 無断駐車をした人に対して損害賠償を請求するには?
無断駐車の加害者に対して損害賠償を請求する場合は、以下の流れで対応しましょう。
3-1. 無断駐車の車両を撮影する
まずは、無断駐車の証拠を確保することが大切です。
ナンバープレートを含めて全体が写る形で、無断駐車の車両を撮影しましょう。その際、無断駐車されている場所がわかるように、店舗の建物などが入るような構図を選択することをお勧めいたします。
なお、損害賠償請求に当たっては、無断駐車の期間を立証することも重要になります。そのため、無断駐車の車両の撮影は、できる限り毎日行いましょう。
もちろん写真の代わりに、防犯カメラ映像などを記録・保存することでも構いません。
3-2. 車のナンバーから加害者を特定する
無断駐車の車両については、ナンバー(自動車登録番号)がわかれば、運輸局に対して登録事項等証明書の交付を請求できます。
登録事項等証明書には、車の所有者等に関する情報が記載されていますので、その内容を確認すれば加害者の特定に繋がるでしょう。
なお、登録事項等証明書の交付を請求する際には、無断駐車の状況に関する書類の提出が必要になりますので、運輸局の窓口の案内に従ってください。
3-3. 損害賠償請求を行う|内容証明郵便・支払督促・訴訟
無断駐車の証拠を確保し、さらに加害者も特定できたら、実際に損害賠償を請求しましょう。
無断駐車に関する損害賠償請求の主な方法は、以下のとおりです。
①内容証明郵便の送付
郵便局が日時・差出人・受取人・内容を証明する郵便を送付して、正式に損害賠償請求を行います。損害賠償請求権の消滅時効の完成を、6か月間猶予する効果があります。
和解交渉の提案や、法的手続きへ移行する直前の最後通告として送付されるケースが多いです。
②支払督促
裁判所に申立てを行い、損害賠償の支払いを督促してもらいます。
支払督促の送達から2週間以内に異議申立てがなければ、仮執行宣言付支払督促を申し立てたうえで、強制執行の手続きをとることができます。
参考:支払督促|裁判所
③訴訟
裁判所の法廷において、損害賠償請求権の存否・金額を争います。
通常の訴訟は長期化するケースも多いですが、請求額が60万円以下であれば、原則として審理が1日で終結する「少額訴訟」も利用可能です。
参考:少額訴訟|裁判所
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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