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バドミントン日本代表からビジネスの世界へ!池田信太郎が切り開いた全く別ジャンルでのセカンドキャリア

2022.09.02

池田信太郎が切り開いた唯一無二のセカンドキャリア

五輪選手からビジネスの世界へ華麗な転身を遂げた池田信太郎氏(本人提供)

 サッカー日本代表として活躍しながら、サッカースクール経営や俳優・ウィル・スミスとともに投資ファンド「ドリーマーズ・ファンド」を設立に乗り出した本田圭佑、2004年アテネ・2008年北京五輪で水泳平泳ぎで連続金メダルを獲得し、引退後は株式会社IMPRINT(インプリント)」の代表取締役社長に就任した北島康介など、昨今はトップアスリートのビジネス参入が目立つ。ただ、本田にしても、北島にしても、自身が取り組んできた競技をベースに事業を展開している。

 しかしながら、競技生活とは全く関係ない別ジャンルで新たなキャリアを築いている人物も一方にいる。その筆頭と言えるのが、北京・2012年ロンドンの両五輪に出場したバドミントン代表で、現在は外資系コミニケーションエージェンシー会社のコンサルタントに転身している池田信太郎である。

 福岡県出身の池田は、父親がコーチだったこともあり、8歳からバドミントンを始め、九州国際大学付属高校を経て、筑波大学に進学。当時から高度なテクニックを備えた逸材として知られていた。だが、なかなか結果が出ず、大学4年の大学選手権で2位が最高成績だったというが、遅咲きの彼は日本ユニシス(現BIPROGY)時代に才能を大きく開花させる。外国人コーチに指示し、フィジカル面を強化した結果、2004年に代表入り。2007年世界選手権で日本人男子ダブルス初のメダル獲得を経て、2008年北京五輪を果たす。そして潮田玲子とミックスダブルスを組んでロンドン大会にも参戦。35歳まで現役を続け、2015年に競技に区切りをつけた。

現役中にプロに転身。「自己セールス」の難しさを経験

「僕は北京の後、自分の価値をマーケットに問いかけたくて、2009年にプロに転身したんです。今でこそ桃田賢斗(NTT東日本)などプロ契約選手は何人もいますが、当時は僕1人。終身雇用を捨てたわけですから、引退後は自分の食いぶちを稼ぐ算段をしなければいけない。そういう意識は高まりました」

 こう語る池田が最初に取り組んだのが、「自己セールス」だった。2013年3月末に日本ユニシスとのプロ契約が終了したため、スポンサー探しに迫られたのだ。当時在籍していたマネージメント会社を通して何社か話があったため、本人も楽観視していたが、半年経っても正式決定しない。焦燥感が募り、自分から動き出すことを決めたという。

「自分を売る活動を1年弱の間、必死にやりました。最初は『池田信太郎』という人間の魅力、バドミントン選手としての価値などを資料にまとめるところから始めたんですが、職務経験が皆無に近いので、全く書けない(苦笑)。6000円もするカラー印刷を頼んでしまうという失敗もありましたね。

 そのうえで、企業を回るんですが、『露出はあるんですか?』とストレートに聞かれる。当時はバドミントン中継もないし、SNSもFacebookが普及し始めたくらいで、今ほどの影響力がなかった。自分を売る材料が乏しかったんです。それでも何とかアピールしようと資料をブラッシュアップさせ、自己セールスのスキルを磨き、スポンサーを取り付けるところまでいった。その経験が僕を変えました」と彼はしみじみと述懐する。

独学で学び始めたマーケティングの世界へ

 こうした経験があったから、2015年の引退後は精力的に動き出せた。最初から「どこかの企業でマーケティングやサービスを作る仕事をやりたい」と考えた池田は、トップリーグ連係機構が主催するスポーツマーケティング講座を受講。これを機に独学でマーケティングを学び始めた。そんな時、同講座を通して知り合った外資系企業の担当者数人からダイレクトメッセージが届き、「ウチで働かないか」というオファーを受ける。その中の1社がオムニコム・グループ傘下にある世界最大級のコミュニケーション・コンサルティング企業、フライシュマン・ヒラード・ジャパン。現在、働いている会社である。

「最初はビックリしましたね。フライシュマンは事業の戦略構築やマーケティング及びパブリックリレーションに長けているグローバルトップカンパニー。クライアントとも外資の企業が多く、多種多様な企業と仕事もできるので、思い切って飛び込んでみようと思ったんです」

 引退から約1年後の2017年から契約し、スポーツ&エンターテイメント部門で業務に携わるようになった池田。ちょうどSNSが爆発的に普及しつつあった時期でもあり、企業は一方的にリリースを出したり、新商品の発表をしているだけでは回らなくなってきた。企業側と受け手の双方向から情報が発信され、レピテーションをマネジメントする時代へ移行したのを踏まえながら、いかにして理想的なブランドを構築していくべきかを日々、考えるようになったようだ。

「日本の企業は広告の文化が根強いですが、グローバルの観点から見ると少し違う。どのようにして企業や商品のメッセージを世論に伝えるか…という伝え方の意識が高いんです。僕はその重要性を広く知らしめたいですし、自分自身も多種多様なブランド構築の一助になりたい。そう考えながら仕事に取り組んでいます」と池田は高い志を持ち続けている。

 とはいえ、コンサル業務というのは受注しなければ始まらない。既存顧客からの相談ならまだハードルは低いが、他社との競合になればピッチということもある。池田もフライシュマン入り直後から大きな案件を任され、夜も寝られないほど考え、資料作りを進めることになった。選手時代とは全く異なる生活を強いられたのである。

「1時間のプレゼンがあるとしたら、誰がどの箇所を担当するのか、最後にディスカションの時間をチームマネジメントするといったような自分なりのストーリーを作らないといけない。資料はどういうものが分かりやすいか、クライアントの合意を得やすいか、説明の仕方はどうすべきなのか…といったことを何度もスタッフと話し合い、模擬プレゼンをやって本番に挑むというのは、本当に大変です。

 それで案件を受注できればいいですけど、必ずしも成功するわけではない。僕の場合は幸いにしてスタートから4連勝できたからラッキーだったけど、やはりうまくいかないこともある。アスリートも勝った負けたはありますけど、仕事は対価や成果を伴うので、日々、重圧を感じながら取り組んでいます」

現役時代の池田氏。テクニック溢れる名選手だった(本人提供)

東京五輪ではアスリート委員の活動も。「勝負は50歳まで」と自分を追い込む

 こうして外資系コンサルとなって5年間が経過したわけだが、池田が手掛けているのはフライシュマンの業務だけではない。「フライシュマンは6~7割」と言うように、他の活動にも携わっているのだ。

 その一例が東京五輪でのアスリート委員の仕事。これはボランティアという形だったが、2021年夏まで約2年間にわたって活動し、元オリンピアンとして選手村の居住スペースや飲食に関するアドバイスなどを担当した。

「選手・スタッフ合計で1万8000もの人々が過ごす選手村だけに、食事はビュッフェ方式ではないと回せない。東京大会ではそこに日本産の産品を使った食事を提供し、日本の食文化にも注目してもらおうとしたんです。当初は箸を使った所作などのレクチャーなども考えていて、それはコロナで全てできなくなったんですが、それでも、寿司や天ぷら以外の日本の食文化に世界中のアスリートが触れることができたのはいい機会。選手の心のよりどころにもなったと感じています」

 その他にも亜細亜大学での講義、バドミントンのキッズキャンプなど多彩な活動に関わりながら、忙しく過ごす池田。ビジネスの経験や蓄積も確実に増えているが、本人は「成長スピードを早めなければいけない」という危機感を抱いているようだ。

「僕は42歳なんですけど、仕事で突っ張っていけるのは50歳までじゃないかなと。あと8年間で自分の社会的価値をある程度、作っておかないと、目指すべき到達点にはたどり着けない。大きな山を越えられるような体制づくりを急ピッチで進めたいと思っています」

 「自己セールス」からビジネスの世界の扉を叩き、コンサル業務で自身のキャリアを切り開いた池田は稀有な存在だ。元トップアスリートという肩書に囚われず、努力とアグレッシブさで実績を積み上げる彼の生きざまは多くのビジネスパーソンの参考になるはず。池田信太郎という人物の存在に、ぜひとも注目していってほしいものである。(本文中敬称略)

取材・文/元川悦子
長野県松本深志高等学校、千葉大学法経学部卒業後、日本海事新聞を経て1994年からフリー・ライターとなる。日本代表に関しては特に精力的な取材を行っており、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは1994年アメリカ大会から2014年ブラジル大会まで6大会連続で現地へ赴いている。著作は『U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日』(小学館)、『蹴音』(主婦の友)『僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」(カンゼン)『勝利の街に響け凱歌 松本山雅という奇跡のクラブ』(汐文社)ほか多数。

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