朝から深夜まで叫び通しなんてこともある声優の仕事は、素人からは想像もつかないほど肉体に負担がかかる。声優・石川界人は、仕事前に朝からサウナに行き、心身ともに万全の状態にととのえてから、仕事に臨む。
仲間とサウナで男同士の語らいを
サウナに通うようになったきっかけは、尊敬する声優の大先輩でもあり、今の事務所の社長でもある浪川大輔さんからサウナの魅力を伺ったことでした。浪川さんは毎週のようにサウナに通っていて、その時のことをよく話してくださっていたんです。以前から興味もあったし、先輩がそんなにハマっているなら一度ぐらいは行ってみるか……と興味本位で始めたら、僕もまんまとドはまりしてしまいましたね。
サウナに通い始めたらもう止まらなくて多い時では週5〜6で行っていました。というのも声優にとってはやっぱり〝喉〟の調子をととのえることが一番大切です。僕たちは朝からの現場でも「うおおおおお!!」みたいなセリフを言わなければいけないんですよ。でも体が覚醒していない状態で無理に声を出してしまうと、当然喉には大きな負担になってしまう。だから朝起きて、仕事前にサウナに寄って寝た体を起こしてから仕事に臨んでいたんです。すると喉の調子も全然違って仕事のパフォーマンスが格段に上がりましたね。
それに声優の仕事は監督のディレクションへの瞬発力も求められるので、体が温まっていると肉体的にも思考的にも反応が良くなったのは意外なメリットでした。
あと、汗をかいてむくみもとれるのでグラビア撮影や番組出演の前にはサウナに行ってから体をメンテナンスしておきたいんですよ。実はこのインタビューに備えて、昨夜ひとりでサウナに行ってきました。
でもやっぱり周りも気づいているらしく、この前もAbemaTVの『声優と夜あそび』の収録前に気合いを入れるためにサウナに寄ったんですけど、そしたら収録中にプロデューサーから「おい、界人! 今日はととのってるな!」って言われて。
ひとりで行くサウナも好きですけど、今は声優仲間と行くサウナも同じくらい大切な時間です。「友人」ともよくサウナに行くんですよ。はじめは「おい! 水風呂、早く代われよ!」なんてはしゃいでるんですけど、何セットも繰り返していると、段々と頭もぼーっとしてきて普段は恥ずかしくてなかなかできない仕事の話とかプライベートの悩みとか自然と言葉になって出てくる。そういう男同士の裸のつきあいの時間もまた至高の時間ですね。
声優仲間でサウナ歴の長い花江夏樹さんや小野賢章さんは、サウナのために旅行をしたり、予約が難しい会員制のプライベートサウナに行くこともあるそうですが、僕はまだ行ったことがありません。今はサウナを特別な時間として楽しむより、日常の中での自分を大切にする時間として過ごしているのですが……最近気になっている憧れのサウナが新宿にありまして。いつかそういったところに行けるように、サウナの経験値を増やしていければいいなと思っています。
僕は好きになったことをすぐにしゃべってしまうので、先輩方に比べると恐れ多いのですが……最近はあ〝サウナ好き声優〟として取材機会をいただけるようになりました。そこでもお話ししたことがあるのですが、僕にとって「ととのう」とは、「水中に沈んでいくような感覚」。一方で僕にサウナを教えてくれた浪川さんは「宇宙に飛んでいく感覚」とおっしゃっていました。人それぞれのととのい方があるというのも、サウナのおもしろいところですよね。
朝7時に起きてサウナに行って、体全体を温める。
それからスタジオに入ると、喉の調子も良いんですよね。
サウナに何分間入るとか、ルーティンは決めてません。もちろん、水風呂も。
石川さんは、サウナに「己自身と向き合う時間」を求める。時間を決めずサウナ室に入り、言葉もなく汗を流し、己の中に没入していく──弱肉強食の演技の世界で活躍する超人気声優は、摂氏130度の中でつかの間の休息を楽しむ。
熱ッつ、熱ッつ、熱ッつぅ~!!
「The 錦糸町」はセルフロウリュであり、アウフグースも自分自身で行なわねばならない。サウナ上方にある熱気を自身のもとへと対流させるべく、呻きにも似た声を漏らしながら、無心にタオルを振り回した。
今日は2セットでととのいそうな気がしますね。
1セット目でほぼととのってましたから。
「サウナ→水風呂→外気浴」の1セットを3回程度繰り返すサウナ―が多い中で、彼は回数にとらわれず、自分が満足のいく状態を追求する。この日は体調が良かったこともあってか、サウナストーブを見つめながら「3セットもしなくてよさそう」と呟いた。