雇用保険料率は一定ではありません。手当を受ける可能性が高い人が多い業種ほど高く設定されています。加えて2022年には4月・10月の2段階で保険料率が上がる改正が行われます。改正後の雇用保険料の負担はいくらになるのでしょうか?
雇用保険料率は業種ごとに異なる
雇用保険は、一つの勤務先での雇用期間が1カ月以上の労働者が原則加入します。保険料は、事業主と労働者がそれぞれ決められた額を支払います。支払額の計算の際に使用するのが『雇用保険料率』で、業種を3種類の事業区分に分けて異なる割合を掛ける仕組みです。なぜ、雇用保険料率は、一律ではないのでしょうか。
3種類の事業区分のいずれかが適用
雇用保険の業種は以下の3種類に分類され、保険料率がそれぞれ異なります。保険料率は毎年国会で審議後、厚生労働省によって発表されています。
2022年度に改正が行われる前の保険料率は以下のようになっていました。
- 一般の事業:9/1,000(0.9%)
- 農林水産・清酒製造の事業:11/1,000(1.1%)
- 建設の事業:12/1,000(1.2%)
農林水産の事業・清酒製造の事業、建設の事業のどれにも該当しない場合は、全て『一般の事業』に分類されるルールです。
なぜ、業種によって雇用保険料率は違うのか
業種ごとに雇用保険料率が異なるのは、『業種ごとの就業率や助成金の種類や金額などの違い』です。就業率が低く雇用が不安定になりやすい業種ほど、雇用保険の失業給付を受ける可能性は高まります。
例えば、農林水産業や清酒製造は繁忙期と閑散期の差がはっきりしており、季節によっては仕事がなく雇用が途絶えやすい業種です。そのため、一般の事業と比べ高い雇用保険料率が設定されています。
建設の事業の雇用保険料率が高いのは、助成金の支給が多く受けられる恩恵が多いためです。公平に保険を運用するために、業種ごとに異なる保険料率が定められています。
そもそも雇用保険とは?
雇用保険の目的は、労働者の生活および雇用の安定と就職の促進です。仕事を失った労働者には再就職に向けた支援も行います。
そのために必要な保険料を負担するのは労働者と事業主です。労働者と事業主は、それぞれ以下にかかる保険料を賃金実績に応じて負担します。
- 労働者:失業等給付・育児休業給付
- 事業主:失業等給付・育児休業給付・雇用保険二事業(雇用安定事業と能力開発事業)
労働者が負担する保険料は給与や賞与から天引きされ、勤務先を通して支払う仕組みです。
『31日以上継続して雇用される見込みがあり、所定労働時間が1週間に20時間以上働いている』場合は、雇用形態にかかわらず雇用保険の対象となります。
雇用保険料率と負担割合
雇用保険料率は『労働者と事業主が負担する合計』の割合を示しています。労働者のみで、全ての保険料を負担しているわけではありません。
雇用保険の種類 | 労働者と事業主が負担する割合(料率) | 国庫負担 |
失業等給付 | 労使折半(2/1,000) | あり(割合の違いや対象外あり) |
就職支援法事業 | 労使折半(~2/1,000) | |
育児休業給付 | 労使折半(4/1,000) | |
雇用安定事業・能力開発事業(雇用保険二事業) |
事業主のみ負担(3/1,000) | なし |
雇用保険料率は法改正でどう変化する?
雇用保険法の改正により、2022年に雇用保険料率が引き上げられることとなりました。保険料率はどのように変わり、いつから適用されるのでしょうか?引き上げの目的や与える影響とともにチェックしましょう。
2022年の改定内容と適用開始時期
雇用保険料率を変更するには国会で審議し法改正を行わなければいけません。その上で厚生労働省が変更内容を発表する流れです。2022年には法改正により保険料率の引き上げが決定しています。
以下の表の通り4月・10月の2段階で引き上げられる内容です。
|
2022年4月1日~9月30日 |
2022年10月1日~2023年3月31日 |
||||||||
労働者負担 |
事業主負担 |
合計 |
労働者負担 |
事業主負担 |
合計 |
|||||
失業等給付・育児休業給付 |
雇用保険二事業 |
失業等給付・育児休業給付 |
雇用保険二事業 |
|||||||
一般の事業 |
3/1,000 |
6.5/1,000 |
9.5/1,000 |
5/1,000 |
8.5/1,000 |
13.5/1,000 |
||||
3/1,000 |
3.5/1,000 |
5/1,000 |
3.5/1,000 |
|||||||
農林水産・清酒製造の事業 |
4/1,000 |
7.5/1,000 |
11.5/1,000 |
6/1,000 |
9.5/1,000 |
15.5/1,000 |
||||
4/1,000 |
3.5/1,000 |
6/1,000 |
3.5/1,000 |
|||||||
建設の事業 |
4/1,000 |
8.5/1,000 |
12.5/1,000 |
6/1,000 |
10.5/1,000 |
16.5/1,000 |
||||
4/1,000 |
4.5/1,000 |
6/1,000 |
4.5/1,000 |
4月の引き上げは雇用保険二事業にかかる保険料率のみのため、労働者の負担はそれ以前と変わりません。10月の引き上げでは失業等給付・育児休業給付の保険料率も上がるため、労働者と事業主は各業種『0.2%ずつ』保険料率が引き上げられます。
参考:令和4年度雇用保険料率のご案内|厚生労働省
参考:雇用保険法等の一部を改正する法律案|参議院
雇用保険料率引き上げの目的と影響は?
2022年4月と10月に雇用保険料率が引き上げられるのは、『新型コロナウイルス拡大に伴う雇用情勢の変化に対応するため』『65歳以上の高齢者が雇用される機会を確保しやすくするため』です。雇用保険は対象者が新しい仕事に就くための支援を目的としているため、退職者の多い65歳以上の加入には厳しい条件が設けられていました。
労働人口が減少し続けている中、70歳までの雇用機会を確保する目的で決定したのが保険料率の引き上げです。保険料率が上がることで労働者も事業者も負担が増えます。家計にも会社の財政状況にも影響が出るでしょう。
改正後の雇用保険料率を使った計算式は?
改正後の雇用保険料率ではどのように保険料を計算するのでしょうか?年収400万円を例に実際にいくらの保険料を負担することになるか計算します。
賃金総額または賞与で計算する
雇用保険料の計算式は『雇用保険料率×賃金総額(月額)もしくは賞与額』です。賃金には基本的な月給や時給の他に、通勤手当や住宅手当などの各種手当や未払い金も含まれます。
賞与に関しては『3カ月以内ごとに支払われている場合』は対象です。支給の間が3カ月以上空くときには、雇用保険料の控除は行われません。金一封や大入り袋など恩賞として支給される賞与も対象外です。
また計算で端数が出たときには『通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律』3条に基づき、原則『50銭未満の場合は切り捨て、50銭以上1円未満の端数を切り上げ』をします(一部例外措置あり)。
参考:労働保険料の申告・納付|厚生労働省
参考:通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律 第三条| e-Gov法令検索
年収400万円で計算してみよう
2022年10月から適用される雇用保険料率を用い、労働者が負担する保険料がいくらになるか計算してみましょう。今回は2020年の『民間給与実態統計調査』を元に、年収400万円(月給約27万円)・賞与43万円を例に算出します。
賞与の支給が3カ月以上空く場合、賞与は計算の対象外です。業種ごとの保険料は以下のように算出されます。
- 一般の事業:約27万円×0.5%(5/1,000)=約1,350円
- 農林水産・清酒製造の事業:約27万円×0.6%(6/1,000)=約1,620円
- 建設の事業:約27万円×0.6%(6/1,000)=約1,620円
賞与が3カ月以内に支給されており雇用保険料の計算に含める場合には、先に算出した保険料に賞与で計算した保険料を足し合わせます。
- 一般の事業:(約27万円×0.5%)+(約43万円×0.5%)=約3,500円
- 農林水産・清酒製造の事業:(約27万円×0.6%)+(約43万円×0.6%)=約4,200円
- 建設の事業:(約27万円×0.6%)+(約43万円×0.6%)=約4,200円
参考:令和2年分 民間給与実態統計調査|国税庁
参考:令和2年分 民間給与実態統計調査「第3表 給与階級別の総括表」
構成/編集部