まるで白ワインと赤ワインのようにフードと〝ペアリングする〟楽しみ
キリンのスプリングバレー2種はそのまま飲んでもおいしいクラフトビールですが、冒頭で〝ワインのように香りを楽しみ語りを楽しむ〟とお伝えした通り、香りを楽しみながら、おいしいフードと〝ペアリング〟する楽しさがあるのです。
それでは、この2種類のクラフトビールでフードペアリングを楽しんでみましょう。
……とその前に、豊潤<496>とシルクエール<白>へ寄り添うグラスの形が異なることに注目して下さい。
スプリングバレーブルワリーのブランドアンバサダーで、〝ペアリングモンスター〟の別名をもつ中水さんによると、シルクエール<白>に合わせた脚(ステム)があるグラスは手の温度が伝わらず適温で最後まで楽しめ、また丸みのある体型は香りを豊かに感じることができるそう。一方の豊潤<496>に合わせたストレートタイプのグラスは、飲み口が大きいことで香りをダイレクトに楽しみつつ、手の温度が伝わるので温度変化による味わいを強く感じることができるとのこと。グラスへのこだわりもまた、クラフトビールを語る楽しみをもたらしてくれるのです。
実際2種を飲み比べたところ、豊潤<496>はコクと苦みがほどよくあわさり、香りも穏やかな印象。シルクエール<白>は清楚な柑橘系にも似たフルールティな香りが広がり、爽やかな味わいを楽しめるタイプに思えました。
注ぎ方にこだわれるのもこのクラフトビール2種の嬉しいポイント。豊潤<496>は味わいを引き出す〝二度注ぎ〟を、そしてシルクエール<白>は炭酸ガスを逃すことからビールには合わないと思われてきた、グラスを回す〝スワリング〟を積極的に推奨。香りを広げながらふわとろの泡を形作ってくれるのです。
さて、このクラフトビール2種はどんなフードとペアリングを楽しめるのでしょうか?
ハラミステーキとサーモンムニエルにペアリング
初めにハラミステーキとサーモンムニエルのペアリングを、中水さんはおすすめしてくれました。まさに赤ワインと白ワインの違いのように、赤の豊潤<496>にはハラミステーキを、シルクエール<白>にはサーモンムニエルを合わせます。
ちなみに中水さんによれば、ペアリングの基本は似た色と風味を合わせると相性がいいとのこと。そして、異なる風味……例えば塩味×酸味や甘味×苦味といった組み合わせは意外性を生み、予想外のペアマッチをみせることがあるそうです。
また、ペアリングやテイスティング時にはグラスいっぱいに注ぐのではなく、少し上のスペースに余裕をもたせるのがコツだそう。試す順序はお酒→フード→お酒の順。筆者も〝中水論〟に従いペアリングを楽しみます。
それでは実食して比較してみましょう。
豊潤<496>とハラミステーキの組み合わせは、シンプルにおいしいのひとこと。肉の濃厚な旨味に負けない豊潤<496>の力強さが絶妙でした。さらに、シルクエール<白>とサーモンムニエルは爽やかそのもの。サーモンに柑橘類を合わせたような爽快感がたまらない組み合わせでした。
バターチキンカレーとブラウンマサラにペアリング
続いて合わせたのは赤いバターチキンカレーと豊潤<496>、ココナッツの香りが心地良いブラウンマサラとシルクエール<白>という、カレー×クラフトビールの魅力的なフードペアリングです。
バターチキンカレーのコクは豊潤<496>のコクと寄り添うようにお互いを引き立て合います。さらにブラウンマサラのココナッツとシルクエール<白>のコンビは滑らかなのどごしをもたらします。まさに食欲は増すばかり……カレー×クラフトビールのペアリングは実に濃厚です。
みたらし団子とレモンケーキ
最後に試したフードペアリングはスイーツ×クラフトビール。果たして甘味と苦味は相性がいいのでしょうか? しかも和菓子とレモンケーキという、ビールにちょっと縁遠い組み合わせには興味しかありません。
みたらし団子と豊潤<496>のペアリングは意外でありますが、ともに粘るようなコクがあって思った以上の相性の良さを実感。スイーツの甘味をひきずらない爽やかさを豊潤<496>がもたらし、一方でビール独特の口に残る苦味を甘味が消すという相乗効果に、驚きも感じました。
また、レモンケーキとシルクエール<白>は柑橘系の香りがベストマッチ。爽やかであり甘さもありで、〝ビアスイーツ〟とでも呼びたくなるような心地よさでした。
クラフトビールのフードペアリングは食の喜びを深めてくれる素敵な時間
豊潤<496>とシルクエール<白>とフードとのペアリングをご紹介しました。筆者の率直な感想をお届けしたので、少しはクラフトビールとフードのペアリングの楽しさはお伝えできたかもしれませんが、百聞は一見にしかずならぬ、〝百読は一食にしかず〟。ご自身でその香り、味わい、旨味、苦味、甘味……を存分に楽しんでもらいたいものです。
ここまで、クラフトビールのフードペアリングをご紹介してきました。グラスを愛でて注ぎ方にこだわり、そしてクラフトビールの香りを楽しみながらフードを堪能する。こんな幸せな時間がみなさんの食卓にも訪れようとしているのです。これはまさに新文化といって過言ではないでしょう。そして、ビールがやや苦手という方にも、新たな味覚として楽しんでもらえるかもしれません。
いかがでしょう、クラフトビールとフードのペアリングという魅惑の世界。食の新定番となるまでにそう時間はかからなそう……そんな予感がするのは筆者だけではないはずです。
取材・文/中馬幹弘