2022年10月より、各都道府県の地域別最低賃金がさらに引き上げられる見込みとなりました。
近年では、毎年大幅に最低賃金が増額されています。特にパートやアルバイトの方で、時給が長いこと据え置かれている場合には、最低賃金を下回っていないかどうかをご確認ください。
今回は最低賃金の決定ルールや、022年10月からの引き上げ内容、最低賃金違反を見抜く方法などをまとめました。
1. 最低賃金とは
最低賃金とは、使用者が労働者に対して最低限支払う必要がある時給です。
労働基準法28条および最低賃金法により、使用者には最低賃金以上の賃金の支払いが義務付けられています。
1-1. 最低賃金は2種類|地域別最低賃金と特定最低賃金
最低賃金には「地域別最低賃金」と「特定最低賃金」の2種類があり、どちらか高い金額が適用されます。
①地域別最低賃金
各都道府県内で働くすべての労働者に適用される最低賃金です。
②特定最低賃金
各都道府県内で働く労働者のうち、特定の業種に従事する者に適用される最低賃金です。
1-2. 地域別最低賃金は毎年10月に改定される
都道府県ごとの地域別最低賃金は、中央最低賃金審議会・地方最低賃金審議会の答申を経て、毎年10月に改定されます。
特にここ数年では、毎年20~30円の引き上げが行われており、最低賃金の上昇傾向が顕著となっています。
<東京都の地域別最低賃金>
2016年10月1日~2017年9月30日 |
932円 |
2017年10月1日~2018年9月30日 |
958円 |
2018年10月1日~2019年9月30日 |
985円 |
2019年10月1日~2020年9月30日 |
1,013円 |
2020年10月1日~2021年9月30日 |
1,013円 |
2021年10月1日~2022年9月30日 |
1,041円 |
1-3. 2022年10月より、地域別最低賃金はさらに引き上げ予定
2022年8月23日に、同年10月から適用する地域別最低賃金の答申内容が公表されました。
答申内容によれば、すべての都道府県で前年比30~33円の引き上げが行われる見込みです。
<2022年10月から適用見込みの地域別最低賃金>
全国加重平均額 |
961円(前年比+31円) |
最高額 |
1072円(東京都、前年比+31円) |
最低額 |
853円(青森県・秋田県・愛媛県・高知県・佐賀県・長崎県・熊本県・宮崎県・鹿児島県・沖縄県、前年比+31~33円) |
参考:全ての都道府県で地域別最低賃金の答申がなされました|厚生労働省
2. 最低賃金違反はどのように判別する?計算方法を解説
実際の賃金が最低賃金を下回っているかどうかは、以下の方法で計算を行って判別します。
※以下で計算に用いる地域別最低賃金・特定最低賃金は、2022年8月25日現在のものとします。
2-1. 実際の時給を計算する
最低賃金と比較すべき実際の時給は、以下の式によって計算します。
①時間給制の場合
時給=時間給
②日給制の場合
時給=日給÷1日の所定労働時間
③月給制の場合
時給=月給÷1か月の平均所定労働時間
④出来高払制の場合
時給=賃金総額÷総労働時間
なお、時間給・日給・月給等には、以下の賃金(手当)は含まれません(最低賃金法4条3項、同法施行規則1条)。
・臨時に支払われる賃金
・1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
・時間外労働手当
・休日労働手当
・深夜労働手当
・精皆勤手当、通勤手当、家族手当
(例)
月給16万円、月平均所定労働時間160時間の場合
→時給は1,000円
2-2. 適用される最低賃金を確認する|地域別最低賃金or特定最低賃金
労働者に適用される最低賃金は、地域別最低賃金と特定最低賃金のうち、いずれか高い方です。
ご自身が働く都道府県と業種を基に、適用される最低賃金の金額を確認しましょう。
(例)千葉県で働く労働者の場合
①コンビニ店員のアルバイト
→953円(地域別最低賃金953円、特定最低賃金なし)
②鉄鋼業の作業員のアルバイト
→1,023円(地域別最低賃金953円、特定最低賃金1,023円)
③自動車(新車)の販売員のアルバイト
→953円(地域別最低賃金953円、特定最低賃金922円)
2-3. 実際の時給と最低賃金を比較する
上記の方法で計算した実際の時給と最低賃金を比較した際、実際の時給が下回っている場合には、最低賃金違反の状態です。
(例)千葉県で働く時給1,000円の労働者
①コンビニ店員のアルバイト
→最低賃金は953円なので、最低賃金違反ではない
②鉄鋼業の作業員のアルバイト
→最低賃金は1,023円なので、最低賃金違反に当たる
③自動車(新車)の販売員のアルバイト
→最低賃金は953円なので、最低賃金違反ではない
3. 賃金が最低賃金を下回っていることが発覚した場合の対処法
実際の賃金が最低賃金を下回っていることが発覚した場合、労働者が取り得る方法は主に以下の2つです。両方の対応を並行して行うこともできます。
①労働基準監督署に申告する
労働基準法違反(最低賃金違反)の事実につき、事業場の所在地を管轄する労働基準監督署に対して申告を行うことができます(労働基準法104条1項)。
使用者は、労働者が労働基準監督署への申告を行ったことを理由に、解雇その他の不利益な取扱いをしてはなりません(同条2項)。
②会社に未払い賃金を請求する
会社との交渉・労働審判・訴訟などの手続きを通じて、会社に未払い賃金の支払いを請求できます。弁護士の無料相談などを利用して、請求方法についてのアドバイスを求めるのがよいでしょう。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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