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求められる抜本的な経営改革、不正に揺れる日野自動車は変われるか?

2022.08.28

2022年8月22日、日野自動車が排出ガス劣化耐久試験に関する追加の不正行為が発覚したと発表しました。小型トラック「日野デュトロ」に搭載されているエンジンが不正行為の対象となり、出荷を停止しました。

これにより、国内向けのほぼすべてのトラックを出荷停止にするという、異例の事態へと発展しました。

日野自動車は今後の対応について国土交通省の指示に従うとしており、出荷再開時期は未定のままです。

トラック業界トップの日野自動車に何が起こっているのでしょうか。

国内のシェアトップを獲得するものの業績は伸び悩み

インターネットやSNSでは日野自動車の倒産も囁かれていますが、その可能性は低いでしょう。その理由は会社の財務体質が健全で、一時的な逆風に持ちこたえる体力を持っていること。そして日野自動車がトヨタ自動車の連結子会社であり、いざという時は救済される見込みが高いことです。

日野自動車の株価は不正発覚後、1,000円台から600円台に落ち込みました。しかし、追加の不正が発覚しても500円台で持ちこたえています。市場は悲観視していません。

2021年の国内大中型トラックのシェアで日野自動車はトップの38.2%。いすゞ自動車と激しくシェアを争っていますが、日野自動車は1973年から業界トップを走り続けてきました。

※日本自動車販売協会連合会「大中型貨物車メーカー別販売台数」より筆者作成

日野自動車の2022年6月末時点での自己資本比率は36.0%。800億円近い豊富な現金を有しており、財務体質は健全です。

ただし、中長期での業績の伸び悩みは鮮明になっていました。

国内のシェアは日野自動車がトップですが、不正発覚前から売上高はいすゞ自動車が上回っています。

※決算短信より筆者作成
日野自動車
いすゞ自動車

いすゞ自動車は中国や東南アジアなど、アジア圏を中心とした海外での販売数が多く、会社を成長軌道に乗せています。一方、日野自動車は需要が旺盛な海外での伸び悩みが鮮明。

本業で稼ぐ力を表す営業利益面でも、いすゞ自動車が有利に立っています。不正発覚前の過去7期の日野自動車の平均営業利益率は3.5%。いすゞ自動車は7.4%でした。

※決算短信より筆者作成
日野自動車
いすゞ自動車

トヨタ自動車の子会社である日野自動車は、トヨタ向けの車両を製造しています。その数は年間10万台以上。国内向けのトラック・バスの販売台数6万台を大きく上回ります。

日野自動車からすると、トヨタ自動車向けの車両製造は販売台数を多く稼げるというメリットがあるものの、安く卸さざるを得ないというデメリットがあります。トヨタ自動車への依存度が高いことが、利益率を押し下げている可能性が高いです。

問題解決ができない企業文化が形成

日野自動車は今回の不正により信用力を失いました。しかし、信頼回復に努めて会社を再成長させる転換点を迎えたと見ることもできます。不正発覚後、6月の株主総会で下義生氏は会長を退任。組織の風土を徹底的に入れ替えるチャンスができました。

そもそも、不正に至った背景に何があったのでしょうか。

「排出ガス」や「燃費性能」の不正行為は主に「パワートレーン実験部」と呼ばれる部署が行う、劣化耐久試験で発生しています。しかし、車両やエンジンのエンジニアは劣化耐久試験の内容を理解しておらず、適切な手順やスケジュールを把握していませんでした。

つまり、パワートレーン実験部に業務をすべて丸投げしていたのです。エンジン設計部は試験内容や実験の裏付けデータを得ることなく、管理職から燃費改善などの指示を安請け合いし、責任をパワートレーン実験部に押しつけていました。

日野自動車には、社員が一丸となってクルマづくりに励むという企業文化が欠如していたのです。

また、風通しが悪かったことも明らかになっています。今回の不正をきっかけに行われた社員へのアンケートで、何らかの問題を指摘すると率先してそれを解決しなければならない「言ったもの負け」文化があり、会社全体が「井の中の蛙」状態になっていたとの回答がありました。

また、問題を起こした担当部署や担当者は、他の部署が多く出席する会議の場で説明を求められ、それを「お立ち台」と呼んで毛嫌いしていたといいます。多くの社員は晒しものにされることを恐れていました。それが「言ったもの負け」文化を助長していたのです。

特別調査委員会の報告書を見る限り、経営陣や管理職が指示し、組織ぐるみで不正を行った痕跡はありません。窮屈な企業文化こそが、不正の温床となっていました。

トヨタ自動車の重役が日野自動車のトップに立つのが常識に

トヨタ自動車は、商用車の電動化を目的として設立した合弁会社コマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ(CJPT)から日野自動車を除名すると8月24日に発表しました。

CJPTは物流の脱炭素化やドライバーの負担軽減を目的として設立された会社。排出ガスや燃費性能の不正を起こした日野自動車は、その理念に反する行動をしており、除名処分されるのは当然と言えば当然。むしろ、最初に日野自動車の不正が発覚した2022年3月の時点で外されてもおかしくありませんでした。

トヨタ自動車は、追加で不正が発覚したことを重く受け止めたということなのでしょう。

ただし、50%超の株式を保有し、10万台の自社向け車両を製造している日野自動車を、切り捨てるようなことはしないはずです。

かつて三菱自動車工業のトラック・バス部門(現:三菱ふそうトラック・バス)は、組織ぐるみでリコール隠しを行いました。トラックの部品の一部が破損しやすい状態で出荷されており、それが結果として母子3人の死傷事故へと繋がります。

これほどの大問題を起こしましたが、最終的に三菱グループ(三菱重工業や三菱商事、三菱UFJ銀行)が増資を引き受け、倒産を免れました。

三菱ふそうトラック・バスは、投資ファンドのフェニックス・キャピタル支援のもとで再生を果たしました。

現在の日野自動車の代表取締役社長・小木曽聡氏は、トヨタ自動車の専務役員を務めていました。その前に代表を務めていた市橋保彦氏も、やはりかつてトヨタ自動車の専務でした。

経営トップはトヨタ自動車の内輪で固められているのです。そうした体制そのものが、日野自動車の企業風土を育んだ可能性もあり、抜本的な経営改革を図るべきときにきているのかもしれません。

取材・文/不破 聡

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